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    東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎日更新)

    海外ミステリ183位 女には向かない職業 P・D・ジェイムス

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     浪人中、鬱々としたときに、松戸の図書館で借りて鬱々としながら読んだ。それほど記憶に残らなかった。女探偵ものにしては地味だな、という感じ。P・D・ジェイムズは文学的に重厚、といえば聞こえはいいが、要するに晦渋で暗い作品ばかりなような気がしてちょっと敬遠していたが、企画とあれば仕方がない。ストーリーも何もかも忘れた状態で、25年ぶりに再読。

     読んでみたが、うん、これはわたしが悪かった。駆け出し女私立探偵コーデリア・グレイの孤立無援の捜査活動と、タイトルの「女には向かない職業」というところから、勝手に「ネオ・ハードボイルド」に連なる一冊だと思っていたが、これは正調の、イギリス伝統の謎解きミステリだったのである。謎解きとしては、きちんと押さえるべきところをしっかり押さえてあり、新米女探偵の推理と捜査を楽しみながら、すらすらと読んでしまった。

     このコーデリア・グレイという女探偵が、まあ、読者の男としては、「つい味方したくなってしまう」タイプの女性だ、というところに、本書がP・D・ジェイムズのメインのシリーズ・キャラクターであるダルグリッシュ警視を差し置いて183位に入ってしまう理由があるんだろう。小泉喜美子の翻訳がうまく、共同経営者バーニイの自殺により、探偵事務所を引き継ぐはめになった、助手としての仕事の経験しかないコーデリアが、この方法でほんとうにいいのか、と、死んだバーニイの教えてくれた警察ゆずりの捜査の鉄則を反芻しては、責任感に押しつぶされそうになりながら、半ばおっかなびっくり、捜査をしていく心の動きが、ダイレクトに伝わってくる。裏表紙の解説にまで、早川書房の編集者の筆が滑ったのか「かわいいコーデリア」などと書かれているので、ほんと、ミステリマニアの男というものはバカだなあ、と思う次第。

     謎についてもきちんとしており、これがまた、よくもまあこんな救いのない話を書いたなあ、というもの。特に犯人の行為には、「人間としてここまでするものなのか?」という、理屈抜きの狂気を感じる。犯行後の死体に対する処理もまたうまい。これをアクロバティックにひねると、マイクル・Z・リューインの某作品になるのだろうが、ジェイムズのこれも実に底意地の悪いひねりかただ。犯人も犯人だが、被害者も被害者である。

     また、たぶん読者サービスなのだろうが、結末近くになって、コーデリア・グレイと、バーニイの上役だった、P・D・ジェイムズのシリーズ探偵ダルグリッシュ警視との対話のシーンも設けられている。P・D・ジェイムズの根性の悪さが如実に出ており、普通のミステリ作家だと和気あいあいとした話し合いになるのだろうが、ここでのコーデリアとダルグリッシュの対話は、胃に穴が開くような深刻なものだ。だからよりコーデリアに味方したくなるという、P・D・ジェイムズ、どこまで計算したうえで小説を書いているのか、それともこれは作者の地なのか。まったく一筋縄ではいかない人である。

     この「東西ミステリーベスト100」には、同じコーデリアの活躍する「皮膚の下の頭蓋骨」も198位にランクインしており、うーむこれは、男がバカなのか、コーデリアが魔性の女なのか。たぶん内容がいいからであろうが、大学在学中に読んだが分厚く深刻で重苦しい小説だった記憶があるので、再読するのがちょい不安である。がんばれ自分。
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    ~ Comment ~

    Re: 面白半分さん

    P・D・ジェイムズの作風を考えると、もしかしたらコーデリア・グレイは、あの作家がぎりぎりまで考えた「あざとい」「あざとさを売る」女探偵なのではないか、と思えてきたです。

    シリーズが二作しか書かれなかったのも、「お前ら男ゆーもんは、こーゆーキャラ出したら喜んで買うんやろ! どないや!」ってあてつけ半分で書いたらほんとに売れちゃった、とかなって、ジェイムズ先生、内心忸怩としてたんじゃないか、とか、裏妄想が止まりません。

    それくらい「つい味方したくなってしまう」タイプの女探偵です。プリキュアでいったらシャイニールミナスタイプですな(←なんやねんそれは(笑))

    よかったら読んでみて下さい。ミステリとしてもよくできてます。

    NoTitle

    どのブックオフでも見かけますがなんとなく敬遠していました。
    ”「つい味方したくなってしまう」タイプの女探偵”ですか。

    それでは読んでみますかな。
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