FC2ブログ

    東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎日更新)

    海外ミステリ183位 はだかの太陽 アイザック・アシモフ

     ←箴言 1 →海外ミステリ183位 ヒルダよ眠れ アンドリュー・ガーヴ
     アシモフのミステリといえばそりゃあもう「黒後家蜘蛛の会」にとどめをさすわけだが、オールドなSFファンにとっては、「鋼鉄都市」でもって初めてSF世界で本格的な「謎解きミステリ」をやった作家、という印象のほうが強いかもしれない。つまり、それまでSFミステリでは当たり前だった「完全に不可能なこの事件の方法がわかった! Q光線を使うんだ」「おお、そうだったのか。で、Q光線って何なんだ」「ぼくと犯人しか知らない秘密技術だ。危険すぎて世界には公開していない」とかいうご都合主義に対して、あらかじめ「ロボット工学の三原則」という、読者が誰でも理解できるフレームを作品にはめてから、「さてそれを犯人は論理でもって破ったわけですが、あなたも破ることができますか? それができたとき、犯人はおのずから明らかになるでしょう」というようなアプローチでもって読者に迫る、ということを考え、みごとにやってのけた作家、なのである。「鋼鉄都市」は異様に変貌した未来の地球でもって、文字通り孤軍奮闘する人間の刑事イライジャ・ベイリと、彼に嫌悪感を抱かれながらもひたすらロボットとしてサポートする、人間そっくりのロボット、R・ダニール・オリヴォーのコンビが活躍する話だったが、本書「はだかの太陽」はそのコンビが、地球人を目の敵にしている異様に変貌した未来の植民惑星で文字通りに孤軍奮闘する話である。中学生の時に図書館で読み、強烈な印象を受けたが、よく考えたらそれっきり読んでない。虚心坦懐な気持ちで再読。

     というわけで、バーミヤンでカツ丼をがつがつと食べながら読んだが、なんというか、こんな絶望的な世界が与えられているのに、アシモフ先生のオプティミズムが全編から感じられて、読後感は非常によろしい。タイトルの「はだかの太陽」という文字に込められたアシモフのメッセージが、どこかソクラテスやプラトンのそれと重なってくる。そういった意味で、アシモフの未来史におけるひとつの「転換点」ともいえる長編なのだ。本書がなかったら、「鋼鉄都市」的な未来への潮流と、「銀河帝国興亡史」の未来への潮流は結ばれない、といっても過言ではない。おそらく、本書があったから、アシモフも「ファウンデーションの彼方へ」で未来史の統一というプロジェクトをやる気になったんだろうな。

     アシモフのオプティミズムと論理的思考能力は、見事に「ロボットもの」の未来史と「銀河帝国もの」の未来史を統合、融合させて、80年代に、ひとつの「人類の次代の範となるべき未来世界」を描き出すことに成功したけれど、それが「新しい波が流れ去った後、堅い岸辺が現れる」という言葉で代表される、70年代の「ニュー・ウェーブ」運動が退潮した後の「堅い岸辺」の「堅さ」を実証したかというと、実際問題としてそれはどうかと思う。当時の作品を再読して痛感するのは、「内宇宙」を探索しようというニュー・ウェーブのさまざまな実験が、「失敗」に終わったことで、「堅い岸辺」の脆弱性が誰の目にも明らかになってしまった、という厳然たる事実である。「理性」と「論理」と「オプティミズム」がどんな完璧な未来社会をこしらえようとも、アーシュラ・K・ル=グィンの恐るべき掌編「オメラスから歩み去る人々」はそこに内在する「欺瞞」を明らかにし、その理想郷で安楽に生活することの「欺瞞」をわれわれの眼前に突きつける。

     結局のところ、人間はどこにも「安住」させてくれるところなどは存在せず、ひたすらに放浪を続けていなければならない存在なのだろう。そのとき、アシモフのオプティミズムは、人類を導く灯となるか、人類を迷わせるだけの幻の光に過ぎないのか。わたしにはわからない。
    関連記事
    スポンサーサイト






    もくじ  3kaku_s_L.png 風渡涼一退魔行
    もくじ  3kaku_s_L.png 鋼鉄少女伝説
    総もくじ  3kaku_s_L.png ほら吹き大探偵の冒険(児童文学)
    総もくじ  3kaku_s_L.png 夢逐人(オリジナル長編小説)
    総もくじ  3kaku_s_L.png 残念な男(二次創作シリーズ)
    総もくじ  3kaku_s_L.png ショートショート
    総もくじ  3kaku_s_L.png 紅探偵事務所事件ファイル
    総もくじ  3kaku_s_L.png 銀河農耕伝説(リレー小説)
    もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
    もくじ  3kaku_s_L.png リンク先紹介
    もくじ  3kaku_s_L.png いただきもの
    もくじ  3kaku_s_L.png ささげもの
    もくじ  3kaku_s_L.png その他いろいろ
    もくじ  3kaku_s_L.png SF狂歌
    総もくじ  3kaku_s_L.png 剣と魔法の国の伝説
    もくじ  3kaku_s_L.png 映画の感想
    もくじ  3kaku_s_L.png 家(
    もくじ  3kaku_s_L.png 懇願
    もくじ  3kaku_s_L.png TRPG奮戦記
    もくじ  3kaku_s_L.png 焼肉屋ジョニィ
    もくじ  3kaku_s_L.png ご意見など
    もくじ  3kaku_s_L.png おすすめ小説
    もくじ  3kaku_s_L.png X氏の日常
    【箴言 1】へ  【海外ミステリ183位 ヒルダよ眠れ アンドリュー・ガーヴ】へ

    ~ Comment ~

    Re: 面白半分さん

    「はだかの太陽」にはさらに続編「夜明けのロボット」がありまして、老境に差し掛かったイライジャの姿が見られるのですが、今では入手困難みたいです。さらに「銀河帝国興亡史」と本格的につながる「ロボットと帝国」ではこのふたりのかかわった事件の「その後」が語られましてな。延々と続いた流れは、「銀河帝国興亡史」最終巻の「ファウンデーションと地球」においてとんでもないクライマックスを迎えることになるのですが、別にそこまでアシモフおたくになる必要もないか(笑)。

    ヒマとお金があったらトライしてみてください。(^^)

    NoTitle

    「鋼鉄都市」のコンビの作品って確かあったなと思っていたらこれでしたね。
    すっかり忘れていました。

    もう一度「鋼鉄都市」読んでそれから本作読みます。

    Re: 椿さん

    アシモフはなんだかんだいってどれも面白いですよ。御三家と呼ばれただけはありますな。

    読んでないのだったら「銀河帝国興亡史」を。名将の知略など、文明の進歩を見据えた国家の長期的な政略の前には全くの無力ということがよくわかる作品です。

    NoTitle

    「オメラスから歩み去る人々」は衝撃的な作品でした。(ル・グゥインは好き)
    アシモフは、読んでみようと思いつついまだに「黒後家蜘蛛の会」しか読んでいないままです……。


    管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

    ~ Trackback ~

    卜ラックバックURL


    この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

    • 【箴言 1】へ
    • 【海外ミステリ183位 ヒルダよ眠れ アンドリュー・ガーヴ】へ