東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎日更新)
海外ミステリ183位 ヒルダよ眠れ アンドリュー・ガーヴ
海外の作家の名前については、見た端から忘れるタイプの名前と、なんだかよくわからないけれど脳細胞の片隅にへばりついて、いつまでたっても忘れることができないタイプの名前があると思う。わたしにとって後者の中では、その代表的選手が「マッギヴァーン」とこの「ガーヴ」なのだ。妙なところに、日本語では出てくるはずのない「ヴ」をからませてくるのが、その原因だろうと思う。また、このガーヴが印象に残っているのは、創元推理文庫の解説目録で、ぽつんと「諜報作戦/D13峰登頂」という小説「だけ」で居座っていたことにもよるのかもしれない。そんな、一般的には冒険小説家としてのほうが知名度が高そうなガーヴの代表作といわれるものが、この「ヒルダよ眠れ」である。妻殺しの犯人に仕立て上げられようとした平凡な公務員の冤罪を晴らそうと、ひさしぶりにロンドンにたまたま帰ってきていた男がたった一人で調査を始める、という、どこかで聞いたようなシチュエーションの、なにとはいわないが「幻の女」みたいなシチュエーションのサスペンスである。各務三郎の「ミステリ散歩」で概略を読んだから、本書がそんな甘いロマンチック・サスペンスではないことを知ったうえで読書開始!
で、読んだわけであるが、本書の事実上の主人公である、殺された女ヒルダ・ランバートについてのガーヴの筆鋒、ヒルダに甘すぎるように思う。日本の新聞の三面記事をちらっと眺めれば、もっと恐るべき家族像が山ほどあるのであり、1950年という発表年代を考えたとしても、もっとヒルダの魔性を抉り出すように書くべきではなかったかと思えてならない。ヒルダの娘、ジェーンの描写などを読んでいると、「ジェーンがこうなるんだったらヒルダはもっとひどくなくちゃいかんのではないか」と思う。そこらへんを突っ込んでいくとスティーヴン・キングや天藤荒太になってしまうので避けるが、結局はそういうことだ。どうも、悲惨なことを悲惨なこととして伝える筆が、ガーヴはどことなく途中で萎えているような感じがするのである。
だからといってつまらないわけではない。殺されたヒルダの生活を追うことによって真犯人に迫ろうという、探偵役マックスのしろうと探偵ぶりは共感を誘うし、その追跡行で出会う人々の姿は生き生きとしている。なぜか、を考えて、はっとひらめくものがあった。この小説は、ガーヴの実体験なのではないか。
小説を書いたり、絵を描いたりする人間にとって、必ずぶつかるイヤな存在、その象徴がヒルダなのではないだろうか。そう考えると、この小説のテーマがはっきりと見えてくる。つまり、本書は、ヒルダという人物に仮託した、「ミステリファンあるある小説」なのだ。「オタクあるある小説」といってもいい。オタクがどれだけ自分の趣味に対して熱弁を振るっても、にこにこしているだけで、しゃべり倒したオタクが肩で息をしている横で、「それでもこの家とあなたのことを考えると、そのコレクションは処分したほうがいいと思うの」って発言する、「人の話をまったく聞く気がないヤツ」という不気味な存在、オタクという生活をしていたら絶対接近遭遇したことがあるはずだ!
そういう意味で、ガーヴはいきなりデビュー作で「古典」を書いてしまった人なのだろう。この本を書くまでに、ガーヴがどれだけのオタなコレクションを処分させられることになったのかは推測の余地を出ないが、わたしはガーヴに涙する。一種の感涙小説か。うむむ。
で、読んだわけであるが、本書の事実上の主人公である、殺された女ヒルダ・ランバートについてのガーヴの筆鋒、ヒルダに甘すぎるように思う。日本の新聞の三面記事をちらっと眺めれば、もっと恐るべき家族像が山ほどあるのであり、1950年という発表年代を考えたとしても、もっとヒルダの魔性を抉り出すように書くべきではなかったかと思えてならない。ヒルダの娘、ジェーンの描写などを読んでいると、「ジェーンがこうなるんだったらヒルダはもっとひどくなくちゃいかんのではないか」と思う。そこらへんを突っ込んでいくとスティーヴン・キングや天藤荒太になってしまうので避けるが、結局はそういうことだ。どうも、悲惨なことを悲惨なこととして伝える筆が、ガーヴはどことなく途中で萎えているような感じがするのである。
だからといってつまらないわけではない。殺されたヒルダの生活を追うことによって真犯人に迫ろうという、探偵役マックスのしろうと探偵ぶりは共感を誘うし、その追跡行で出会う人々の姿は生き生きとしている。なぜか、を考えて、はっとひらめくものがあった。この小説は、ガーヴの実体験なのではないか。
小説を書いたり、絵を描いたりする人間にとって、必ずぶつかるイヤな存在、その象徴がヒルダなのではないだろうか。そう考えると、この小説のテーマがはっきりと見えてくる。つまり、本書は、ヒルダという人物に仮託した、「ミステリファンあるある小説」なのだ。「オタクあるある小説」といってもいい。オタクがどれだけ自分の趣味に対して熱弁を振るっても、にこにこしているだけで、しゃべり倒したオタクが肩で息をしている横で、「それでもこの家とあなたのことを考えると、そのコレクションは処分したほうがいいと思うの」って発言する、「人の話をまったく聞く気がないヤツ」という不気味な存在、オタクという生活をしていたら絶対接近遭遇したことがあるはずだ!
そういう意味で、ガーヴはいきなりデビュー作で「古典」を書いてしまった人なのだろう。この本を書くまでに、ガーヴがどれだけのオタなコレクションを処分させられることになったのかは推測の余地を出ないが、わたしはガーヴに涙する。一種の感涙小説か。うむむ。
- 関連記事
-
- 海外ミステリ183位 消えた消防車 ペール・ヴァールー&マイ・シューヴァル
- 海外ミステリ183位 ヒルダよ眠れ アンドリュー・ガーヴ
- 海外ミステリ183位 はだかの太陽 アイザック・アシモフ
スポンサーサイト
もくじ
風渡涼一退魔行

もくじ
はじめにお読みください

もくじ
ゲーマー!(長編小説・連載中)

もくじ
5 死霊術師の瞳(連載中)

もくじ
鋼鉄少女伝説

もくじ
ホームズ・パロディ

もくじ
ミステリ・パロディ

もくじ
昔話シリーズ(掌編)

もくじ
カミラ&ヒース緊急治療院

もくじ
未分類

もくじ
リンク先紹介

もくじ
いただきもの

もくじ
ささげもの

もくじ
その他いろいろ

もくじ
自炊日記(ノンフィクション)

もくじ
SF狂歌

もくじ
ウォーゲーム歴史秘話

もくじ
ノイズ(連作ショートショート)

もくじ
不快(壊れた文章)

もくじ
映画の感想

もくじ
旅路より(掌編シリーズ)

もくじ
エンペドクレスかく語りき

もくじ
家(

もくじ
家(長編ホラー小説・不定期連載)

もくじ
懇願

もくじ
私家版 悪魔の手帖

もくじ
紅恵美と語るおすすめの本

もくじ
TRPG奮戦記

もくじ
焼肉屋ジョニィ

もくじ
睡眠時無呼吸日記

もくじ
ご意見など

もくじ
おすすめ小説

もくじ
X氏の日常

もくじ
読書日記

~ Trackback ~
卜ラックバックURL
⇒
⇒この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
~ Comment ~