東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎日更新)
海外ミステリ183位 消えた消防車 ペール・ヴァールー&マイ・シューヴァル
最初にこれを読んだのは高校生のときだ。水戸から土浦に引っ越してきて嬉しかったのは、古本屋がたくさんあることと、本屋がたくさんあることだった。特に新刊書店は、家からちょっと歩けば三軒もあり、毎日、どこにしようか、と考えてはにやにやしていたものだ。それがまさか、十年もしないうちにほとんどが閉店し、今ではブックオフさえも撤退、新刊書店も壊滅状態に陥ろうとは。とほほである。話を戻すと、土浦で一番行きつけにしていた古本屋では、「三冊百均棚」が異常に充実していた。当時のわたしは受験生であり、勉学に激しく勤しまなければならない立場であったが……最低でも50円が当たり前だった世界で、「三冊百円」の誘惑に、人間どこまで抗しきれるか、と言うと、まあ、お察しください。というわけで、日参しては片端から本を買った。そのうちの一冊が本書である。同じ作者の「笑う警官」が好みでなかったうえ、タイトルからして「消えた消防車」である。その上分厚い。何も期待せず、あきらめきって読んでみた。
……悶絶するほど面白かったことを昨日のように思い出す。思うに、当時スウェーデン語に堪能な訳者を持っていなかった角川は、名訳者高見浩に英語版からの重訳をさせたわけだが、その英語版を作ったアメリカの会社の編集者が、ノリノリで手を入れたのだろう。本書において活躍するのは、家庭問題に苦しむ根暗な捜査官マルティン・ベックではなく、鉄の心と強靭な腕力、そして事件に一度食いついたら絶対に離さない執念を持つ肉体派の捜査官グンヴァルド・ラーソンであり、そしてここには書かないが、ストックホルムとは管轄の違うよその町で、マイペースに仕事をする別の陽気な警察官なのである。それがアメリカの警察小説のノリとマッチし、角川の旧版ではこの巻だけが段違いに面白くなってしまった理由だろう。
そして今、21世紀になって、角川書店は、スウェーデン語原典からの訳でもって、「新装版」シリーズを出し始めたのだ。北欧ミステリの隆盛もさることながら、何という英断ぶりか。作者のシューヴァル&ヴァールー夫妻によると、このマルティン・ベックシリーズは、全十巻の作品がひとつの大河小説を形作り、1960年代半ばからの10年間のスウェーデン社会の変遷を描き出す、という趣向だそうな。これは、十冊そろうまで待って、一気読みするのが正しい読み方であろうが、残念だが、十冊そろうまで待っていたら、この企画がつぶれてしまうので、心を空しくして新版の「消えた消防車」を読んだ。
高校のときと同様、実に面白かった。会社の休み時間をフルに使って、それでも続きが読みたくてたまらず、バーミヤンに飛び込むまで待つことができずに、そのまま駅前の喫茶店に飛び込み、梅茶漬けを食べながら、このワールドワイドな事件を堪能した。
そして、一息ついてからあとがきを読んだ。最後の段落に何か書いてあるぞ。えーと、なになに。『その試みだが、どうやらこの「消えた消防車」でいったん停止するようである』……は? 『未完の試みとなってしまいそうである』……なんですと? 『残念である』『どうか、続刊を求める声をあげていただきたいものである』
角川ァ! てめえ、高見浩バージョンは十冊きちんと訳したじゃねえか! なんでそれが今度は五冊で中断なんだこの野郎! それじゃ蛇の生殺しだろうが! 「けもフレ」事件といい、もう許せん。呪われやがれこん畜生! このウンポコチャッピーが! あんぎゃ~!
……悶絶するほど面白かったことを昨日のように思い出す。思うに、当時スウェーデン語に堪能な訳者を持っていなかった角川は、名訳者高見浩に英語版からの重訳をさせたわけだが、その英語版を作ったアメリカの会社の編集者が、ノリノリで手を入れたのだろう。本書において活躍するのは、家庭問題に苦しむ根暗な捜査官マルティン・ベックではなく、鉄の心と強靭な腕力、そして事件に一度食いついたら絶対に離さない執念を持つ肉体派の捜査官グンヴァルド・ラーソンであり、そしてここには書かないが、ストックホルムとは管轄の違うよその町で、マイペースに仕事をする別の陽気な警察官なのである。それがアメリカの警察小説のノリとマッチし、角川の旧版ではこの巻だけが段違いに面白くなってしまった理由だろう。
そして今、21世紀になって、角川書店は、スウェーデン語原典からの訳でもって、「新装版」シリーズを出し始めたのだ。北欧ミステリの隆盛もさることながら、何という英断ぶりか。作者のシューヴァル&ヴァールー夫妻によると、このマルティン・ベックシリーズは、全十巻の作品がひとつの大河小説を形作り、1960年代半ばからの10年間のスウェーデン社会の変遷を描き出す、という趣向だそうな。これは、十冊そろうまで待って、一気読みするのが正しい読み方であろうが、残念だが、十冊そろうまで待っていたら、この企画がつぶれてしまうので、心を空しくして新版の「消えた消防車」を読んだ。
高校のときと同様、実に面白かった。会社の休み時間をフルに使って、それでも続きが読みたくてたまらず、バーミヤンに飛び込むまで待つことができずに、そのまま駅前の喫茶店に飛び込み、梅茶漬けを食べながら、このワールドワイドな事件を堪能した。
そして、一息ついてからあとがきを読んだ。最後の段落に何か書いてあるぞ。えーと、なになに。『その試みだが、どうやらこの「消えた消防車」でいったん停止するようである』……は? 『未完の試みとなってしまいそうである』……なんですと? 『残念である』『どうか、続刊を求める声をあげていただきたいものである』
角川ァ! てめえ、高見浩バージョンは十冊きちんと訳したじゃねえか! なんでそれが今度は五冊で中断なんだこの野郎! それじゃ蛇の生殺しだろうが! 「けもフレ」事件といい、もう許せん。呪われやがれこん畜生! このウンポコチャッピーが! あんぎゃ~!
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続刊希望待ったなしですね。
翻訳ものは当たり前のように打ち切られますが、シリーズ全巻出すと言ったからには初心貫徹してほしいものです。
集英社ですが、私が気に入っていたホームズのパスティーシュのシリーズも打ち切られちゃったしなあ……。サフォンの新刊だけは出してほしいものですが。
翻訳ものは当たり前のように打ち切られますが、シリーズ全巻出すと言ったからには初心貫徹してほしいものです。
集英社ですが、私が気に入っていたホームズのパスティーシュのシリーズも打ち切られちゃったしなあ……。サフォンの新刊だけは出してほしいものですが。
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Re: 椿さん
ゲームブックの話ですが、海外の作品の全五巻のロングキャンペーンもので、陰謀は暴いた、仲間は強くなった、必殺の武器も手に入れた、後は敵のボスの本拠へ殴り込みに行くだけだ! で終わる第四巻が邦訳され出版されたところで、最終巻を残して邦訳が打ち切られた、という信じがたい実話があります(^^;) 「ブラッド・ソード」というシリーズですがね。
アマゾンのレビューを見ていたら「20年間続きが気になってます」って人がいて、気の毒だったなあ。
ここまで電子出版が発達した現在では、そういうことがないようにしてほしいんですけど、権利関係とかも難しいのかなあ。よくわからん。