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    東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎日更新)

    海外ミステリ183位 緊急深夜版 ウイリアム・マッギヴァーン

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     浪人中に松戸の図書館で借りて読んだ。読んでいてちょっと赤面したのを覚えている。エロ描写とかはまったくない、ガチガチのハードボイルドなのだが、マッギヴァーン先生、あまりにもマジメなのだ。主人公はカッコいいし面白いんだけど、完全に時代遅れなのだ。予備校の寮で「うーん……」とかいってしまったなあ。その時のことを思い出して25年ぶりに再読。

     というわけで読んだわけだが、やっぱりちょっとこそばゆかった。こんな話。ボスたちが市に君臨し、腐敗しきったアメリカのとある地方都市で、市政の一新と改革を訴える対立候補が、後ろ暗いところのある女を殺した容疑で逮捕された。現場の状況に不審を抱いた「コール・ブリティン」誌の記者サム・ターレルは、市の上層部とつながって腐敗の極致にある警察を敵に回して独力で調査を開始するのだが、ターレルが真相に近づけば近づくほど、敵側は卑劣な策を弄して調査を妨害するのであった。そしてついにターレルの身にも危険が……。この時点で思わず笑っちゃった人、いるんじゃないかな。もうベタベタというか、これで最後に正義が逆転勝利をおさめなかったらウソだ、というような話である。1957年度作品とはいえ、こういう話が、日本では「問題の作品である」などと裏表紙の宣伝文に書かれてしまうわけだから、時代の流れというか、なんというか。映画化したら主役のターレルをやるのはヘンリー・フォンダかな、とか考えてしまうような代物なのだ。

     とか考えながらにやにや読んでいたが、よく考えると、この小説で抉り出されている、政治の上層部の腐敗と、完全に腐敗に対抗することをあきらめきった市民たち、搾取されまくる一方の貧民層、警察の横暴とマスコミの無力、というのは、21世紀の今になっても全然変わっていないことに気づいて寒気を覚えるのもまた事実。アメリカでは反体制の新聞が、大統領と丁々発止でやりあって、『フェイクニュース』とかいう「権力側がそれをいうか」みたいな発言を大統領本人から引き出しているからまだ救いはあるが、この日本ときたら、ちょっとでも政権与党に噛みついて硬派なマスコミぶりをアピールしようとしただけで、政権与党支持者から猛烈なバッシング、いや、公開の暴力を受けかねないのだから1957年のアメリカも真っ青の「腐敗した権力がやりたい放題の世界」である。いや、すごいなあ日本。こんな中で本書のサム・ターレル記者みたいな行動をしたら、たちまちのうちに記事はボツにされ、記者はドラム缶にコンクリ詰めされて太平洋沖に沈むことだろう。いやあほんとに、すごいなあ日本。

     この小説において、最終的に「ペンは剣に勝つ」わけであるが、それがいくらかでもリアリティある小説として書くことができた1957年代のアメリカは、やっぱり市民による『自浄作用』というものが期待できたのかもしれない。その『自浄作用』のみに国が由来しているようなところが、陪審制を重視するアメリカにはある。それに対して、日本においては、『自浄作用』のかわりに、江戸時代から徹底して、改革は上から行われるものであった。『水戸黄門』はリアリティを持って受け入れられる国ではあっても、この『緊急深夜版』はウソくささを伴ってしか受け入れられない国なのである。それがいいのか悪いのかは、国民ひとりひとりの見識によるとしかいえないが、まあ、長生きはできるかもしれないが健康ではない国、なのではないかな、と思えてならぬ。そういった意味の健康管理をしたほうが、「戦争ができる国」よりももっと「まともな国」に近づく一歩ではないだろうか。2012年版ではベスト200から完全圏外に落ちたようだが、マッギヴァーンはあまりにも手あかがつきすぎているがゆえに忘れ去られるべき、というのは著しくマッギヴァーンに不当だと思う。
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    ~ Comment ~

    Re: 椿さん

    サラリーマンが企業内改革をする話の第一話が、「社長とプライベートな友だちになる」から始まる国ですからねえ(笑)

    まあどちらがマシとはいわないですが、大丈夫なのか、と不安にはなりますな(^^;)

    NoTitle

    「組織を変えたいのならその組織の中で偉くなれ」が正論として言われる社会ですからね。(一理ある言葉だとは思いますが)
    正義の記者が社会悪と戦って勝利をおさめるより、転生チート主人公が無双する方がフィクションとしても納得がいくのかもしれません。怖。(^^;
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