「ナイトメアハンター桐野(二次創作長編小説シリーズ)」
4 天使を吊るせ(完結)
天使を吊るせ 3-4
教授か。
わたしは鼻白むのを感じた。
こんな凡才のもと医者でも一度はあこがれたことがある肩書きだったから、その言葉の発する妖しい魅力については知りすぎていたが、それでも、こんな団体が軽々しく使うのには嫌悪の情を禁じえなかった。
「……どうかしましたか?」
杉内が長身を曲げるようにかがめ、下からわたしの顔を見つめていた。
「……いえ。ちょっと」
わたしは適当な言葉でごまかしかけて、ここが名目上どういうところであるかを思い出した。
苦笑いする。
「いや、この場所で隠し事はできない相談でしたね。なんといっても、心理学研究所ですからね」
杉内も苦笑いした。
「桐野さん、そんな……」
「いや、いいんです。わたしが、教授、という言葉をこういう団体が使うことに不快感を抱いたことは確かですからね」
杉内の苦笑いは、普通の明るい笑顔に変わった。
「正直な人ですね。それに、理性もある」
「わたしの場合、正直でなかったら、生きていかれない」
「優しくなかったら、生きている資格がない、ですか」
わたしの台詞に対し、杉内はミステリファンらしいところを見せた。チャンドラーの名文句だが、彼にとっては大藪晴彦のそれかもしれない。
「さて、無駄口はこれくらいにして、まずはどこから見ますか?」
そういわれて、わたしはきょろきょろと辺りを見回した。
壁に案内図があった。
「とりあえずあれを……」
そういいかけたところで、杉内のポケットに挿されているものに気づいた。
小型の館内の案内図だった。
杉内は自分のポケットに目をやると、頭をかいた。
「失礼。忘れてました。人を案内する係には、つい最近任命されたばかりなので」
ポケットから折りたたまれた紙を取り出すと、わたしに手渡してくれた。
「ほかにパンフレットとかないんですか? ネットでは詳しいことがわからなくて」
わたしは案内図を開いて尋ねた。
「ありますよ。でも、館内を見て回るのには、邪魔になりますしね。一回りしてここに戻ってきたら、また差し上げます。それまで我慢してください」
我慢なんてしていないが。
「じゃあ、まずは大ホールからご案内しましょう。学会はそこで開かれるんです」
わたしは杉内の後についていった。
わたしは鼻白むのを感じた。
こんな凡才のもと医者でも一度はあこがれたことがある肩書きだったから、その言葉の発する妖しい魅力については知りすぎていたが、それでも、こんな団体が軽々しく使うのには嫌悪の情を禁じえなかった。
「……どうかしましたか?」
杉内が長身を曲げるようにかがめ、下からわたしの顔を見つめていた。
「……いえ。ちょっと」
わたしは適当な言葉でごまかしかけて、ここが名目上どういうところであるかを思い出した。
苦笑いする。
「いや、この場所で隠し事はできない相談でしたね。なんといっても、心理学研究所ですからね」
杉内も苦笑いした。
「桐野さん、そんな……」
「いや、いいんです。わたしが、教授、という言葉をこういう団体が使うことに不快感を抱いたことは確かですからね」
杉内の苦笑いは、普通の明るい笑顔に変わった。
「正直な人ですね。それに、理性もある」
「わたしの場合、正直でなかったら、生きていかれない」
「優しくなかったら、生きている資格がない、ですか」
わたしの台詞に対し、杉内はミステリファンらしいところを見せた。チャンドラーの名文句だが、彼にとっては大藪晴彦のそれかもしれない。
「さて、無駄口はこれくらいにして、まずはどこから見ますか?」
そういわれて、わたしはきょろきょろと辺りを見回した。
壁に案内図があった。
「とりあえずあれを……」
そういいかけたところで、杉内のポケットに挿されているものに気づいた。
小型の館内の案内図だった。
杉内は自分のポケットに目をやると、頭をかいた。
「失礼。忘れてました。人を案内する係には、つい最近任命されたばかりなので」
ポケットから折りたたまれた紙を取り出すと、わたしに手渡してくれた。
「ほかにパンフレットとかないんですか? ネットでは詳しいことがわからなくて」
わたしは案内図を開いて尋ねた。
「ありますよ。でも、館内を見て回るのには、邪魔になりますしね。一回りしてここに戻ってきたら、また差し上げます。それまで我慢してください」
我慢なんてしていないが。
「じゃあ、まずは大ホールからご案内しましょう。学会はそこで開かれるんです」
わたしは杉内の後についていった。
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~ Comment ~
我が家に最近なんだかいや~な感じの宗教信者さんが来ました。
あの人、いったいどこの国の人だったんだろう…σ(^ω^;)
桐野先生、気をつけて!
あの人、いったいどこの国の人だったんだろう…σ(^ω^;)
桐野先生、気をつけて!
- #745 佐槻勇斗
- URL
- 2010.01/25 22:39
- ▲EntryTop
>ネミエルさん
スビバセン……m(_ _)m
どこで間違って覚えたのかなあ?
脳細胞の老化現象かなあ。とほほほ。
ちなみにロシアにはシエラ級原子力潜水艦というものがあります。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%82%A8%E3%83%A9%E7%B4%9A%E5%8E%9F%E5%AD%90%E5%8A%9B%E6%BD%9C%E6%B0%B4%E8%89%A6
スビバセン……m(_ _)m
どこで間違って覚えたのかなあ?
脳細胞の老化現象かなあ。とほほほ。
ちなみにロシアにはシエラ級原子力潜水艦というものがあります。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%82%A8%E3%83%A9%E7%B4%9A%E5%8E%9F%E5%AD%90%E5%8A%9B%E6%BD%9C%E6%B0%B4%E8%89%A6
先生、教授にそんな考えを・・・
なるほど。
先生は確かに丁寧な方ですね!
P.S
シエル×
シエラ○
ポールさん間違ってましたよ(ちょっと泣いた)
なるほど。
先生は確かに丁寧な方ですね!
P.S
シエル×
シエラ○
ポールさん間違ってましたよ(ちょっと泣いた)
- #712 ネミエル
- URL
- 2010.01/12 23:29
- ▲EntryTop
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トンデモなことをいって勧誘をはかる宗教には気をつけなくてはなりませんが、「地に足のついた」ことをいって勧誘をはかる宗教にはもっと気をつけなくてはいけません。つい気を許してからはっと気がついてみると泥沼にはまっていたりしますので……。