FC2ブログ

    東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎日更新)

    海外ミステリ183位 エンジェル家の殺人 ロジャー・スカーレット

     ←海外ミステリ183位 夜の熱気の中で ジョン・ボール →海外ミステリ183位 人狩り リチャード・スターク
     大学で学問への夢破れ、敗残のまま土浦に帰ってきてからしばらくして、古本屋で買って読んだ。江戸川乱歩が「三角館の恐怖」として翻案したことで日本では非常に有名な作品であるが、海外ではとっくに忘れられた作品で、作者が男か女かすらも最近までよくわからなかったらしい(ウィキペディアによると女性二人の合同ペンネームだったそうだ。アメリカの作家なのに、英語での記載がないという、うーむ、この忘れられっぷりがすごいなあ)。当時読んだときは、密室トリックも、「異常な動機」も、「ふーんこんなものか」で済んでしまったが、再読したらはたしてどうか。どきどきしながら読む。

     というわけで読んだわけであるが、つまらない作品ではないが、ロジャー・スカーレット、面白くなるポイントをいくつか完璧にハズしているのがつらい。というか、惜しい。まず、冒頭で出てくる、富豪の奇妙な遺言「双子のうちどちらか後々まで生き残ったほうに全財産を遺す」であるが、その理由が「富豪が健康法マニアだったから、健康なほうに送りたかった」というのはどうにかならんかったのか。ディクスン・カーだったらもうちょっといわくありげな演出をして作品を盛り上げたと思うのだが。あと、読んだ人間の誰もが納得すると思うのが、最終章での謎解きの、あまりにも余韻というものがない、投げっぱなしの適当さ。せっかく、「異常な動機」という大ネタを解説するんだから、気を配って、丁寧に書き込むべきだろう。そこらへんに、作者のペーパーバック・ライターとしての限界を感じずにはいられないのである。もしかしたら、ページ合わせのために編集者が書いたのだろうか。そんなことまで考えたりもする、あまりにも不自然な結末部のレトリック。

     名探偵役を務めるケイン警視も、書き割りっぽくって、お世辞にも魅力があるキャラクターじゃないしなあ。ワトスン役を務めるアンダーウッド弁護士も同様。このエンジェル家の屋敷に暮らす人間たちも、ダライアス老人以外はみんな影が薄いし。

     183位に入ったというのも、まあなんというか、乱歩のおかげだろうなあ。当時の謎解きミステリでも、この「エンジェル家」以上の水準のものはゴロゴロしているし、現代において率先して読むべき本かどうかは、議論の余地があると思う。ではあるにしても、先にも書いた通り、決してつまらない小説ではない、ということだけは力説しておきたい。時代が経っている以上、衝撃力が落ちるのは当然だし、小説に欠点があるのは当たり前である。それをわかったうえでの話としてだが、気軽に寝転んで読むようなサスペンスとしては、この本はもう、時間つぶしには最適の一冊なのだ。

     異常な屋敷の異常な人物たちの中に、何食わぬ顔で潜んでいる犯人は誰なのか? いっこうに核心に近づいているとは思えないケイン警視にやきもきしながら、姿のつかめない「悪意」の存在にぞくぞくする、ということでは本書はパーフェクトな腕の冴えを見せている。有名な「動いているエレベーター内で人を刺殺しておきながら煙のように消え失せた犯人」のトリックが、ケイン警視によってあっという間に解かれても、本書がサスペンスであることを前提にすれば「演出として自然かつ当然」なのだ。

     これで最後に「異常な動機」にあっと驚いた後の余韻さえあればなあ。ない物ねだりとはわかっているけど、やっぱり惜しいよ、この小説……。
    関連記事
    スポンサーサイト






    もくじ  3kaku_s_L.png 風渡涼一退魔行
    もくじ  3kaku_s_L.png 鋼鉄少女伝説
    総もくじ  3kaku_s_L.png ほら吹き大探偵の冒険(児童文学)
    総もくじ  3kaku_s_L.png 夢逐人(オリジナル長編小説)
    総もくじ  3kaku_s_L.png 残念な男(二次創作シリーズ)
    総もくじ  3kaku_s_L.png ショートショート
    総もくじ  3kaku_s_L.png 紅探偵事務所事件ファイル
    総もくじ  3kaku_s_L.png 銀河農耕伝説(リレー小説)
    もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
    もくじ  3kaku_s_L.png リンク先紹介
    もくじ  3kaku_s_L.png いただきもの
    もくじ  3kaku_s_L.png ささげもの
    もくじ  3kaku_s_L.png その他いろいろ
    もくじ  3kaku_s_L.png SF狂歌
    総もくじ  3kaku_s_L.png 剣と魔法の国の伝説
    もくじ  3kaku_s_L.png 映画の感想
    もくじ  3kaku_s_L.png 家(
    もくじ  3kaku_s_L.png 懇願
    もくじ  3kaku_s_L.png TRPG奮戦記
    もくじ  3kaku_s_L.png 焼肉屋ジョニィ
    もくじ  3kaku_s_L.png ご意見など
    もくじ  3kaku_s_L.png おすすめ小説
    もくじ  3kaku_s_L.png X氏の日常
    【海外ミステリ183位 夜の熱気の中で ジョン・ボール】へ  【海外ミステリ183位 人狩り リチャード・スターク】へ

    ~ Comment ~

    Re: 面白半分さん

    ですね。物語を盛りあげることでは、乱歩は天才的なエンターテナーですし、あそこまで売れると、編集者による制約とかもなかったでしょうからねえ。

    読んでみようかな。コロナがおさまって図書館が開いたら……。

    Re: 椿さん

    「三角館」のほうが「エンジェル家」より面白い、という声は昔からよくありますね。もっとも、山口雅也にいわせると、乱歩の長編ベスト3は「三角館の恐怖」「幽鬼の塔」「緑衣の鬼」だそうですが。(それぞれ「エンジェル家の殺人」「サン・フォリアン寺院の首吊り人」「赤毛のレドメイン家」の翻案)

    こちらとしては未読なんでなんともいえないというところです。でも「幽霊塔」(「幽鬼の塔」とは別の作品の翻案もの)は面白かったな。

    NoTitle

    つい最近「三角館の恐怖」を再読し、本作の存在を思い出しました。
    読み比べも一興でしょうかね。

    NoTitle

    すると、乱歩が翻案したのですから、まさに原作の足らないところを補完しきった……?
    管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

    ~ Trackback ~

    卜ラックバックURL


    この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

    • 【海外ミステリ183位 夜の熱気の中で ジョン・ボール】へ
    • 【海外ミステリ183位 人狩り リチャード・スターク】へ