東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎日更新)
海外ミステリ183位 人狩り リチャード・スターク
今回、もっとも再読を楽しみにしていた小説のひとつ。ドナルド・E・ウェストレイクが別名義で書き、一気にそれまでの「ハードボイルド」を過去のものにしてしまった記念碑的シリーズ「悪党パーカー」第一作である。高校生のときに初めて古本屋でこの「人狩り」を手にして読んだときの衝撃と興奮は忘れられない。あのときの思いはまだ変わらないだろうか。いつの間にかプレミアがついていた再版バージョンをアマゾンで買い、どきどきしながら再読。
読んでみたが、発表以来半世紀以上経ってるのに、全く古びていないロックそのものの文章である。読んでいるだけで、頭の中に文章のひとつひとつが機械的な荒々しさをもって叩きこまれてくる。そこには読者に対する「配慮」とか「サービス精神」は一切存在しない。ひたすらに、主人公であるプロの犯罪者「パーカー」の行動をマシンガンのようなリズムで撃ち込んでくるのだ。反論も嫌悪も存在を許されない。もし読んで、復讐の念と怒りだけを抱き、無一文でアメリカ大陸を横断してきたパーカーがブルックリン橋を渡って、仇敵の待ち受けるニューヨークに入ってくるときの、燃えるようなパワーがみなぎる描写を読んで、クラクラ来なかったら、それはミステリがどうこうというより、読書に対する感受性というものが存在しないのだ、と思う。ニューヨークに入り、パーカーは行動を始める。その行動のひとつひとつが、無駄というものがまったくないプロの犯罪者のそれなのだ。ほとんど無一文の状態から、パーカーは身分証明書である免許証を手に入れ、他人の預金口座をいただき、それを元手にたちまちのうちに「当座の手持ち現金」八百ドルあまりを作り上げていく。1962年の八百ドルは、今の八千ドルにも匹敵する額である。その手並みはまるで職人のそれだ。スタッカートなリズムの文体に乗せて、「プロ」の仕事ぶりがマッギヴァーンの小説のような感傷などまったく見せずに語られていく。訳者は、日本のハードボイルド小説の最大の理解者でありパイオニアである、小鷹信光。掛け値なしに、日本語の翻訳史上に残る名訳だと思う。
この第一部を読んだだけで、このシリーズがアメリカの刑務所での大ベストセラーであり、『古典』であり、暗誦する囚人までいる理由がはっきりとわかる。「犯罪者として生きることを決意した人間」の理想と模範が、この小説には完璧に描かれているからだ。そこには、通常人の「モラル」などというものは存在しない。犯罪者の「仁義」などというものの存在しない。カネと実力と機転、ものをいうのはそれだけだ。実力不足か何かの理由により、自分の身に危険を及ぼしそうなやつがいれば、たとえついさっきまで同じ仕事をしていたとしていても、殺すのが当たり前、そういう世界なのである。殺されるのは殺されるやつが悪いのだ。
「本の雑誌」で、ミステリの登場人物で最大の悪人は誰だ、という討論会があったとき、たしか関口苑生が挙げたのがこのパーカーであるが、反論により、あっという間にその意見は潰されてしまった。なぜかというと、このパーカー、シリーズを十六冊も重ねていくうちに、「悪党パーカー」から「いいやつパーカー」とでもいう具合に変貌してしまうのである。1974年の「殺戮の月」で「おれの金をやるから、相棒を救出する仕事につきあってくれ」と犯罪者仲間に招集をかけてしまうパーカーを見たら、たしかにグッドガイだとしか思えまい。それからパーカーは沈黙し、誰もがもう終わったと思った。ところが、23年した1997年に突如続編の「エンジェル」が刊行され、誰もが驚いた。そこにいたのは冷酷で非情で仲間を殺すことなどいともたやすくやってのけるパーカーだった。作者曰く「もしかしたらパーカーは刑務所で長期刑に服していたのかもしれない」。不死身の悪党パーカー、万歳。
読んでみたが、発表以来半世紀以上経ってるのに、全く古びていないロックそのものの文章である。読んでいるだけで、頭の中に文章のひとつひとつが機械的な荒々しさをもって叩きこまれてくる。そこには読者に対する「配慮」とか「サービス精神」は一切存在しない。ひたすらに、主人公であるプロの犯罪者「パーカー」の行動をマシンガンのようなリズムで撃ち込んでくるのだ。反論も嫌悪も存在を許されない。もし読んで、復讐の念と怒りだけを抱き、無一文でアメリカ大陸を横断してきたパーカーがブルックリン橋を渡って、仇敵の待ち受けるニューヨークに入ってくるときの、燃えるようなパワーがみなぎる描写を読んで、クラクラ来なかったら、それはミステリがどうこうというより、読書に対する感受性というものが存在しないのだ、と思う。ニューヨークに入り、パーカーは行動を始める。その行動のひとつひとつが、無駄というものがまったくないプロの犯罪者のそれなのだ。ほとんど無一文の状態から、パーカーは身分証明書である免許証を手に入れ、他人の預金口座をいただき、それを元手にたちまちのうちに「当座の手持ち現金」八百ドルあまりを作り上げていく。1962年の八百ドルは、今の八千ドルにも匹敵する額である。その手並みはまるで職人のそれだ。スタッカートなリズムの文体に乗せて、「プロ」の仕事ぶりがマッギヴァーンの小説のような感傷などまったく見せずに語られていく。訳者は、日本のハードボイルド小説の最大の理解者でありパイオニアである、小鷹信光。掛け値なしに、日本語の翻訳史上に残る名訳だと思う。
この第一部を読んだだけで、このシリーズがアメリカの刑務所での大ベストセラーであり、『古典』であり、暗誦する囚人までいる理由がはっきりとわかる。「犯罪者として生きることを決意した人間」の理想と模範が、この小説には完璧に描かれているからだ。そこには、通常人の「モラル」などというものは存在しない。犯罪者の「仁義」などというものの存在しない。カネと実力と機転、ものをいうのはそれだけだ。実力不足か何かの理由により、自分の身に危険を及ぼしそうなやつがいれば、たとえついさっきまで同じ仕事をしていたとしていても、殺すのが当たり前、そういう世界なのである。殺されるのは殺されるやつが悪いのだ。
「本の雑誌」で、ミステリの登場人物で最大の悪人は誰だ、という討論会があったとき、たしか関口苑生が挙げたのがこのパーカーであるが、反論により、あっという間にその意見は潰されてしまった。なぜかというと、このパーカー、シリーズを十六冊も重ねていくうちに、「悪党パーカー」から「いいやつパーカー」とでもいう具合に変貌してしまうのである。1974年の「殺戮の月」で「おれの金をやるから、相棒を救出する仕事につきあってくれ」と犯罪者仲間に招集をかけてしまうパーカーを見たら、たしかにグッドガイだとしか思えまい。それからパーカーは沈黙し、誰もがもう終わったと思った。ところが、23年した1997年に突如続編の「エンジェル」が刊行され、誰もが驚いた。そこにいたのは冷酷で非情で仲間を殺すことなどいともたやすくやってのけるパーカーだった。作者曰く「もしかしたらパーカーは刑務所で長期刑に服していたのかもしれない」。不死身の悪党パーカー、万歳。
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