東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎日更新)
海外ミステリ193位 きず A・サマラキス
この「東西ミステリーベスト100」以外ではまったく聞いたことのない作家であり、まったく聞いたことのない作品である。それでも193位にこうして入っているということは面白いんだろうが、謎解きミステリかサスペンスかすらもわからない。タイトルと作者名の感じからすると、ハヤカワポケミス系の渋いハードボイルドだろうか……などと想像するのが精一杯だ。とうに絶版品切れであるが、アマゾンで調べたら1円からの出物があったので、迷わず注文。いい時代になったものである。数日して届いた本の帯を見たら、「現代ギリシャ文壇の鬼才が描く悪夢的世界!?」とあった。ますますわからん。ファンタジーかSFのそれであろうか。面白くなってきたので、順番が来るまでひたすらあらすじさえも読まないでガマン。今日やっと読む機会がやって来た。どきどきしながら読書開始。どんなジャンルかすらわからないミステリを読むのはボアロー&ナルスジャック「死者の中から」エリン「鏡よ、鏡」「第八の地獄」フィッツサイモンズ「早すぎた警告」とやってきたけどやっぱりゾクゾクしますな。
で、読んでみたわけだが、正直、最初の20ページほどは何が起きているのかすら全く分からない。作者のアンドニス・サマラキス、現代文学の限界に挑戦しているのかもしれないが、ものすごく読みにくい、はっきり「悪文」と称していいようなレトリックの持ち主なのである。一人称と三人称が混在する主語、固有名詞がなにひとつ登場せず誰が何をしゃべっているのかすらもよくわからない文章、平気で時間をあっちこっち飛び回る構成……普通の人なら、前半三分の一でもう嫌になって本を投げだすだろう代物なのだ。
だが、頭を痛くさせながらもひたすら読んでいくと、創元推理文庫で150ページを過ぎたあたりで、書かれている内容に思わず目を疑うことになる。そこからは怒涛の展開が待っている。残り四分の一くらいになると、ファンタジーでもSFでもいいから、この恐ろしい話に何かオチを与えてくれ! という気分になっているが、驚くのはここからなのだ。
残り10ページというところから、作者は、「これまで悪文としか思われなかった文章だが、実はすべて計算しきったうえで書いていた」ことがわかる、あざやかなどんでん返しを、80年ごろの猪木の延髄蹴りを思わせる強烈なショックとともに見舞ってくるのだ。しかも、ファンタジーやSFに逃げるのではなく、きちんと、超自然性のまったくない、広義ではあるが現代世界を舞台とした一般的なミステリの守備範囲内にきちんと落としてくるのである。ここでタイトル「きず」の意味がようやくはっきりとわかることになるのだが、この結末には、やられた、と思うと同時に、作者の「反骨精神」と「愛国心」を思って涙してしまった。本書は1966年の作品だが、第二次大戦後のギリシアが、常に何らかの形で「軍事独裁政権」のもとにあったことを考えると、なおさらこんな小説の発表は命がけのことであっただろう。
とにかく、本書をこれまで読んでなかったことは不覚のかぎり、というか、よくもこれでミステリなんぞ書いてきたものだと恥じ入るばかりである。現代文学ファンはぜひ手に入れて読んでいただきたい。そういう人のためを思って、ここまでいささかもストーリーには触れずに紹介文を書いてきたのだ。いったいどんなストーリーを想像しているかは知らないが、その想像の斜め上を行くものであることは保証しよう。まさかここまですさまじいものとはまさか思わないだろうなあ、などと書いて根性悪のミステリ読みはニヒニヒ笑うのである。まだアマゾンには在庫があったはずですよ。買うなら今ですよ。ニヒニヒ。
で、読んでみたわけだが、正直、最初の20ページほどは何が起きているのかすら全く分からない。作者のアンドニス・サマラキス、現代文学の限界に挑戦しているのかもしれないが、ものすごく読みにくい、はっきり「悪文」と称していいようなレトリックの持ち主なのである。一人称と三人称が混在する主語、固有名詞がなにひとつ登場せず誰が何をしゃべっているのかすらもよくわからない文章、平気で時間をあっちこっち飛び回る構成……普通の人なら、前半三分の一でもう嫌になって本を投げだすだろう代物なのだ。
だが、頭を痛くさせながらもひたすら読んでいくと、創元推理文庫で150ページを過ぎたあたりで、書かれている内容に思わず目を疑うことになる。そこからは怒涛の展開が待っている。残り四分の一くらいになると、ファンタジーでもSFでもいいから、この恐ろしい話に何かオチを与えてくれ! という気分になっているが、驚くのはここからなのだ。
残り10ページというところから、作者は、「これまで悪文としか思われなかった文章だが、実はすべて計算しきったうえで書いていた」ことがわかる、あざやかなどんでん返しを、80年ごろの猪木の延髄蹴りを思わせる強烈なショックとともに見舞ってくるのだ。しかも、ファンタジーやSFに逃げるのではなく、きちんと、超自然性のまったくない、広義ではあるが現代世界を舞台とした一般的なミステリの守備範囲内にきちんと落としてくるのである。ここでタイトル「きず」の意味がようやくはっきりとわかることになるのだが、この結末には、やられた、と思うと同時に、作者の「反骨精神」と「愛国心」を思って涙してしまった。本書は1966年の作品だが、第二次大戦後のギリシアが、常に何らかの形で「軍事独裁政権」のもとにあったことを考えると、なおさらこんな小説の発表は命がけのことであっただろう。
とにかく、本書をこれまで読んでなかったことは不覚のかぎり、というか、よくもこれでミステリなんぞ書いてきたものだと恥じ入るばかりである。現代文学ファンはぜひ手に入れて読んでいただきたい。そういう人のためを思って、ここまでいささかもストーリーには触れずに紹介文を書いてきたのだ。いったいどんなストーリーを想像しているかは知らないが、その想像の斜め上を行くものであることは保証しよう。まさかここまですさまじいものとはまさか思わないだろうなあ、などと書いて根性悪のミステリ読みはニヒニヒ笑うのである。まだアマゾンには在庫があったはずですよ。買うなら今ですよ。ニヒニヒ。
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NoTitle
ネット小説では絶対にポイントが入らない系の作品、いや公募に出しても下読みの人にちゃんと読んでもらえるかわからない系の作品ですね。
でもそういうどんでん返しを食らわされた時は最高に気持ちいいんだよなあ……。
でもそういうどんでん返しを食らわされた時は最高に気持ちいいんだよなあ……。
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Re: 椿さん
取ってくれるとしたら往時のメフィスト賞くらいでしょうなあ。
困ったことに、再刊されても売れる本だとはまったく思えない。「現代ギリシャ文学」に興味ある日本人、東欧文学 よりも数が少なそうだしなあ……。