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    東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎日更新)

    海外ミステリ198位 皮膚の下の頭蓋骨 P・D・ジェイムス

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     女探偵コーデリア・グレイの活躍する第二編である。これもたしか大学生活の終わりごろに、古本屋で早川ミステリ文庫のやたらと分厚い本を買って読み、ギスギスした展開に辟易した覚えがある。とにかく、最後のころはもう、早くページを消化しよう、というただそれだけの思いだけで読んでいたような。それでも、小泉喜美子が訳していたからこれだけの分量で収まったのであって、普通に訳していたら上下巻間違いなしだったはずだ、というのをどこかで聞いて、もうおれはP・D・ジェイムズに手を出すのはやめよう、と誓い、いくら「このミステリーがすごい!」で激賞されていても「策謀と欲望」にも「死の味」にも手を出さずに今まで生きてきた。その判断は正しかったのか。おびえながら二十年ぶりに再読。

     で、読んでみたわけであるが、もう、実に伝統的な、「孤島の屋敷での殺人事件」である。そのうえに、「密室殺人」ときているのだ。イギリス人作家でなかったら、P・D・ジェイムズ先生、何か悪いものでも食ったのか、と心配するところである。「女には向かない職業」が、ハードボイルドスティックなタイトルでありながら、オーソドックスかつ堅牢な謎解きミステリであることを知っていたので、今回もそのノリで読めたが、大学時のように、「女探偵ハードボイルド」と錯覚して読むと、主人公コーデリア・グレイのあまりの控えめぶりに「退屈な作品」と思ってしまうだろうな。再読してみてわかったが、中盤になって殺人が起きるまでは正直もっさりとした展開にイライラもするが、殺人が起きて警察が乗り出してくると、その前半のもっさりした展開が、「意外な効果を持ってたたみかけて」くる。登場人物の一挙手一投足が、すべて計算された効果とともに、結末の強烈なクライマックスへ向かってなだれ込んでくるのだ。

     掛け値なしで、この最終章「第六部 事件の終結」の急転直下、疾風怒濤の展開は、それまでの「静的な」ものをすべてぶち壊すかのようなショックとサスペンスとスリルに満ち満ちた巻措く能わざるものであり、こんな試練が新米女探偵のコーデリア・グレイに耐えきれるのかどうかと、もうはらはらどきどきである。バーミヤンでドリンクバーをおかわりしながら読もうかと思ったのだが、おかわりするために席を立つのももったいなくなって、ひたすらページをめくって読みふけってしまった。P・D・ジェイムズ先生、やるなあ、である。正直な話、何でこの「皮膚の下の頭蓋骨」が198位で「女には向かない職業」が183位なのか納得がいかない。逆だろうと思うのだが。それにいまウィキペディアで記事を調べたが、なんだよ「ひたむきに頑張る元気な姿」って。どちらかといえばコーデリア・グレイって探偵、「耐えて耐えぬいてガマンにガマンを重ねてから、いつものごとく命をかけるようなひどい目に遭い、そして事件は解決するものの、社会的成功にも金にも縁がない生活に戻る」っていう、「元気」とは無縁の「疲れ」しか目立たない人間だと思うのだが。

     そう考えると、コーデリア・グレイ、凡百のハードボイルド女探偵よりもハードボイルドな生活しているもんだなあ、と思わざるを得ない。作者のP・D・ジェイムズ先生がこの「女には向かない職業」と「皮膚の下の頭蓋骨」の二長編でしか活躍させていないのが惜しい……というよりは、むしろ、これ以上コーデリア・グレイを登場させると、次の作品では彼女をいじめ殺してしまうことが作者自身でもわかって、それで三作目を書かないのかもしれない。とか思っていたら、P・D・ジェイムズ先生、2009年にお亡くなりになっていたのか! さようなら、コーデリア・グレイ。80年代ミステリを駆け抜けた一瞬の幻……。
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    ~ Comment ~

    Re: ハヤシさん

    幾万とある海外ミステリの中の200冊ですから、質的にはどれも同等と思っていいでしょうね。後は趣味の違いだけでしょう。記事ではなんだかんだいってますが、どれもこれも面白いですし。

    ダルグリッシュものも読まなくちゃなあ。その前に、図書館が開いてくれなければどうしようもないわけですけど……。

    個人的にはこの作品より秀れたものが197もあるとは信じがたい傑作です。丁度、緊急事態宣言下に暇で読み返したばかりですが、クライマックスの緊迫感と結末の余韻の深さには陶然。調子に乗ってダルグリッシュ物の『黒い塔』も再読してしまいました。両作品とも理不尽な悪とささやかながら強靭な理性とが対峙する構図が見事です。
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