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    東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎日更新)

    海外ミステリ198位 緋色の研究 コナン・ドイル

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     大学を中退するころに古本屋で買ってなんとなく読んだ。当時鬱屈の極致にあったわたしには、本書後半のひたすらに暗い因縁話はヘビーに過ぎた。疲れきって読み終え、ホームズの長編はダメなんじゃないのか、とか思った。十年くらい前に、ホームズのパロディを書く必要上、新潮文庫の延原先生訳バージョンを買ってきて、読んだ。やっぱり後半の因縁話は読んでいてつらかった。さて、今回が三度目の読書である。延原先生の訳ばかりじゃ何だろうと思って、図書館から創元推理文庫の深町真理子訳バージョンを借りてきた。はたして面白いかどうか。PCでえっちなソシャゲーをやりながら寝転んで再読!

     というわけで読んでみたが、さすがの深町真理子先生の匠の技をもってしても、後半の血と肉欲にまみれたカルト教団がらみの因縁話は読むのが非常につらかったのであった。なんでこんないい人たちがこんなことをせねばあかんのか、という不条理感に満ち満ちていて、精神を地獄の底まで引きずり降ろしてくれる。この因縁話の登場人物たちは、いわゆる「悪人」がいないというのがなんとも。彼らは彼らとして、カルト教団の教徒として誠実かつまっとうに生きているのであるし、それがゆえに復讐の鬼につけ回される後半生を送った末に殺されて死ぬ、などという運命など考えてもいなかったに違いないのだ。

     とはいえ、カルト宗教問題を専門に取り扱うネット新聞社の「やや日刊カルト新聞」なんぞを読んで、やれオウムだ統一教会だ幸福の科学だ、という文字が踊り狂う記事を読んでいると、19世紀のクリスチャンであるコナン・ドイルの偏見が満ち満ちた描写がなされているとはいえ、ここで描かれているトラブルは、この教団にとっては「日常茶飯事」だったのではないか、この復讐鬼みたいな人間は、けっこうどこにでもいたのではないか、などと思えてきて、人間にとって宗教とは何なんだろう、などということを夜中に考え始めて眠れなくなってしまうのでもあるが。この宗教、いまはいちおう、周囲からも受け入れられる、アメリカを代表する宗教のひとつともなっているので大きな声では言えないのだが、この当時はもう、オウムやその一派と同様の「カルト」だったんだろうなあ、モルモン教。友人のクリスチャンによれば今でも立派なカルトだそうだが。

     逆をいえば、この因縁話を取り除いたうえでの、ホームズとワトスンを主人公にした話の部分は、もうめっぽう楽しい。ワトスンがホームズと初めて会うシーンなんか、もう、ほほえましいの一言でありますな。すでにそこからしてこの二人、「なにをしゃべっても話が面白くなる」一種の以心伝心ぶりを見せていて、ああ、出会うべくして出会った二人なんだろう、と納得させられてしまう。

     また、これを読んだことで、海外ドラマ「SHERLOCK」の第一話「ピンク色の研究」が、実に細かいところまで原作のパロディネタにこだわっていたことがわかったのも収穫だった。犯人像にしろ、殺人手段にしろ、現場に残された血文字にしろ、犯人を尾行して失敗に終わるところにしろ、「コンサルティング・ディティクティブ」であるホームズに依頼に来るレストレードにしろ、もう、よくもまあここまでネタを仕込んだものだ、と感心する。監督も脚本家も、ホームズに魂を奪われた「バカ」なんだろうなあ。ホームズの推理法がまた原作に忠実すぎるほど忠実だから、ホームズ譚がただ単にワトスンとの漫才だけで作られているわけではないことがよくわかる、ミステリドラマとしての完成度の高さにも驚愕。おすすめである。
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    ~ Comment ~

    Re: 椿さん

    ほんと、話の後半の因縁話部分は読むと精神力が持っていかれますからねえ。「なかったこと」にするのが精神安定場もいいですな。

    モルモン教をどう評価したらいいのか、公平なところは、わたしにはよくわかりませんけど、荒れ地状態から「ソルトレークシティー」を作り上げるようなタフネスぶりは深く尊敬するであります……。

    NoTitle

    ああ、久々に読みたくなりました。

    自分は後半は全く覚えていなくて、というか覚えているシーンはホームズとワトソンが楽しそうにしているところばかりでどんな事件だったかすら思い出せないという状態だったのですが、記事を読ませていただいて『みんなそうなのかもしれない』と思いました(笑)

    ホームズの時代から百年以上を経て一大教派になったモルモン教を見ると歴史を感じさせられますね(^^;
    以前、お勤めしていたところの近くではモルモン教の人が宣教のために英会話教室を開いていました。

    日本人が思い描くような金髪碧眼の『ザ・外国人』のお兄ちゃんたちが駅前で英会話教室のチラシを配っており、布教するために日本人にウケる人物像のリサーチを行ってそれに当てはまる人を派遣するという行動にパワーを感じました。

    それだからこそ、ドイルとその読者たちのような保守的なクリスチャンからは異端視されながらも生き残ったのだろうなあ……。
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