「ナイトメアハンター桐野(二次創作長編小説シリーズ)」
4 天使を吊るせ(完結)
天使を吊るせ 4-1
4
ビルの中に効率的に配置された、ホールその他の施設群が、本物の大学にいるかのような気分にさせるに足りる重量感と威容を持っていたことだけは認めてやらねばなるまい。まったく、コンパクトながらこれだけ印象的なものを作れるというのは、日本人の省けるだけ無駄なスペースを省くという美意識に由来するものだろうか。
わたしは、これだけのものを作れる財力がどこから出てきたのかを考えるだけで恐ろしくなった。
「総工費がいくらかかったのか聞いてもいいですかね」
「二百億じゃできませんでした」
杉内はとんでもないことをさらりといってのけた。いったいここはほんとうにリーマンショックでデフレスパイラルで不況まっただなかの現代日本なのか。
くらくらしそうになりながら、わたしは食堂の椅子に座った。昼飯どきにはまだ早いせいか、人影はまばらだった。その人影も、みななにか本を読んだり議論したりしている。わたしにはどこか郷愁を呼び起こされる光景だった。
「喉が渇きませんか?」
杉内は笑みを崩さずにいった。
正直なところ、喉が渇いたというよりは精神的になにかいけないものを見てしまったような気分だった。
「水かなにかありませんか? ……いや、あそこの自動販売機でなにか買います」
自動販売機でカップのコカコーラを買う。がらがらがらっと氷がこぼれてくるのを見ながらも、自分がこれまで宗教団体というものをなめていたことを痛いほど実感させられていた。
コーラのカップを持って椅子に戻った。杉内のにこにこ顔は変わらない。
「どう思われました?」
「懐かしいですね」
わたしは思ったままにいった。
「ものすごく懐かしい気分だ。この食堂も、なんと呼ばれているのかもわかるような気がしますよ」
「おっしゃってみてください」
わたしはコーラをあおった。冷たさと甘さで、脳がいくらかしゃっきりとした。
「……『学食』」
杉内はぽんと手を叩いた。
「当たりです」
わたしはざっと食堂内を見渡した。
「みんな勉強している。たしかに、この心理学研究所で学ばされる教義は、難解そうですね」
わたしは杉内に視線を戻した。
「宗教団体と聞いていたのに、これじゃまるで学校、それも大学そのものだ。どうして宗教でなく学校法人にしなかったのですか」
ビルの中に効率的に配置された、ホールその他の施設群が、本物の大学にいるかのような気分にさせるに足りる重量感と威容を持っていたことだけは認めてやらねばなるまい。まったく、コンパクトながらこれだけ印象的なものを作れるというのは、日本人の省けるだけ無駄なスペースを省くという美意識に由来するものだろうか。
わたしは、これだけのものを作れる財力がどこから出てきたのかを考えるだけで恐ろしくなった。
「総工費がいくらかかったのか聞いてもいいですかね」
「二百億じゃできませんでした」
杉内はとんでもないことをさらりといってのけた。いったいここはほんとうにリーマンショックでデフレスパイラルで不況まっただなかの現代日本なのか。
くらくらしそうになりながら、わたしは食堂の椅子に座った。昼飯どきにはまだ早いせいか、人影はまばらだった。その人影も、みななにか本を読んだり議論したりしている。わたしにはどこか郷愁を呼び起こされる光景だった。
「喉が渇きませんか?」
杉内は笑みを崩さずにいった。
正直なところ、喉が渇いたというよりは精神的になにかいけないものを見てしまったような気分だった。
「水かなにかありませんか? ……いや、あそこの自動販売機でなにか買います」
自動販売機でカップのコカコーラを買う。がらがらがらっと氷がこぼれてくるのを見ながらも、自分がこれまで宗教団体というものをなめていたことを痛いほど実感させられていた。
コーラのカップを持って椅子に戻った。杉内のにこにこ顔は変わらない。
「どう思われました?」
「懐かしいですね」
わたしは思ったままにいった。
「ものすごく懐かしい気分だ。この食堂も、なんと呼ばれているのかもわかるような気がしますよ」
「おっしゃってみてください」
わたしはコーラをあおった。冷たさと甘さで、脳がいくらかしゃっきりとした。
「……『学食』」
杉内はぽんと手を叩いた。
「当たりです」
わたしはざっと食堂内を見渡した。
「みんな勉強している。たしかに、この心理学研究所で学ばされる教義は、難解そうですね」
わたしは杉内に視線を戻した。
「宗教団体と聞いていたのに、これじゃまるで学校、それも大学そのものだ。どうして宗教でなく学校法人にしなかったのですか」
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~ Comment ~
確かに、この年になると学食は懐かしい。
捕まえたカブトムシを ブローチ代わりに付けたまま学食に行ったら、派手に飛びまわっちゃって、おばちゃんにさんざん怒られたっけ。
捕まえたカブトムシを ブローチ代わりに付けたまま学食に行ったら、派手に飛びまわっちゃって、おばちゃんにさんざん怒られたっけ。
>ネミエルさん
高校の学食はたしかにそんな側面もありますが、大学の学食はサークル活動などの楽しい交友の場ですよ~♪
少なくともわたしが行った大学ではそうでしたよ~♪
学校が閉まるまで一日中だべって、安くておいしい食事を朝昼晩と食べてましたよ~♪
だからそういう場のつもりで書きました♪
高校の学食はたしかにそんな側面もありますが、大学の学食はサークル活動などの楽しい交友の場ですよ~♪
少なくともわたしが行った大学ではそうでしたよ~♪
学校が閉まるまで一日中だべって、安くておいしい食事を朝昼晩と食べてましたよ~♪
だからそういう場のつもりで書きました♪
学食・・・ですか。
僕の高校にもあるんですが・・・
こわ~い先輩の溜まり場になってて・・・
(;´▽`A``
いけない・・・orz
僕の高校にもあるんですが・・・
こわ~い先輩の溜まり場になってて・・・
(;´▽`A``
いけない・・・orz
- #714 ネミエル
- URL
- 2010.01/14 00:24
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Re: しのぶもじずりさん
すごいスピードです!
一気呵成に読んでくださっているようでもうわたしは感涙であります<(_ _)>
わたしの通っていた大学は、学食のメシのうまさだけだったら総合大学としては全日本でも上から五本の指には確実に入ると思うんですけどねえ。
たまに学食の焼肉丼がやたらと食べたくなる時があります。入っていた店が変わってしまったのでもう幻の味ですが。