東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎日更新)
海外ミステリ198位 過去からの狙撃者 マイケル・バー・ゾウハー
マイケル・バー=ゾウハーを最初に見つけたのは高校生のとき。飽きず古本屋を漁っている時であった。ハヤカワ文庫NVのいかにも冒険小説じみた装丁、それとこの暗記するほど読んでいた「東西ミステリーベスト100」の圏外でありながらも200位内にランクインしていた作品だということ、そしてとにかく安かったということで買って読んでみた。冒険小説というよりは、渋いスパイスリラーだな……と思って読んでいたら、結末のどんでん返しにノックアウトされた。わたしはバー=ゾウハー信者となり、古本屋を日参してはバー=ゾウハーを捜すこととなったのである。そのときのあの読後感は正しいか、土浦市立図書館に頼んで相互貸借でひたちなかから取り寄せてもらったものを腰を据えて読書開始。
で、30年ぶりくらいに読んだわけだが、まあ、「冒険小説」ではなかった。アクションシーンは少しはあるが、どちらかといえば、アンブラー「ディミトリオスの棺」やル・カレ「スマイリーと仲間たち」の系統に属する「ピルグリム」小説であった。アメリカ国内でのソ連外相暗殺事件の調査を命じられたベテラン情報部員ジェフ・ソーンダーズが、名も知らぬ狙撃者の足跡をたどっていく物語。だが、バー=ゾウハーはそこにとんでもない悪魔的なトリックを盛り込むのである。
この小説、マイケル・バー=ゾウハーの処女作で、原題を「THE THIRD TRUTH(第三の真実)」という。そこからも、作者のバー=ゾウハーによる自作へのトリックへの自信が見受けられる。この意外な結末を、見破れるなら見破ってみろと、稚気というか傲岸不遜というか、気迫のこもり方が尋常ではない。まあその言葉に匹敵するだけの体重ののったロングフックみたいなカウンターを決めてくるわけであるが。自分が訳題付けるとしたら、原題通りに「第三の真実」とするか、意図をくんで「裏の裏」とするかな。でも「裏の裏」だと昔の日活映画のへっぽこなスパイものを連想させるから、訳者はこういうひねりすぎた邦題にしたのかもしれない。
しかし、実際にこんなことが起こったら、たちまちのうちにこんなトリックなんか見破られちゃうんじゃないかなあ。ウソはでかいほどバレにくい、というけど、これではウソがでかすぎである。情報機関というのを甘く見過ぎではないのだろうか。まあ、警察の捜査力を過小評価しすぎの新本格とかけっこうあるし、「小説は小説のもの」として楽しむべきなことはわかるけど。
とちょっとクサしはしたものの、このバー=ゾウハーが本書で仕掛けた一世一代の渾身のトリック、知らないままで終わらせるのはもったいない。もし古本屋で見かけたら、スパイスリラーが好きでなくても、ぜひ買って読んでもらいたい作品である。昔、「サイコスリラーが嫌いでも我孫子武丸の『殺戮に至る病』は読め」というセリフがミステリファンの間ではやったが、本書も『殺戮に至る病』レベルの、「だまされるカタルシス」を読む人間に感じさせてくれるはずだ。
そしてすべてが終わった後のちょいとしたひねりがまたブラックな味わいでよろしい。最後の一行まで気が抜けない作品である。人の道に外れたことなどへとも思わぬ策士気取りの奴らには、それ相応の報いというものが用意されているのだ。死んだ人たちに合掌。
で、30年ぶりくらいに読んだわけだが、まあ、「冒険小説」ではなかった。アクションシーンは少しはあるが、どちらかといえば、アンブラー「ディミトリオスの棺」やル・カレ「スマイリーと仲間たち」の系統に属する「ピルグリム」小説であった。アメリカ国内でのソ連外相暗殺事件の調査を命じられたベテラン情報部員ジェフ・ソーンダーズが、名も知らぬ狙撃者の足跡をたどっていく物語。だが、バー=ゾウハーはそこにとんでもない悪魔的なトリックを盛り込むのである。
この小説、マイケル・バー=ゾウハーの処女作で、原題を「THE THIRD TRUTH(第三の真実)」という。そこからも、作者のバー=ゾウハーによる自作へのトリックへの自信が見受けられる。この意外な結末を、見破れるなら見破ってみろと、稚気というか傲岸不遜というか、気迫のこもり方が尋常ではない。まあその言葉に匹敵するだけの体重ののったロングフックみたいなカウンターを決めてくるわけであるが。自分が訳題付けるとしたら、原題通りに「第三の真実」とするか、意図をくんで「裏の裏」とするかな。でも「裏の裏」だと昔の日活映画のへっぽこなスパイものを連想させるから、訳者はこういうひねりすぎた邦題にしたのかもしれない。
しかし、実際にこんなことが起こったら、たちまちのうちにこんなトリックなんか見破られちゃうんじゃないかなあ。ウソはでかいほどバレにくい、というけど、これではウソがでかすぎである。情報機関というのを甘く見過ぎではないのだろうか。まあ、警察の捜査力を過小評価しすぎの新本格とかけっこうあるし、「小説は小説のもの」として楽しむべきなことはわかるけど。
とちょっとクサしはしたものの、このバー=ゾウハーが本書で仕掛けた一世一代の渾身のトリック、知らないままで終わらせるのはもったいない。もし古本屋で見かけたら、スパイスリラーが好きでなくても、ぜひ買って読んでもらいたい作品である。昔、「サイコスリラーが嫌いでも我孫子武丸の『殺戮に至る病』は読め」というセリフがミステリファンの間ではやったが、本書も『殺戮に至る病』レベルの、「だまされるカタルシス」を読む人間に感じさせてくれるはずだ。
そしてすべてが終わった後のちょいとしたひねりがまたブラックな味わいでよろしい。最後の一行まで気が抜けない作品である。人の道に外れたことなどへとも思わぬ策士気取りの奴らには、それ相応の報いというものが用意されているのだ。死んだ人たちに合掌。
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~ Comment ~
この頃のバー・ゾウハーはみな面白いです。とくに伝奇小説風の『エニグマ奇襲指令』は最後のオチにあっといわされましたが、あんなドンデン返しばかりの作風が長続きするはずも無く、あっという間に失速しましたが忘れがたい作家です。
- #21122 ハヤシ
- URL
- 2020.05/05 00:13
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Re: ハヤシさん
どんでん返しから離れたところでは、わたしは「復讐のダブル・クロス」とか好きですねえ。クィネル「メッカを撃て」と並ぶ、宗教界ひんしゅくものの大陰謀(^^;) ああいうのが平気でネタになるんだから、当時の冒険小説界はおそろしいですなあ(^^;)