東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎日更新)
海外ミステリ198位 レーン最後の事件 エラリイ・クイーン
そう、最後の作品は、本書、「レーン最後の事件」である。文藝春秋編集部の苦笑いが頭に浮かぶ。「200位以内」の最後にこれが入った以上、リストを公開したくもなるだろう。なんせ1位は「Yの悲劇」なのだから。「Y」から始まって「最後」で終わる、まことに美しいフィニッシュではないか。しかし惜しいのは、どうやら「日本編」の200位リストのほうは、票が割れて該当作が多数出たのかなんだか知らないが、文藝春秋的には面白くなかったようなのだ。だから日本編の101~200位のアンケート結果は不明なのである。当時も思ったが、いま考えても「なんということを」と思わざるを得ない。権田萬治の巻末解説を2ページ減らすとか、それができなくても巻末の自社広告を2ページ減らすとかして、どれだけ小さい活字になってもいいから載せてほしかった。よほど抗議の投書がきたものか、2012年版ではきちんと海外も日本も、200位まできちんと集計結果が載っている。良き哉良き哉。
というわけで、この「レーン最後の事件」を中学以来再読してみたわけであるが、ストーリーとクライマックスのおもしろさゆえのこの順位なのか。冷静に読んでみると、名探偵ドルリー・レーン、「晩節を汚しちゃったな」としか思えないのが非常に歯がゆい。何が歯がゆいって、本書「レーン最後の事件」においては、「X」「Y」「Z」と快刀乱麻を断つかのようだったレーンの推理に、往年の鋭さがまったく感じられない、というところだ。
「レーン最後の事件」における犯人は、犯人の設定からは考えられないような、初歩的なミスを次々と犯す。それについてはまあ、犯人が犯行に慣れていない、ということもあるかもしれないが、「X」「Y」「Z」のころのレーンだったら一発で気づいて指摘したであろうそのミスを、最後の最後まで、指摘はおろか気づいてさえいないのではないかと邪推するくらいに何の反応も示さない本作のレーンは、「名探偵」と呼ぶのがはたしてふさわしいのかどうかさえも疑いたくなってくる。本作品における犯人の設定上、仕方もないのかもしれないが、「駿馬も老いれば駑馬にも劣る」をこともあろうにドルリー・レーンで見せつけられねばならないとは。つらい。正直、つらい。
犯人も犯人だ。犯人の目的からしたら、犯行が終わった後で、「警察に自首」さえしていればそれで済むことなのだ。犯人としてはさらにいろいろとやりたいことがあったのかもしれないが、たぶんそれらは、犯人よりも警察のほうが手際よく処理していっただろうことが間違いない。警察がダメでも、その足で弁護士事務所に出向き、弁護士に一任すればいいのだ。アメリカでもっとも無能な弁護士でも、きちんと事を遂行することは確実である。
これでワトスン役を務めるサム元警部と娘のペーシェンスがしっかりしていればまた違ってくるのだろうが、両者ともワトスン役の常としてグダグダで、右往左往しているうちに事態は取り返しのつかない悲劇へ突進していくのだ。
作者のもう一人の名探偵エラリー・クイーンがああなっちゃったのもドルリー・レーンの影響が大きいのかもしれない。レーンはこの四作で徹底的に完結してしまったが、エラリーのほうは……誰か早いうちにあいつを完結させようという諫言を吐く気概のあるやつはいなかったのか。いやはや、「東西ミステリーベスト100」の感想を美しく着陸させるはずがこうなってしまうとは。「有終の美」とは本当に難しいものである。やれやれ。
というわけで、この「レーン最後の事件」を中学以来再読してみたわけであるが、ストーリーとクライマックスのおもしろさゆえのこの順位なのか。冷静に読んでみると、名探偵ドルリー・レーン、「晩節を汚しちゃったな」としか思えないのが非常に歯がゆい。何が歯がゆいって、本書「レーン最後の事件」においては、「X」「Y」「Z」と快刀乱麻を断つかのようだったレーンの推理に、往年の鋭さがまったく感じられない、というところだ。
「レーン最後の事件」における犯人は、犯人の設定からは考えられないような、初歩的なミスを次々と犯す。それについてはまあ、犯人が犯行に慣れていない、ということもあるかもしれないが、「X」「Y」「Z」のころのレーンだったら一発で気づいて指摘したであろうそのミスを、最後の最後まで、指摘はおろか気づいてさえいないのではないかと邪推するくらいに何の反応も示さない本作のレーンは、「名探偵」と呼ぶのがはたしてふさわしいのかどうかさえも疑いたくなってくる。本作品における犯人の設定上、仕方もないのかもしれないが、「駿馬も老いれば駑馬にも劣る」をこともあろうにドルリー・レーンで見せつけられねばならないとは。つらい。正直、つらい。
犯人も犯人だ。犯人の目的からしたら、犯行が終わった後で、「警察に自首」さえしていればそれで済むことなのだ。犯人としてはさらにいろいろとやりたいことがあったのかもしれないが、たぶんそれらは、犯人よりも警察のほうが手際よく処理していっただろうことが間違いない。警察がダメでも、その足で弁護士事務所に出向き、弁護士に一任すればいいのだ。アメリカでもっとも無能な弁護士でも、きちんと事を遂行することは確実である。
これでワトスン役を務めるサム元警部と娘のペーシェンスがしっかりしていればまた違ってくるのだろうが、両者ともワトスン役の常としてグダグダで、右往左往しているうちに事態は取り返しのつかない悲劇へ突進していくのだ。
作者のもう一人の名探偵エラリー・クイーンがああなっちゃったのもドルリー・レーンの影響が大きいのかもしれない。レーンはこの四作で徹底的に完結してしまったが、エラリーのほうは……誰か早いうちにあいつを完結させようという諫言を吐く気概のあるやつはいなかったのか。いやはや、「東西ミステリーベスト100」の感想を美しく着陸させるはずがこうなってしまうとは。「有終の美」とは本当に難しいものである。やれやれ。
- 関連記事
-
- 海外ミステリ198位 レーン最後の事件 エラリイ・クイーン
- 海外ミステリ198位 遥かなるセントラルパーク トム・マクナブ
- 海外ミステリ198位 穴 ジョゼ・ジョバンニ
スポンサーサイト
もくじ
風渡涼一退魔行

もくじ
はじめにお読みください

もくじ
ゲーマー!(長編小説・連載中)

もくじ
5 死霊術師の瞳(連載中)

もくじ
鋼鉄少女伝説

もくじ
ホームズ・パロディ

もくじ
ミステリ・パロディ

もくじ
昔話シリーズ(掌編)

もくじ
カミラ&ヒース緊急治療院

もくじ
未分類

もくじ
リンク先紹介

もくじ
いただきもの

もくじ
ささげもの

もくじ
その他いろいろ

もくじ
自炊日記(ノンフィクション)

もくじ
SF狂歌

もくじ
ウォーゲーム歴史秘話

もくじ
ノイズ(連作ショートショート)

もくじ
不快(壊れた文章)

もくじ
映画の感想

もくじ
旅路より(掌編シリーズ)

もくじ
エンペドクレスかく語りき

もくじ
家(

もくじ
家(長編ホラー小説・不定期連載)

もくじ
懇願

もくじ
私家版 悪魔の手帖

もくじ
紅恵美と語るおすすめの本

もくじ
TRPG奮戦記

もくじ
焼肉屋ジョニィ

もくじ
睡眠時無呼吸日記

もくじ
ご意見など

もくじ
おすすめ小説

もくじ
X氏の日常

もくじ
読書日記

~ Comment ~
NoTitle
レビューお疲れさまでした。
”Y”ではじまり”最後”が終わりでしたか。
すっかり忘れてました。
もう一度『東西ミステリ―ベスト100』を手にしたいものです
”Y”ではじまり”最後”が終わりでしたか。
すっかり忘れてました。
もう一度『東西ミステリ―ベスト100』を手にしたいものです
- #21161 面白半分
- URL
- 2020.05/21 22:43
- ▲EntryTop
Re: 椿さん
実際のリストでは字が小さいのであまり気づいた人がいないみたいなのがちょっと悲しい(笑)。でもほんとうまいことまとまったですなあ、と思いました、初読時。
NoTitle
海外ミステリベスト完走おめでとうございます! おつかれさまでした。
そういえばこの作品が入っていなかったですね。
昨日のコメ返をいただいて、リストを見直して、自分なりに考えておりましたがしぼり切れず。
でも確かに美しい。レーン第一作で始まってレーン最終作で終わる。うまいこといったものですね。
そういえばこの作品が入っていなかったですね。
昨日のコメ返をいただいて、リストを見直して、自分なりに考えておりましたがしぼり切れず。
でも確かに美しい。レーン第一作で始まってレーン最終作で終わる。うまいこといったものですね。
名探偵のキャリアの始末の付け方はコナン・ドイル以来、全ての成功したミステリ作家の重大な課題なのかも。クリスティはクイーンの失敗を反面教師にしたような気がします。最も幸福な退場は曖昧な含みを残し日本を去った金田一耕助かな。
- #21141 ハヤシ
- URL
- 2020.05/12 02:03
- ▲EntryTop
~ Trackback ~
卜ラックバックURL
⇒
⇒この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
Re: 面白半分さん
見つけたら買っておくことをお勧めいたします~。