箴言 2

人間が祈ることにはなんの超越的な力も存在しない。これは事実であり、認めないのは愚か者である。
だが、そうであるがゆえに、人間が祈ることによって社会にどんなささいな影響も及ぼされるわけがない、と考えるのは、祈りに超越的な力を求めてしまう人間と同様の愚者であるといわなければならない。

祈りは欲望のひとつの純粋な顕れだ。

われわれは人間の祈りで神風が吹く可能性を恐れるよりも、人間の祈りによって人間が戦闘機で空母に自殺攻撃をかける可能性を恐れるべきである。

祈りで原子爆弾に勝てるか。勝てるわけがないが、われわれは原子爆弾が落とされるまでの背景にある祈りの質量を考えたことがあるか。

「祈りが力だというのなら、祈りでコロナに勝ってみろ」やれやれ、きみは二千年以上も前にイエスや仏陀をわずらわせたあの問答を繰り返すのか。祈りはそんなふうに使うのではない。それは空気の力で直接に山を砕けといっているようなものだ。空気で山を砕くには、空中窒素固定から始まるいくつもの手続きを経なければならないのだ。

祈りで善のイデアに到達することができたらだれも苦労はしない。なぜなら善のイデアの存在はフィクションだからだ。だが、祈りで善のイデアに到達しようという試みはわれわれに善行を勧めるものであり、国の法律に違反したり、国という社会共同体を分裂させない限りは、祈りで善のイデアに到達しようとする人間たちを力で弾圧する必要はまったくない。

自分が何に対してどう祈ればいいかを直観している人間は幸いである。それができていない人間が祈りによる力を金によって買おうとする。祈りの力とはそういうものではないのだが。

百万人の祈り。怖くないならそれを盲目という。

祈りはまず第一に社会的行為であり、神とは何のかかわりもない。

祈りの力とは、人間が自分の純粋な欲望を内面的に強くイメージすることにより、人間が自分の行動パターンを変化させていくことそのものである。