ミステリ・パロディ
アルセーヌ・ルパンの最期
フランスは深夜だった。ラ・サンテ刑務所の獄中。さしもの怪盗紳士アルセーヌ・ルパンも、ここから出るのは困難な問題であった。
ひとり、思索にふけっていると、扉が開いた。
「誰だ!」
戸口から、いくつものライフルの銃口が姿を覗かせた。
「アルセーヌ・ルパン……きみは、やりすぎた。あまりにも手ひどく。もしきみの陰謀が成功したら、ヨーロッパじゅうがパニックになる。それだけは避けねばならん」
アルセーヌ・ルパンは、声の主に冷笑した。
「きみがか? よせ、きみにそんなことができるものか。そんな汚い工作が」
「わたしはできるし、やらねばいかん。大統領閣下からも密命を受けている。これから、きみに求められるのは、冷徹な野心家としてのそれではなく、いわば、『国家から承認された範囲』での冒険に限られるのだ」
「ぼくが? そんな条件、飲むと思っているのかね?」
「きみは飲むわけがない。だが、わたしは、法のしもべとして忠実に履行するだろう。そう、今夜から、わたしは、きみになるのだ」
「そんなこと……!」
「誰が、きみの本当の顔を知っているのかね? きみは変装したわたしであり、わたしは変装したきみだ。誰がそれを疑う? そして、きちんとした証明がなされれば? きみの伝記作者でも、まさにきみらしいやり方だ、と思えるやり方でね」
がしゃりと、金属音がした。
「きみの陰謀の根幹となる三人の人物は、わたしがきちんと処理しておくことにするよ。そしてそれが終わったら……わたしは、新しい、生まれ変わったきみの冒険を続けるだろうな。たとえば、ドン・ルイス・ペレンナと名乗ってね」
「やめろ……」
独房に逃げ場はない。
ライフルが火を噴いた……。
声の主は、静かにいった。「彼の死体は、火葬の上、パンテオンに丁重に葬ること。いささかの非礼があってはならない。そして、このことはすべて忘れたまえ。これ以降、アルセーヌ・ルパンは、『正義の味方』となるのだ」
兵士たちはうなずくと、ひそかに、作業を始めた。
知るものはラ・サンテ刑務所の壁だけである……。
元ネタ「813」「続813」(モーリス・ルブラン)
ひとり、思索にふけっていると、扉が開いた。
「誰だ!」
戸口から、いくつものライフルの銃口が姿を覗かせた。
「アルセーヌ・ルパン……きみは、やりすぎた。あまりにも手ひどく。もしきみの陰謀が成功したら、ヨーロッパじゅうがパニックになる。それだけは避けねばならん」
アルセーヌ・ルパンは、声の主に冷笑した。
「きみがか? よせ、きみにそんなことができるものか。そんな汚い工作が」
「わたしはできるし、やらねばいかん。大統領閣下からも密命を受けている。これから、きみに求められるのは、冷徹な野心家としてのそれではなく、いわば、『国家から承認された範囲』での冒険に限られるのだ」
「ぼくが? そんな条件、飲むと思っているのかね?」
「きみは飲むわけがない。だが、わたしは、法のしもべとして忠実に履行するだろう。そう、今夜から、わたしは、きみになるのだ」
「そんなこと……!」
「誰が、きみの本当の顔を知っているのかね? きみは変装したわたしであり、わたしは変装したきみだ。誰がそれを疑う? そして、きちんとした証明がなされれば? きみの伝記作者でも、まさにきみらしいやり方だ、と思えるやり方でね」
がしゃりと、金属音がした。
「きみの陰謀の根幹となる三人の人物は、わたしがきちんと処理しておくことにするよ。そしてそれが終わったら……わたしは、新しい、生まれ変わったきみの冒険を続けるだろうな。たとえば、ドン・ルイス・ペレンナと名乗ってね」
「やめろ……」
独房に逃げ場はない。
ライフルが火を噴いた……。
声の主は、静かにいった。「彼の死体は、火葬の上、パンテオンに丁重に葬ること。いささかの非礼があってはならない。そして、このことはすべて忘れたまえ。これ以降、アルセーヌ・ルパンは、『正義の味方』となるのだ」
兵士たちはうなずくと、ひそかに、作業を始めた。
知るものはラ・サンテ刑務所の壁だけである……。
元ネタ「813」「続813」(モーリス・ルブラン)
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NoTitle
あってもおかしくないというか、むしろこのほうが納得できてしまう(笑)
「奇岩城」までのルパンはそれ以降にはいないんだ……。
「奇岩城」までのルパンはそれ以降にはいないんだ……。
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Re: 椿さん
ルパン三世が強すぎて、誰がわかるんだこんなネタになってしまったのがつらい(笑)。