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    不快(壊れた文章)

    キーボードを叩くと出てくるのはでたらめな文字列

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     気温は摂氏で三九・九度。今日は過ごしやすい日だ。

     わたしは身体にプラスチック爆薬を巻いている。暑さで頭がぐらんぐらんする。

     歩いてすぐのところに繁華街がある。

     温室のような道をふらふらと歩く……。

     ここはミンダナオ。

     わたしがISに参加する気になったのは、単にこの世界に生きていることが嫌になったからに過ぎない。イスラム教とアラーの約束する天国など、正直、どうだっていい。むしろ信じているのはどちらかといえばグノーシス主義だ。

     わたしはなんとなく目を上げる。

     どうしてわたしはグノーシス主義のことなんか知っているんだろう?

     わたしは目をモニターに戻すと、手の指をキーボードに戻す。

     気温は摂氏で三九・九度。今日は過ごしやすい日だ。

     狭苦しいアパートの部屋。クーラーさえ壊れなければこんな蒸し風呂ではないのだが。わたしは下着一枚でキーボードを叩いている。鍛えていない身体は、スポーツマンのいう「悪い汗のかきかた」をそっくりそのまま踏襲している。大粒の雨のような汗が、それこそ雨に打たれたかのようにびっしょりと上半身と下半身を濡らしている。わたしはぼろぼろのタオルでぬぐうが、ぬぐってもぬぐっても汗は出るし、蒸発して気化熱を奪おうというだけの根性もないらしい。

     わたしは笑う。笑いながらキーボードを叩く。

     出てくるのは乱雑に並んだ、意味のない文字列。

     わたしはBSキーを押しっぱなしにしてそれらをすべて消す。

     暑い。

     気温は摂氏で三九・九度。今日はそれでも過ごしやすい日だ。

     わたしは画面をツイッターに変える。

     TLの記事は腹が立つことばかりだ。わたしはキーボードを叩き、それらひとつひとつに激烈な調子で辛辣な文句を叩きつけていく。

     友人はひとりまたひとりと減っていったが、そんなことはどうでもいい。わたしは自分のこの日本民族に対する苛立ちを文字列にして、ツイッターに流し込む。

     わたしは加藤智大。ひとりの憂国の士。

     返事が返ってくる様子はない。それでもいい。わたしは怒り、怒り、怒り、生まれてから表現する手段さえなかった自分の怒りを言語に変えていく。

     ペットボトルの2リットルの緑茶を、口をつけてぐいぐいと飲む。魔法瓶に用意した氷は、この熱気の前にすべて溶けてしまった。冷蔵庫が氷を作るには、まだしばらくの時間がある。それまでは、氷なしでこの生ぬるい緑茶を耐えなければならない。

     呼び鈴が鳴る。

    「どなたですか?」

    『クロネコヤマトです。宅急便です』

     わたしはシャチハタを探す。なかなか見つからない。どうしてこうもシャチハタだの三文判だのは必要な時に出てこないのだろう。

     クロネコヤマトの罪もない社員を待たせていては悪いので、下にトレパンだけ履いて玄関に行く。

     チェーンを外さず、鍵だけ空けてから扉を薄めに開ける。

    「木幡……修也さん?」

    「木幡ですが」

     クロネコヤマトの配達員はわたしに段ボールの箱を示す。ちょっとこの幅では入らないらしい。

     わたしは心の中で舌打ちし、扉を閉めてチェーンを外す。再び扉を開けると、疲れ切った顔の配達員と顔を合わせる。

     配達員は、わたしの顔を、見覚えがあるかのような様子で見ると、箱と伝票を突き出す。

     わたしは疲れた調子でいう。答えがわかりきっている質問。

    「サインでいいですか?」

    「いいですよ。そこに、木幡、って書いてください」

     わたしはボールペンの、どこか震えを帯びた字で「木幡」と記入し、段ボール箱を受け取る。

     クロネコヤマトの配達員は、「ありがとうございましたー」というも早々に、私のアパートから去っていく。

     わたしは扉を閉める。鍵をかけ、チェーンをかける。

     風の通らない部屋で、わたしはゆっくりとコーランを開く。

     アッラーは偉大なり……アッラーのほかに神なし……。

     頭の中をコーランの詠唱が駆け抜け、わたしは宗教的な法悦感に包まれる。

    「きみは神に選ばれた戦士なのだ」

     ジャファールと呼ばれた男はわたしにそう語りかける。

    「神のために死ぬことができる、これ以上の栄誉があるか?」

     わたしは、ない、と答える。暑さと濁った空気が、脳細胞に適度な霞をかける。どこか自堕落な快感。

    「きみはこれを着なければならない」

     ジャファールはわたしにプラスチックの練り物が裏地にびっしりと縫い付けられた衣服を示す。

    「その上からこれを着る」

     こちらは、貧乏人の間でよく使われている日光よけのポンチョだ。

    「きみは落ち着いて歩かなければならない。あまり早く、車から降りてはかえって怪しまれるだけだ」

     わたしはぼんやりとしながらかくかくとうなずく。

    「きみは乞食のように歩かなくてはならない。あの娼婦どもの通りには、そのような男が山ほどいるからそれに紛れられる。そして、最初に目に入るあのカジノ……『ラスベガス』そこがきみの目的地だ」

     わたしはかくかくとうなずく。

    「きみはそこを死体の山に変えねばならない」

     わたしはうなずく。この時のために買っておいた出刃包丁、サバイバルナイフ、その他もろもろの刃物。自動車のキーが、パソコンの横においてある。

     あの害虫しか住んでいない秋葉原を死体の山に変える! わたしは興奮のあまりに涎をたらす。あわてて拭くが、それは自らの死を決意した人間にふさわしいことではない。

     加藤智大という人間は、もう、一年と生きていることはできないだろう。それでいいのだ。この人生に華々しいフィナーレを与える、まさにそのとき、自分は「特権的立場」に立つことができるのだ!

     特権的立場。よく使ったタームである。

     わたしはクロネコヤマトが持ってきた段ボール箱を開く。そこには、埴谷雄高の「死霊」全三巻が……となったら格好もいいのだが、実際は最近はまっているTRPGオンラインセッションのためのシナリオに使うゲームブック「運命の森」である。

     わたしはゲームブックのページをぺらぺらとめくり、満足げに笑い、再びパソコンの前に座り込む。

     キーボードを叩く。出てくるのはでたらめな文字列。


    ※ ツイッターにハマっているころに書いたもの。とにかく暑い夏だったのだろう。いわゆるニューウェーヴ系統のSFを念頭に書いたものだが、今年の夏にUPするととうとう頭がおかしくなったか、と思われるかもしれないので、いまのうちにUPしておくことにする。内容の時事ネタももう時効だろうし。ショートショートの「SF」にUPしようかと思ったが、どう考えてもこの「壊れた文章」のほうが正しいような気がしてこちらに入れた(笑)。
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    ~ Comment ~

    Re: miss.keyさん

    たまに、「黒ブリッツ」ってもんがあらわれて、こういうのを書かせるんですよねえ。

    はてさてどれだけのもんか、と思ってこうして出すと、やっぱり閲覧者数がひどい結果になるという(笑)。

    しばらくは控えようと思います…‥って、最初からお蔵にすればよかった言う話も(笑)。

    うん、相当ヤバイ

     ポール・ブリッツさんが遂に壊れたぁぁぁぁ。と思ったが、どうやらまだ大丈夫らしい。二月の後は知らん(笑
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