救い

　彼はジョージ秋山の訃報を聞く。

　あの「アシュラ」の結末では、

　仏門に帰依したアシュラは「命」という名前をもらうはずだったのだそうだ。

　それだけでなんとなく彼にはわかる。

　仏門に帰依して名前をもらったアシュラは、

　なにひとつ救いを感じることもなく、

　救われずにただ生きていくというラストシーンだったのだろうと。

　あの忘れがたい作品「銭ゲバ」のラストシーンのように、

　あるいはグノーシスの賢者が二千年以上前に悟ったように、

　「救い」を何らかの見える形で表現しようとしたら死ぬしかないのだ。

　なぜなら、「救い」とは、「自分の犯した罪に対する贖罪行為」を、

　これ以上なにもしなくていいしする必要もないという、

　誰もが納得する理由づけ以外の何物でもないからだ。

　そう考えると、と彼は苦笑する。

　日本政府が、自分たちの過去に対してあれほど懸命になるのもわからないでもないな、と。

　国がつぶれて民族が絶滅したら、たしかになにも謝る必要はないわけだから。

　それを目論んで国際外交をやっているとしか、

　すでに彼には思えない。