「ナイトメアハンター桐野(二次創作長編小説シリーズ)」
4 天使を吊るせ(完結)
天使を吊るせ 6-2
「あの人」
島田春江は少女のように頬を染めた。わたしよりも十は年上の島田女史が。
「もう、あの人ったら、とっても優しいんですよ、桐野先生。この間も……」
島田春江ののろけが始まった。わたしはかぶりを振って診察室のドアを開け、さらに診察室の中にあるドアを開けて受付に入った。
島田春江ののろけ話に五分ほどつきあってから、くずかごにコーラの缶を捨てた。
「……あたしに包みを渡してくれて、例のごとくぶっきらぼうに、プレゼントだ、って。中を見たら、アクアマリンの……ちょっと桐野先生、聞いてます?」
「聞いてるよ」
今度余目の野郎に会ったときに優位に立てるネタだ、聞かないわけがあるものか。
わたしはコートを脱いでハンガーにかけ、伸びをして首をねじった。
「相変わらず良好みたいじゃないか。妬けるね。どうして、お互いに籍を入れる気にならないかのほうがよっぽどわからない話だよ」
島田春江が話していた余目というのは、先にも話したわたしのパトロンである大富豪、大野龍臣老人のもとで非合法活動の実動部隊の隊長みたいな役柄を長年勤めている男だ。どれだけ闇の世界で生きてきたのかわからないような不敵で不逞な面構えをしているくせに、背広を着ておとなしくしているとどこにでもいるようなサラリーマンの一人にしか見えないという便利な顔の持ち主である。森村探偵事務所の北村といい、わたしの周りにはこういう人間がなぜか多い。
島田春江は、喜びとも悲しみともつかぬ、ある意味それらから超然とした、どこか悟ったような表情でコーラを飲み干すと答えた。
「籍を入れるつもりはありません」
「なんで?」
「先生も知っておられるでしょう。あの人のお仕事、危険なお仕事なんですよ。命がかかることもあるような。そうでしょう?」
「よくは知らないが、たぶんそうだろうな」
「だったら籍を入れるなんてできるわけがありませんよ。先生、刑事ドラマとか戦争ドラマとか見ます?」
「見ないこともないけど」
「それなら、その中で、愛し合う二人が籍を入れようとしたらどうなるかくらいはわかるでしょう。なにか、破滅的な事態が起こって、どちらかが死んでしまうと相場が決まっているんですからね」
わたしは頭を抱えた。
「それは島田さんもいったとおり、ドラマの話だろう。現実はもっと散文的だぜ」
「あたしは翌週にあの人の殉職遺体を見るリスクを犯すのが嫌なだけです。そもそも、先生こそどうなんですか。彼女とまではいわないけれど、あたし以外の異性の友達でも作ったらどうですか。その新興宗教には、いい人はいなかったんですか?」
島田春江は少女のように頬を染めた。わたしよりも十は年上の島田女史が。
「もう、あの人ったら、とっても優しいんですよ、桐野先生。この間も……」
島田春江ののろけが始まった。わたしはかぶりを振って診察室のドアを開け、さらに診察室の中にあるドアを開けて受付に入った。
島田春江ののろけ話に五分ほどつきあってから、くずかごにコーラの缶を捨てた。
「……あたしに包みを渡してくれて、例のごとくぶっきらぼうに、プレゼントだ、って。中を見たら、アクアマリンの……ちょっと桐野先生、聞いてます?」
「聞いてるよ」
今度余目の野郎に会ったときに優位に立てるネタだ、聞かないわけがあるものか。
わたしはコートを脱いでハンガーにかけ、伸びをして首をねじった。
「相変わらず良好みたいじゃないか。妬けるね。どうして、お互いに籍を入れる気にならないかのほうがよっぽどわからない話だよ」
島田春江が話していた余目というのは、先にも話したわたしのパトロンである大富豪、大野龍臣老人のもとで非合法活動の実動部隊の隊長みたいな役柄を長年勤めている男だ。どれだけ闇の世界で生きてきたのかわからないような不敵で不逞な面構えをしているくせに、背広を着ておとなしくしているとどこにでもいるようなサラリーマンの一人にしか見えないという便利な顔の持ち主である。森村探偵事務所の北村といい、わたしの周りにはこういう人間がなぜか多い。
島田春江は、喜びとも悲しみともつかぬ、ある意味それらから超然とした、どこか悟ったような表情でコーラを飲み干すと答えた。
「籍を入れるつもりはありません」
「なんで?」
「先生も知っておられるでしょう。あの人のお仕事、危険なお仕事なんですよ。命がかかることもあるような。そうでしょう?」
「よくは知らないが、たぶんそうだろうな」
「だったら籍を入れるなんてできるわけがありませんよ。先生、刑事ドラマとか戦争ドラマとか見ます?」
「見ないこともないけど」
「それなら、その中で、愛し合う二人が籍を入れようとしたらどうなるかくらいはわかるでしょう。なにか、破滅的な事態が起こって、どちらかが死んでしまうと相場が決まっているんですからね」
わたしは頭を抱えた。
「それは島田さんもいったとおり、ドラマの話だろう。現実はもっと散文的だぜ」
「あたしは翌週にあの人の殉職遺体を見るリスクを犯すのが嫌なだけです。そもそも、先生こそどうなんですか。彼女とまではいわないけれど、あたし以外の異性の友達でも作ったらどうですか。その新興宗教には、いい人はいなかったんですか?」
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~ Comment ~
こんばんは!
島田さん…ドラマの見過ぎッスよ…(^ω^;)
たしかにそうですけどねっ!
そうなんですけどねっ!
もうちょっと夢を見ても現実は結構安全スよd('▽')
あ、一つご報告がありますっ
シヴァ、描きましたーv
よろしければ見てやってください↓
http://nonoa18.blog88.fc2.com/blog-entry-166.html
エジプトのごはんの資料、ありがとうございましたv
それではまた来ます♪♪
たしかにそうですけどねっ!
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もうちょっと夢を見ても現実は結構安全スよd('▽')
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エジプトのごはんの資料、ありがとうございましたv
それではまた来ます♪♪
- #759 佐槻勇斗
- URL
- 2010.01/29 22:24
- ▲EntryTop
リンクさせていただきました。
相互リンクのお申し出、誠に光栄です。
それほど訪問していただく方もないので、ポール・ブリッツさんにメリットはないかも知れませんが、
こんなBlogでよろしければぜひお願いいたします。
早速、リンクさせていただきました。
今後とも宜しくお願いします。
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Re:こんばんは!
でもまあ島田さんもそう思ったほうが日ごろのラブライフにスパイスが(*^^*)
そのうち籍を入れてあげようかなあどうしようかなあ(^^)