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    読書日記

    パトリシア・モイーズチャレンジ(4)

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     読んだのは先週だがなんとなく記事を書きそびれていたので今書く。

    「流れる星」……地下鉄駅の映画ロケでの撮影中に、主演スターのひとりが、突如足をすべらせ、走ってきた列車にはねられて死亡した。誰もが認める完全な事故。それを不審に思ったプロデューサーのパッジは、友人のティベット警部に相談するのだが、という話である。もとからモイーズはピーター・ユスティノフの秘書を務めていたばりばりの映画人であるのだが、そんなモイーズの映画人生でのうらみつらみがたまっていたのだろう、徹底的な「プロデューサーいじめ」小説である。才能以前に映画のことなんかまるでわかってないにもかかわらず、あの予算をカットしろ、この小道具を減らせ、などといちいち文句をつけてくるプロデューサーというものを徹底的にカリカチュアにしており、たっぷり笑える。読んでいると、殺人事件の捜査などどうでもいいから、映画の完成とヒットのほうを祈りたくなってくる作品。もちろん、本書の犯人もティベット警部をきりきり舞いさせるほどに大胆かつ狡猾であり、謎解きファンも満足が行くと思う。プロデューサーのパッジという間抜けな人間を思うがままに動かして自己保身をたくらむ犯人を、ティベット警部は刑務所に送ることができるかどうか、ぜひご一読してたしかめてほしい。

    「死の贈物」……かつて、社交界の女王だった老夫人の邸では、誕生日になると三人の娘が集まって、それぞれ、ケーキ、バラ、シャンペンをプレゼントするのが恒例行事となっていた。身の危険を感じたその老夫人からの依頼を受けて受け渡しの場に毒見役として立ち会ったティベット警視の前で、老夫人は顔を掻きむしると倒れ、死んだ。どこからどう見ても完全な毒殺であったが、検死解剖の結果、驚くべきことがわかった。どこからも毒物が発見されなかったのである。無論、老婦人の肉体からも。ミステリファンの永遠のあこがれである「痕跡をまったく残さない毒物」という謎に正面から挑戦した力作で、1970年のMWA賞ノミネート作品である。この「痕跡をまったく残さない毒物」という謎についてのもっともエレガントな解答は、ジョン・ロードの「クラヴァートンの謎」だと思うが、本作もロードのそれに匹敵する内容である。二転三転する事件の様相といい、謎解き近くでのスリルとサスペンスといい、疑いようもなくモイーズの最高傑作だろう。作者のモイーズが、献辞で書くことができなかったから、と、実際にヒントを得た事件と、それにかかわった人々のことをあとがきで詳細に書いている。今回は、最初のページをめくってから、どきどきしながら本すら離さず一気読みしたのでよかったが、もし先にあとがきから読んでいたらと考えると怖いものがある。くれぐれも、この本を買うことがあったならば、あとがきは先に読まないように。

    「雪と罪の季節」……スイスの田舎町で殺人事件が発生し、飲んだくれだった被害者によるDVに苦しんでいた若妻が逮捕され、有罪となって事件は結審した。だが、休暇旅行にやってきたティベット警部は、その裁判記録と新聞記事、そして人々の証言から、事件に疑問を抱き、犯人はほかにいると確信して捜査を始める。というわけで、序盤はローカルな痴情のもつれの話かと思っていたのが、だんだんとスケールが大きくなり、国際的な問題ともからんでくる展開が見事。まことにすばらしいハッタリぶりに、読み終わった後で心地よい疲れを覚えた。意外とヘビー級な作品なのである。しかし、殺人犯すのに、こんな目立つアリバイ工作していいのかなあ、とも思わないでもないなあ。
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    ~ Comment ~

    Re: 椿さん

    モイーズが電子書籍になっていたなら推薦もしますが、いまは、読書の充実よりも、ご家庭の平和のほうに力を傾注された方がいいのでは、と思わないでもなく……(笑)

    NoTitle

    くぅ……! 面白そうだ……!
    本を増やすなと家族から言われているというのに(^^;
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