読書日記
パトリシア・モイーズチャレンジ(5)
今日はバーミヤンでビーフン食いながら一冊片づけた。
「第三の犬」……発端は酔っ払い運転の末の事故死というあまりにも単純な事件からだった。獄中で無罪を叫ぶ容疑者は、自分がいない間の飼い犬の世話を、ティベット主任警視の義姉のジェーンに託したが、三匹いるといわれた犬は二匹しかいなかった。何者かに盗まれたのだろうか。おりしも、ジェーンの家には、ギャングの抗争事件で頭が痛いティベット警視夫妻が骨休めにやってきていた。犬の盗難事件の話をティベット警視が何の気なしに聞いていると、それは警視の抱える抗争事件と次第に絡み合ってきて、という話。イギリス人というのは、どうしてこうも犬が好きなのか。そしてイギリス人のおばさんというのは、どうしてこうも犬が好きなのか。小さいころに犬にギャンギャン吠えられて以来、大型犬を見たら即座に一歩後ずさりするわたしにはよくわからないのだが。本書は、一石において二鳥も三鳥も企てる狡猾な犯人が出てくる、重層的なプロットが読みどころである。このネタは「フロスト警部」シリーズのウィングフィールドにやってほしかったなあ。あの人なら、「モジュラー型警察小説」としてもっとうまく組んでくれたと思うのだが、モイーズの帳尻の合わせ方もベテランゆえに堂にいったものなので、フーダニットものとしては、秀作といっていいだろう。「謎の女」の使い方なんてうまいものである。
満足したミステリを読んでいい気持ちになって帰ってきたら、オンラインでやっているTRPGのセッションがひとつ、ゲームマスターのカゼによりお流れになっていたので、そのまま腰を据えて2冊目を読み始めた。
「死は海風に乗って」……カリブ海の新興国タンピカがワシントンDCに設けた大使館で行われたパーティー。その会場で、大使夫人が拳銃で頭を撃って死んだ。当時、アメリカとの切実な外交問題に直面していた、大使であるエドワードは、アメリカの介入を防ぐため、夫人の自殺という線で、すべてをタンピカの司法権内で処理しようと工作を進める。だが、次から次へと新たな事実が明らかになってくる。タンピカの警察力は皆無に近い。妥協案として、イギリスから、スコットランドヤードの優秀な警察官を招聘してアドバイザーにしようという案が大使本人から提案された。スコットランドヤードからやってきたのは、大使の旧知であるティベット主任警視その人であった、という話。とにかく作者のモイーズが、エキゾチックなカリブ海にいかれてしまったことがよくわかる作品。全編から、「カリブでもっと遊びたい」という意思が伝わってくる。その結果として、ティベット警視がカリブ海で活躍する話は3作も書かれてしまい、モイーズも移住してしまったそうである。まったく金持ちのイギリス人ってやつは。本作の読みどころは、もちろん、この、動機と機会とを備えた複雑な内面の持ち主である大使は、はたして犯人か否か? というところである。モイーズ本人がやる気になっているせいか、いろいろと舞台装置にはこだわっているが、肝心のトリックが戦前のそれなので、腰砕けもはなはだしいのが難点。カリブ海シリーズのほかの2作は手に入れられなかった。「ココナッツ殺人」とか異様に気になるタイトルはあるんだがなあ(笑)。
古本屋で合計14冊も買った手持ちのモイーズも残り3冊。意外と減りが早い。この調子でガンガン読んでいこう。なにしろ積読本が大量なのだ。うぬぬぬ。
「第三の犬」……発端は酔っ払い運転の末の事故死というあまりにも単純な事件からだった。獄中で無罪を叫ぶ容疑者は、自分がいない間の飼い犬の世話を、ティベット主任警視の義姉のジェーンに託したが、三匹いるといわれた犬は二匹しかいなかった。何者かに盗まれたのだろうか。おりしも、ジェーンの家には、ギャングの抗争事件で頭が痛いティベット警視夫妻が骨休めにやってきていた。犬の盗難事件の話をティベット警視が何の気なしに聞いていると、それは警視の抱える抗争事件と次第に絡み合ってきて、という話。イギリス人というのは、どうしてこうも犬が好きなのか。そしてイギリス人のおばさんというのは、どうしてこうも犬が好きなのか。小さいころに犬にギャンギャン吠えられて以来、大型犬を見たら即座に一歩後ずさりするわたしにはよくわからないのだが。本書は、一石において二鳥も三鳥も企てる狡猾な犯人が出てくる、重層的なプロットが読みどころである。このネタは「フロスト警部」シリーズのウィングフィールドにやってほしかったなあ。あの人なら、「モジュラー型警察小説」としてもっとうまく組んでくれたと思うのだが、モイーズの帳尻の合わせ方もベテランゆえに堂にいったものなので、フーダニットものとしては、秀作といっていいだろう。「謎の女」の使い方なんてうまいものである。
満足したミステリを読んでいい気持ちになって帰ってきたら、オンラインでやっているTRPGのセッションがひとつ、ゲームマスターのカゼによりお流れになっていたので、そのまま腰を据えて2冊目を読み始めた。
「死は海風に乗って」……カリブ海の新興国タンピカがワシントンDCに設けた大使館で行われたパーティー。その会場で、大使夫人が拳銃で頭を撃って死んだ。当時、アメリカとの切実な外交問題に直面していた、大使であるエドワードは、アメリカの介入を防ぐため、夫人の自殺という線で、すべてをタンピカの司法権内で処理しようと工作を進める。だが、次から次へと新たな事実が明らかになってくる。タンピカの警察力は皆無に近い。妥協案として、イギリスから、スコットランドヤードの優秀な警察官を招聘してアドバイザーにしようという案が大使本人から提案された。スコットランドヤードからやってきたのは、大使の旧知であるティベット主任警視その人であった、という話。とにかく作者のモイーズが、エキゾチックなカリブ海にいかれてしまったことがよくわかる作品。全編から、「カリブでもっと遊びたい」という意思が伝わってくる。その結果として、ティベット警視がカリブ海で活躍する話は3作も書かれてしまい、モイーズも移住してしまったそうである。まったく金持ちのイギリス人ってやつは。本作の読みどころは、もちろん、この、動機と機会とを備えた複雑な内面の持ち主である大使は、はたして犯人か否か? というところである。モイーズ本人がやる気になっているせいか、いろいろと舞台装置にはこだわっているが、肝心のトリックが戦前のそれなので、腰砕けもはなはだしいのが難点。カリブ海シリーズのほかの2作は手に入れられなかった。「ココナッツ殺人」とか異様に気になるタイトルはあるんだがなあ(笑)。
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Re: ハヤシさん
カリブ海ものは「死は海風に乗って」しか入手できませんでしたが、やっぱり質的には落ちますか。でも、ここまで来たら、古本屋に通って買って読んでしまうんだろうなあ。絶版品切れだけど、入手困難本ってわけでもないだろうし。
いま「ブルー・ムーン亭」読んでますが、これでティベットも終わるとなると寂しいものがありますな。とにかく「晩節を汚す」ような作品でないことを祈るだけですけど。
いま「ブルー・ムーン亭」読んでますが、これでティベットも終わるとなると寂しいものがありますな。とにかく「晩節を汚す」ような作品でないことを祈るだけですけど。
NoTitle
ココナッツ殺人……。確かに気になるタイトルですね。ココナッツの実を頭にぶつけて、というイメージしか私の頭では浮かびませんが、実際の作品はどんなものなんだろう(笑)
私見ですがクリスティと一緒でモイーズのカリブ海物は本人が楽しいだけで、あんまり大したことはない気がします。やはり初期の様々な意匠を凝らした長編が本領だと思います。『ココナッツ殺人』…タイトルは素敵ですが中身は(笑)
- #21301 ハヤシ
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- 2020.07/11 02:14
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Re: 椿さん