読書日記
「ジャイアント台風(タイフーン)」読む
深夜になってなかなか寝付けなくて、広告収入が著作権者に還元されることで知られる無料マンガサイト、マンガ図書館Zのサイトに飛んだら、本の中にあったので読むことにした。
感想、というほどのこともないのだが、読み始めたらやめられなくなり、全12巻を朝の4時まで読みふけってしまった。梶原一騎のテクニックを研究ないし勉強しようか、とも思っていたが、研究どころの騒ぎではない。
ジャイアント馬場が主人公のしょーもないスポ根マンガなのに、どうしてこんなに面白いのか、自分なりに考えてみた。
まず、なんといっても、作中で主人公の馬場は、プロレスラーであるからリングでいくつもの勝負をするわけであるが、梶原一騎は、「そこで絶対に読者にカタルシスを与えない」。おそらくはこれが梶原作品を魔性のものにしている原動力であろう。勝っても勝っても、必ず「勝ったはいいものの……」というもやもや感を最低でも一要素は残す。馬場が勝って、そこで読者にスカッとされたら、その時点で本を閉じられてしまうからだ。馬場は勝つが、それはいわゆる「戦術的、局地的な勝利」に過ぎず、王座奪取という「戦略的、大局的な勝利ではない」のだ。これがもう最終回まで徹底している。苦戦の末に強敵に勝つということにより、事態はさらに悪化するのだ。強敵は、さらなる強敵の前の「つなぎ」にすぎず、目標がかなった、と思った瞬間、敵の陰謀によってそれがもろくも崩壊する。最初のページから、ずーっとそれである。実際の馬場の成績がそうだったから仕方がないのだが、うまい人見つけたなあ、といわざるを得ない。もやもやを解消するため、とにかく次のページをめくり、気がつけば窓に薄日がさしかかって鳥がちゅんちゅん鳴いているというご覧の有様を呈する。梶原一騎はこういうことをやらせると抜群にうまい。
そして、次が、「小道具の面白さ」である。馬場が行う無数の特訓(中には地面に埋めて顔面をジープで轢くというものまである)の面白さ、出てくるレスラーひとりひとりの、こういう言葉は嫌いだが「キャラが立ちまくっている」濃い面々ぶりの面白さ、試合ひとつひとつの趣向の面白さ、馬場の編み出す必殺技の面白さ、もう、梶原一騎、どこからこういうアイデアを出してくるんだ、といいたくなるくらいだ。だが、これは副次的なものにすぎない。多くの新人賞ラノベ作品では、それを勘違いしているのだろう。かくいうわたしも勘違いしていた。あくまでもメインは、「結末まで読者にカタルシスを、可能性をちらつかせるだけで絶対に与えない」というところにあるのであり、その前提条件においてのみ、こういった小道具の面白さが爆発するのである。
さらにそこに、「事実を淡々と語る」という体裁のドキュメンタリズムを文章に与えれば、リアルさが一段と増して、こんな大嘘とハッタリで満ち満ちた世界が、ほんとうにドキュメンタリーのように見えてくるのだ。たまらんなあ。まともな神経だったら、馬場が田舎に帰ると、「馬場そっくりの顔をした馬場の老母」が出てくるなんてコマ、失笑せずには見られないものだが、それが納得させられてしまう恐怖の剛腕。ここは梶原一騎のストーリーテリングだけではなく、辻なおきの絵がうまいからだろうなあ。
とにかく、連載物で、読者に次のページを読んでもらいたい人は、梶原一騎を研究するべきだろうと思う。その点で、この「ジャイアント台風」は、「タイガーマスク」や「巨人の星」に比べてアクが強くないだけ、いい研究材料になるのではないだろうか。
とりあえず、今日はもう、馬場が勝ったからいいや。ああ、もういいかげん朝じゃないか。寝よう。少なくとも仮眠くらい取ろう。おやすみぐーぐー……。
感想、というほどのこともないのだが、読み始めたらやめられなくなり、全12巻を朝の4時まで読みふけってしまった。梶原一騎のテクニックを研究ないし勉強しようか、とも思っていたが、研究どころの騒ぎではない。
ジャイアント馬場が主人公のしょーもないスポ根マンガなのに、どうしてこんなに面白いのか、自分なりに考えてみた。
まず、なんといっても、作中で主人公の馬場は、プロレスラーであるからリングでいくつもの勝負をするわけであるが、梶原一騎は、「そこで絶対に読者にカタルシスを与えない」。おそらくはこれが梶原作品を魔性のものにしている原動力であろう。勝っても勝っても、必ず「勝ったはいいものの……」というもやもや感を最低でも一要素は残す。馬場が勝って、そこで読者にスカッとされたら、その時点で本を閉じられてしまうからだ。馬場は勝つが、それはいわゆる「戦術的、局地的な勝利」に過ぎず、王座奪取という「戦略的、大局的な勝利ではない」のだ。これがもう最終回まで徹底している。苦戦の末に強敵に勝つということにより、事態はさらに悪化するのだ。強敵は、さらなる強敵の前の「つなぎ」にすぎず、目標がかなった、と思った瞬間、敵の陰謀によってそれがもろくも崩壊する。最初のページから、ずーっとそれである。実際の馬場の成績がそうだったから仕方がないのだが、うまい人見つけたなあ、といわざるを得ない。もやもやを解消するため、とにかく次のページをめくり、気がつけば窓に薄日がさしかかって鳥がちゅんちゅん鳴いているというご覧の有様を呈する。梶原一騎はこういうことをやらせると抜群にうまい。
そして、次が、「小道具の面白さ」である。馬場が行う無数の特訓(中には地面に埋めて顔面をジープで轢くというものまである)の面白さ、出てくるレスラーひとりひとりの、こういう言葉は嫌いだが「キャラが立ちまくっている」濃い面々ぶりの面白さ、試合ひとつひとつの趣向の面白さ、馬場の編み出す必殺技の面白さ、もう、梶原一騎、どこからこういうアイデアを出してくるんだ、といいたくなるくらいだ。だが、これは副次的なものにすぎない。多くの新人賞ラノベ作品では、それを勘違いしているのだろう。かくいうわたしも勘違いしていた。あくまでもメインは、「結末まで読者にカタルシスを、可能性をちらつかせるだけで絶対に与えない」というところにあるのであり、その前提条件においてのみ、こういった小道具の面白さが爆発するのである。
さらにそこに、「事実を淡々と語る」という体裁のドキュメンタリズムを文章に与えれば、リアルさが一段と増して、こんな大嘘とハッタリで満ち満ちた世界が、ほんとうにドキュメンタリーのように見えてくるのだ。たまらんなあ。まともな神経だったら、馬場が田舎に帰ると、「馬場そっくりの顔をした馬場の老母」が出てくるなんてコマ、失笑せずには見られないものだが、それが納得させられてしまう恐怖の剛腕。ここは梶原一騎のストーリーテリングだけではなく、辻なおきの絵がうまいからだろうなあ。
とにかく、連載物で、読者に次のページを読んでもらいたい人は、梶原一騎を研究するべきだろうと思う。その点で、この「ジャイアント台風」は、「タイガーマスク」や「巨人の星」に比べてアクが強くないだけ、いい研究材料になるのではないだろうか。
とりあえず、今日はもう、馬場が勝ったからいいや。ああ、もういいかげん朝じゃないか。寝よう。少なくとも仮眠くらい取ろう。おやすみぐーぐー……。
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なるほど、可能性は見せつつカタルシスは与えないか……。「巨人の星」は読みましたがそういえばそういう感じですね。それって結構、難しそう。
出版社のマンガサイトをいくつか登録していますが、つい読み耽ったりしちゃうのであれはヤバいです(^^;
出版社のマンガサイトをいくつか登録していますが、つい読み耽ったりしちゃうのであれはヤバいです(^^;
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Re: 椿さん
最近のマンガでそのテクニックを余すところなく見せつけたのが「進撃の巨人」ではないかと思ってるんですけどねえ。あれほど、主人公側が勝てば勝つほど事態が悪化していくマンガもない。途中までしか読んでませんけどね。