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    読書日記

    「プロレススーパースター列伝」読む

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     昨日に続いて、マンガ図書館Zで梶原一騎のプロレスものの名作「プロレススーパースター列伝」を読む。後半、タイガーマスク編以降の未読分も含めて全17巻をむさぼるように読んでしまった。

     とにかく、梶原先生、ドキュメンタリーの体裁を取っているにもかかわらず、「息をするようにウソをつく」人であった。あまりにも自然にウソをつく、これは天性の才能というしかないだろう。それでも、ウソのつき方を学ぶのには絶好の素材でもある。

     たぶん、この漫画で、いちばん有名なウソは、「アブドラ・ザ・ブッチャー」のくだりだろう。

     ケチで冷血非情で、マスコミを嫌うブッチャーだが、それでもひねくれた面があって、梶原一騎が安い小さなレストランで食事をおごると、自分の半生について話してくれるわけだが、まず、この時点から、ウソが静かに炸裂し始める。プロレス関係者として梶原一騎はブッチャーとの会食の席は何度かあっただろうが、このような形で食事をおごって半生を語ってもらった席というのはそもそも存在しないと思ったほうがいいだろう。

     その席で自分の生まれについて、ブッチャーは自分の本名のゼーラス・アマーラを語り、梶原が「スーダンで生まれてカラテの修行をしたそうですね」という問いに、「ノーッ それも伝説!」「スーダン系の移民だが、生まれたのはカナダ」と答え、東南アジアをドサ周りしていたときに入門したガマ・オテナという師匠について語るのだが、その「ガマ・オテナ」が実在しない人物であり、ウソ八百の半生が語られていく。そして要所でアントニオ猪木のコメントが「アントニオ猪木(談)」いう形で入ってくるが、アントニオ猪木が梶原とそんな話をした事実はまずない。

     ここで、梶原のついているウソが、「読者が『こうであったらいいな』と薄々考えていること」の線上にのっかりながら、それを微妙に外していくことでリアリティを与える、という手法を用いていることをよく考えるべきである。その意味で、読者は、「ブッチャーが自分のことを話してくれたらいいのにな」と思う期待を補強してくれる「小さなレストランでの食事」というウソを丸呑みした時点で、梶原の手中にずっぽりとハマっているのである。その時点で心理面でのガードが下がり、あとは、梶原がブッチャーのどんな半生を語ったとしても、同様に丸呑みしてしまうだろう。同じようにガードを下げさせる手段としては、「ジャイアント台風」で、馬場の、野球人としての結末を雄弁に語っておいて、「この馬場という男がこんな悲惨な運命にあっていいわけがない。プロレスラーとしてあれだけ大成したんだから、何か逆転のきっかけがあっていいはずだ」と読者の心情に訴えてから、そこからウソ八百の苦難に満ちた立身談を語る、というやり方も冴えているだろう。「逆転するのが正しい世の中の在り方だ」と思わせたら、あとは梶原一騎がどれだけホラを吹こうとも、読者は素直に丸呑みしてくれるのである。

     「こうであるのが世の中の正しい在り方だ」と受け手に確信させてしまえばあとはやり放題、というのは、詐欺師の手口の基本みたいなもので、あの「オレオレ詐欺」も、被害者に「この自分が直面しているトラブルは、金を払えば解決するのが世の中の正しい在り方だ」と思わせた時点で、詐欺師側は望むがままに被害者からキャッシュディスペンサーのごとく金を引き出す委任状を手にしたも同然なのである。その、受け手が考えやすい「世界の正しい在り方」の流れをまとめたものが、フィクションでは「王道」と呼ばれているストーリーであるといっていいだろう。

     この作品中最大の長さを誇る「タイガーマスク編」がいま読むと失笑続きのものになってしまうのは、いまの読者が考えるのが「タイガーマスクがんばれ」ではなく「佐山サトルには覆面レスラーなんかになってほしくなかった」であるため、タイガーマスクの活躍が「世界の正しい在り方」とズレてしまったからに他ならない。

     この「世界の正しい在り方」は、考え出すと思想とか政治とかのヤバいほうにいってしまいかねないので、それは今はおいておくが、たかがプロレスマンガを考えるだけなのに思想とか政治とかに話が行ってしまうから、プロレスというのは奥が深いものであるなあ……。
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    ~ Comment ~

    Re: 椿さん

    ホント苦労しませんよね(笑)。

    とりあえず自分の作品を読み返してみると、いかに「読者のニーズ」に答えていなかったのかがよくわかってきて冷汗三斗であります(^^;)

    「進撃」は無料セール期間が終わったところで「ここで作者が急逝した」と思ってそこから先を読んでませんが、まだ続いてるんですか……今はいったい何と戦っているのやら……。

    NoTitle

    > 「読者が『こうであったらいいな』と薄々考えていること」の線上にのっかりながら、それを微妙に外していく

    うわー。それが出来たらホント苦労しないやつ……!
    やっぱりすごいですね、あのかた。たぶん全盛期は、それを自然に出来たんでしょうね。時代にもマッチしていたんだろうなあ。

    「進撃」がそういうタイプの作品、というの、なるほどと思いました。確かにあれはそうですね。局地的勝利のカタルシスに酔った直後に、新展開でどん底に落としてくるものなあ……(^^;
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