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    読書日記

    「ロッポンギより愛をこめて」読む

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     80年代の半ばごろ、読書界の一部でブームになった「定吉七番」シリーズの一作である。

     定吉七番について説明すると、東西対立が続く冷戦下、殺人許可証を持つ腕利き情報部員として日夜西側世界のために戦う大阪商工会議所秘密会所の丁稚「定吉七番」が、大阪や京都といった西側社会への侵略を執拗に狙う関東の陰謀に立ち向かう、という、スパイ・スリラー小説である。まあ要するにイアン・フレミング「007シリーズ」のパロディだ。実際に読んでも、しつこいくらいに繰り出されるシモネタとパロディとギャグの洪水に、「く、くだらない」としか言葉が出ないような作品である。

     今回のサカナにされているのは、もちろん映画でも小説でも屈指の名作「ロシアより愛をこめて」、フロム・ロシア・ウィズ・ラブというやつだ。まあくだらなくてバカバカしくて、田中安雄が西側の潜入工作員だったり(よく似た名前の人物がいるけど気にしたら負けだ)、敵の秘密組織の名前がKIOSK(関東一円お弁当殺人協会)だったり、あげくの果てには原作のアクションの部隊がオリエント急行だったからって、クリスティの「オリエント急行の殺人」までパロディネタに組み込んだり、ともうやりたい放題。この数日読んだ中でも最大級にくだらなくてしょーもない小説だった。

     ……のであるが、作者の東郷隆先生が、戦場ジャーナリスト出身で冒険小説を読みまくっていたせいか、後年になって歴史小説作家に華麗なる転身を遂げたせいか、スパイ・スリラーとしての骨格が、ノリにふさわしくないほど骨太で、注ぎ込まれている雑学とトリビアが、常人の域をはるかに超える質量なのだ。乱暴な話であるが、作中からパロディとギャグを全部取っ払ったとしても、骨格とトリビアだけで、「面白い冒険小説」になってしまうものすごく考え抜かれた代物なのである。

     80年代半ば。インターネットなど遠い異国の存在だった中、正確で該博極まる武器描写、格闘シーンの描写、メカ、移動手段、その博覧強記ぶりはおそろしいものがある。裏を返せば、このくらいの知識量がないと冒険小説なんて書いちゃいけないんじゃないか、と、そのような絶望感さえ感じられるのである。

     最近はネットというものがあるから、表面的にはここまでの情報を書くことはできるかもしれない。だが、実際に「使いこなせるか」については別であろう。

     とにかく、80年代の冒険小説の「意地と度胸とプライド」を再確認した。それにしても、ほんと、アホな小説である。「定吉七番 大福帳」が出なかったのがなんとも残念だ。バブル期あってこその作品だから、いまから同じ設定でやっても面白くもなんともないだろうしなあ……。
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