「ナイトメアハンター桐野(二次創作長編小説シリーズ)」
4 天使を吊るせ(完結)
天使を吊るせ 7-4
一瞬、自分が何を聞いたのだかわからなかった。脳細胞のシナプスが適切な電気火花を出して、ようやく頭に意味が姿を現した。
「夢に入る、ですって!」
「そうですよ」
この団体の教祖は、ナイトメア・ハンターなのか!
あの理事長がわたしを手の内に入れたくなった理由はこれではっきりした。確かにそれは必要な人材に違いない。
同時に、森村探偵事務所がわたしをここに潜入させた理由も。北村め、今度会ったらサイゼリヤどころじゃすまないぞ。
「……どうしました? 桐野さん」
「いえ。なんでもありません」
そう答えてお茶を濁すのがやっとだった。この面々の中でお茶を濁すなどという行為にどの程度の効き目があるのかは疑問だったが、やらないよりはましだろう。
「これからここにいらっしゃるのですか?」
わたしは話題を変えた。いくら急いでいるといっても、洋行帰りの直後に信者たちと会うなどというのは……。
「ええ。それはもちろん」
安本夫人がなにかいいかけたとき。
誰かが食堂へ駆け込んできた。
「……いらしたぞ!」
ざわめきと人だかりが、わたしの周りからさっと潮が引くように退いていった。その光景は壮観だった。ゲルマン民族大移動を地球的規模で時間を早めて見てみたらこんな風になるのではないかと思われた。
わたしは一人残された中で、麻婆豆腐に未練げな視線を投げ、そして皆の後について階下へと足を向けた。
誰が来るのかについてはもはや議論や推量の余地はなかった。
エレベーターを待つのもなんだったので、わたしは皆と同じく階段を使うことにした。こんなに大量の人間が半ば走るように移動したにもかかわらず、将棋倒しも転倒者も出なかったのは、神か聖霊の恩寵というものだろう。
学長のお出ましを最前列で見ようという気はなかった。あのポスターに写っていた姿は、まさに天使かなにかだったが、現実では三割減だろう、というのがわたしの冷徹な判断だった。あのポスターは、絶妙に按配された照明と効果によるものに違いない。夜目遠目傘のうちというが、宗教団体のポスターなのだからそれに類した事実を知るのが関の山だ。あまり焦ることもない。
今にして思えば、わたしは怖かったのかもしれない。理想と幻想の中で見たアニマを、現実の光の中で見ることが怖かったのだ。
斜に構えて、人垣の裏から背伸びをして走ってくる車を待った。黒塗りの高級車がやってきて扉が開いた。
遮る人影で見えたものではなかったが、それでも一瞬、学長の姿を見ることができた。
「夢に入る、ですって!」
「そうですよ」
この団体の教祖は、ナイトメア・ハンターなのか!
あの理事長がわたしを手の内に入れたくなった理由はこれではっきりした。確かにそれは必要な人材に違いない。
同時に、森村探偵事務所がわたしをここに潜入させた理由も。北村め、今度会ったらサイゼリヤどころじゃすまないぞ。
「……どうしました? 桐野さん」
「いえ。なんでもありません」
そう答えてお茶を濁すのがやっとだった。この面々の中でお茶を濁すなどという行為にどの程度の効き目があるのかは疑問だったが、やらないよりはましだろう。
「これからここにいらっしゃるのですか?」
わたしは話題を変えた。いくら急いでいるといっても、洋行帰りの直後に信者たちと会うなどというのは……。
「ええ。それはもちろん」
安本夫人がなにかいいかけたとき。
誰かが食堂へ駆け込んできた。
「……いらしたぞ!」
ざわめきと人だかりが、わたしの周りからさっと潮が引くように退いていった。その光景は壮観だった。ゲルマン民族大移動を地球的規模で時間を早めて見てみたらこんな風になるのではないかと思われた。
わたしは一人残された中で、麻婆豆腐に未練げな視線を投げ、そして皆の後について階下へと足を向けた。
誰が来るのかについてはもはや議論や推量の余地はなかった。
エレベーターを待つのもなんだったので、わたしは皆と同じく階段を使うことにした。こんなに大量の人間が半ば走るように移動したにもかかわらず、将棋倒しも転倒者も出なかったのは、神か聖霊の恩寵というものだろう。
学長のお出ましを最前列で見ようという気はなかった。あのポスターに写っていた姿は、まさに天使かなにかだったが、現実では三割減だろう、というのがわたしの冷徹な判断だった。あのポスターは、絶妙に按配された照明と効果によるものに違いない。夜目遠目傘のうちというが、宗教団体のポスターなのだからそれに類した事実を知るのが関の山だ。あまり焦ることもない。
今にして思えば、わたしは怖かったのかもしれない。理想と幻想の中で見たアニマを、現実の光の中で見ることが怖かったのだ。
斜に構えて、人垣の裏から背伸びをして走ってくる車を待った。黒塗りの高級車がやってきて扉が開いた。
遮る人影で見えたものではなかったが、それでも一瞬、学長の姿を見ることができた。
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えーーっ
学長はナイトメアハンター!
まさか同じ能力を持ち合わせているなんて・・・
う、運命!?・・・な訳ないか・・
というか、先生相当美人に弱いんですね
見てて面白いです(コラ
学長はナイトメアハンター!
まさか同じ能力を持ち合わせているなんて・・・
う、運命!?・・・な訳ないか・・
というか、先生相当美人に弱いんですね
見てて面白いです(コラ
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Re: れもんさん
出会うべくして出会ったんでしょうねえ(^^)
桐野くんが美人に心を動かされるのはいつものことですが(笑)
ネタバレですが今回も桐野くんは悲惨なことに(^^;)