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    TRPG奮戦記

    落選の弁

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     つまりはこの疑問に集約されるのだ。

     「いったい今の日本で何人が、キャラシを広げてサイコロ振ってルール通りにソロシナリオなんかやっているのか」

     これにぶち当たってしまったことが、このソロシナリオ「グランタンカ作戦」を書いて投稿した理由であって、もし受賞するとしたら編集部は大英断だろうな、と書いた時から思っていたし、大英断ができなかったら日本のゲームブックの未来は暗いな、とも思っていた。

     まあいいや。ことは敗れた。かすりもせずに落ちたのである。わずか1ページの選考結果発表においては、編集部も落ちた作品についての選評などに割くスペースはないだろうし、これからもあるまい。

     だが、ごまめの歯ぎしり、主張するつもりだったことは主張せねばなるまい。

     「ゲームブックは西東社『大統領を捜せ!』のそれに還り、そこから進化をやり直すべきである」

     そうでないといくらゲームブックやソロシナリオを作っても、単なる伝統芸能にしかならない。伝統芸能はマニアしか喜ばないのだ。

     また最初の問いに戻る。

     わたしがゲームブックなりソロシナリオなりを買ったとする。最初にやることは何か。

     まず座布団を出す。二つ折りにして頭の後ろに当てられるようにする。そして寝転がり、おもむろにページを開く。背中には仕事の疲れがたまっている。横ちょには麦茶のペットボトルなんかも欲しい。そこではらはらどきどきの一瞬を過ごそうとするわけだが……。

     寝転がって本を開いた状態では、キャラシートにチェックを入れるどころか、サイコロを振ることすら満足にできないではないか。

     続けよう。

     わたしはパラグラフを読み始める。戦闘シーンになる。わたしは即座に「勝ったこと」にし、勝利パラグラフを読む……。パラグラフを読んでいるうちに、通過のためにあるアイテムが必要だということがわかる。持っていない。わたしは即座にパラグラフを逆戻りして、選択肢をしらみつぶしにしてアイテムを見つけ、手に入れたことにして次のパラグラフへ進む……。パラグラフは、やがて迷路に行き当たる。パラグラフジャンプを駆使した迷路である。ちょこちょこ読むが、ゴールが見えない。わたしはあきらめて放り出すと、冷蔵庫に麦茶のお代わりを取りに戻り、そのゲームブックなりソロシナリオのことはすっかり忘れることにする……。

     それじゃダメじゃん、なわけだ。どれだけよくできたゲームブックだとしても、それではダメなのだ。読者の一部、わたしのようなやつがやりたいのは「冒険」であり、キャラクターシートのパラメータを上下させることでもなければ、アイテムをチェックすることでも、いわんやサイコロを振ることでもない。かといってただ単に小説を読むだけでは面白くない……。

     「大統領を捜せ!」は、まさにそんな人間のために作られたゲームブックである。また、西東社のゲームブックの少なからぬ量は、そういう人間のために作られたと考えても過言ではない設計をしている。

     ある種の読者にとっては、明らかに「使わない」ルールや「使わない」ギミックがあるわけだ。そうした読者にアピールすることを放棄することを「チート対策」と呼ぶのは、ゲームブックなりソロシナリオなりをマニアしか遊ばない限定されたものに自分から収めようとしているも同然である。それは同時に「火吹山」と「ソーサリー」を金科玉条のものとし、それに従うエピゴーネンばかりを無駄に増やした結果、「気軽に遊びたい層」にソッポを向かれ、衰退への坂を転がり落ちて行くしかなかった30年前のゲームブック界の歴史そのものなのだ。

     わたしはこの「グランタンカ作戦」を書くに当たって、まず、すべてのサイコロ判定をなくした。戦闘も、妖術を使用することをメインにすることによってなくした。アイテム管理も文中で処理した。パラメータの上下も文中で処理した。処理を合理化するためと、読者に、停滞による余計なストレスを感じさせるのを防ぐため、ストーリーは極めて一本道になるようにした。ついでに間違えた選択肢を選んだ場合でも元のパラグラフに戻れるようにした。

     すべては、疲れていて、「ゲームブックというものがあるそうだけどやってみるか」と思ったくらいの関心が薄いような人たちに、「タイタン世界で妖術師として冒険することの面白さ」だけを体感してもらうためである。

     あのソロシナリオを書くために、もう「大統領を捜せ!」をわたしは研究した。くり返し何度も読んだ。あのゲームブックのノリをそのままタイタン世界に取り込めたかというと見解の問題だろうが、原稿用紙40枚でやれるだけはやったという自負はある。それではソロシナリオにした意味がないではないか、という人たちの反論も考慮して、残りの10枚は、作中のキャラクターたちの能力値の解説にあてた。ストーリーがつまらないというのなら謝罪もするが、一本道にしたことについては、こちらから望んでしたことだ、と胸を張っていうことができる。

     「グランタンカ作戦」は、そういった意味で、「火吹山」を正統とし、その流れが支配的だったゲームブック界の、行き詰まり、先の細い未来しか見えない歴史を「大統領を捜せ!」の視点から再び編成し直そうという革命精神に基づくソロシナリオなのだ。

     過激すぎたかもしれない。だが、マニアしか喜ばなくなったジャンルは、いずれもどうしようもなく衰退していくだけである。いや、「ゲームは時に死滅するよりも過酷な運命を担うことになる」という言葉を地で行くことになるのかもしれない。

     いいたいことはまだまだあるが今日はこのへんで。
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    ~ Comment ~

    Re: miss.keyさん

    畢竟、ゲームブックとは「シンプルさ」を楽しむもの、と考えるべきなんだとわたしは思ってます。それはチェスに比べてドミノがシンプルなゲームであるのと同じように、シンプルながらもやってて楽しい、という路線で行くべきではないか、と。

    わたしが本格的にそう思うようになったのは、二見書房の伝説的な迷路探索ゲームブックで、そのコンポーネントを見て引いたときが決定的瞬間ですかねえ。今はプレミア価格で取引されているそうですな。ひたすらにマッピングするゲームで、やるやつの気が知れない作品です。

    Re: 椿さん

    ゲームブックが21世紀も生き延びようとするなら、「シンプルさ」を売りにするしかないでしょうね。電車の中でもスマホやゲームボーイで凝ったRPGがいつでも可能、となればなおさらです。

    そういう意味合いで、やたらと難易度と自由度を上げることで延命を図っている海外での未訳ファイティング・ファンタジーシリーズは、進化の袋小路へ突進しているような気がするんだけどなあ。気のせいかなあ。

    無限の結末は不可能

     リアリティを追求すれば無限の選択肢が必要であり無限の結末を用意しなくてはならない。
     無論、そんなの無理。
     創作物は結局はシナリオを追うしかないのだよ。ルートが十もあれば上々。多少の違いはあれど大筋は大抵三つか四つ。結末は途中脱落を除けばせいぜい二つか三つ。それ以上用意してもたどってくれる人がどれだけいるんだろう。
     ゲームブックは昔、何回か借りてやりましたけど、選択肢でつじつまが合わないうえに物語の広がりが乏しくて、わたしにゃ合わなかったなぁ (- - ;)

    NoTitle

    すごくわかります……。私も、ちゃんとサイコロを振ってプレイしたことはほとんどないのです、ゲームブック(^^;

    そして、ゲームブックにはゲームブックの味があるとはいえ、それでもシナリオを読むならパソコンに取り込んで選択肢でジャンプできるようにして読んだほうがテンポもいいし楽だし、形式的にも向いているというのが何とも(^^;

    画面にダイス仕込めば戦闘も出来ちゃいますしね……。
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