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    落語「てれすこ政談」

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     えー、古典落語に「てれすこ」っておなじみの噺がありますな。てれすこが干したらすてれんきょうになる噺、っていってわかる人はわかるし、わからない人はわからない、それが落語と申すもので。今回、語らせていただくのは、「てれすこ政談」というまったく別の噺でございます。この「政談」ってやつが曲者で、古典落語に「唐茄子屋」っていうのんきな噺がありますが、それにこの「政談」って野郎がつくと、いきなりまったく筋書きの違う大ネタの人間ドラマ「唐茄子屋政談」が始まる、ってなもんで、まこと「政談」というやつはおそろしい。誰が言い出したか知りませんが、この「政談」、曲者ぶりを見ると、「政治家・談志」の略に間違いなかろうって……いや、これはわたしがいったんじゃないんで。台本にここはこうしろ、とあるので仕方なく……。

     とある漁村で、漁師の網に魚がかかりました。網をほどいた漁師がそれを見て首を傾げた。見たこともない珍妙な魚でございます。なんだかわからないので、漁師仲間に片っ端から見せた。それが誰もわからない。わからないと気味が悪くなるのが人情というもの。これはひとつ、えらい人にお伺いを立ててみよう、ということになって、代官所へ持っていった。この魚を何というのか教えてください、と。

     代官所でも困った。今も昔も、役所ってものは、山積みになっている公務をさばくことに日々追われているものでございまして、とても、こんな魚について調べている暇などはない。お代官様のところに行ってこれこれこうだと説明すると、

    代官「なに、そのようなことさえもわからぬとなったら公儀の名折れ。とはいえ、わからぬものはわからぬ。ではこういたせ。この魚の絵と共に高札を立て、名前を知っているものに褒美を取らす、と書くのじゃ」

     なるほどってんで、その日のうちに高札を立てると、その日のうちに、知っているものが現れた。

    代官「そこな漁師。これは何という名なのじゃ」

    漁師「ははっ。てれすこと申す魚でございます」

    代官「て、れ、す、こ?」

     ここへきて、代官は自分の失策に気がついた。要するに、この問いは、正解を誰も知らない。答え合わせの方法がないから、誰でも好き勝手なことをいえる。てれすこだろうが、ステテコだろうが、スティーブン・スピルバーグだろうが、なにをいったって、反論することができないという理屈で。

     代官にも面目というものがある。

    代官「うむ、感心じゃ。褒美を取らせよう」

     と、その場は収めたものの、褒美をくれてやったことが悔しくて仕方がない。その日の夜を布団に入ってもなかなか寝付けない。

     それでも夜の丑の刻ぐらいに、はっとひらめくものがあった。検討して、これなら間違いない、と安心し、そこから先は朝までぐっすり。

     さて、翌日から、誰も引き取るものがいないてれすこを、天日干しに取り掛かります。

     三七、二十一日も干すと、すっかり水分が抜けてからからになった、てれすこの干物ができあがります。似ても似つかぬ姿になったその干物の絵を描いて高札を出す。「このものの名前がわかるものに褒美を取らせる」

     高札を出すと、思った通り、その日のうちに、あの漁師が現れた。

    代官「おお、お前か、物知りであるのう。で、このものは何と申す」

    漁師「はっ、これはすてれんきょうと申します」

    代官「尻尾を出したな。これはお前がてれすこと呼んだ魚を干したものだ。お上を欺く不届きものめ。引ったてい!」

     あわれ漁師は、牢に押し込められ、お白洲でお裁きを受けるのを待つだけの身となってしまいました。

     お裁きがあった日の遅く、話を聞いて、漁師の女房というものがやって来ました。代官所は冷たく、漁師は明日を持って打ち首となる、お上のお慈悲として、最後に一言話すことを許す、と告げる。

     じりじりするような夜が過ぎ、やがて漁師が、竹矢来の向こうで、こう、縛られて据わっている。代官所の首切り役の侍が、抜き身をこうして構えている。女房は、漁師に、お前さんが死んでしまったら、年老いた両親と、子供八人が飢えて死んでしまう、と泣き崩れます。

     漁師は、あきらめ切った顔で、ひとこと。

    漁師「いいか、お前は、今後、イカを干したものを、スルメというてはならんぞ」と。

     代官はその言葉に烈火のごとく怒り、

    代官「まだこの場において詭弁を弄すか。斬れい!」

     漁師の首はポーンと飛んで、地に落ちる……。

     それから半年が過ぎ、代官所に、高名な茶人がやってきた。壁をふと見て、

    茶人「おお、これは立派なすてれんきょうですな」

    代官「なんとおっしゃる。これはすてれんきょうと申すと?」

    茶人「さよう。てれすこという魚を干したものをすてれんきょうと申すのですよ」

     それでこの噺はおしまいでございます。

     代官? 代官は、つつがなく任期をまっとうし、家督を我が子にゆずって、楽隠居として余生を過ごしたことでございましょう。

     漁師の女房? 家族? たぶん、女房は女郎屋にでも行って身をひさぎ、老人子供は皆飢えて死んだでありましょうな。

     この日本という国がつつがなく動いていくにはそれでいいのでございます。お上に不届きものとして斬られたら、理由がどうあったとしても、斬られ損の死に損であり、そしてその責任なんて、誰一人として負いやしません。昔っからこうなのでございますから、いまの政府がなにをしてくれるかなんて……期待するほうがバカ、でございますな。

     まったく、「政談」とひとことつくだけで、こういう噺になってしまうから、落語というものはおそろしい。

     「てれすこ政談」の一席でございました。
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