「ナイトメアハンター桐野(二次創作長編小説シリーズ)」
4 天使を吊るせ(完結)
天使を吊るせ 10-1
10
わたしは半ば陶然としながら、目の前の女性とこの場をいっしょにいられることの幸福感を噛み締めていた。
「さて、博士。この研究所について、どう思われましたか?」
「すばらしいですね」
思ったままを答えた。
「会員の人たちは皆いい人ばかりだし、そして学長のあなたは、天女か妖精のような美しいご婦人だ。なんというか、まるで天国にでも遊びに来たみたいな感じです」
沢守澄麗はうなずいた。
「天国というのは」
涼やかな声。
「天国というのは、博士、この現世です。全てはものの見かたひとつです。イエスは、ソロモンの栄華を極めても、野に咲く花ひとつほどの装いもできなかったと説教で述べました。真実です。わたしたちは、この救いのない世の中においても、イエスの説いた花のように、ソロモンの栄華に負けないようなすばらしいなにか、誇れるようななにかを見出さなければなりません。それを可能にする考えかたが、真理心理学のひとつの重要な価値になります」
「ははあ」
わたしは感服して聞いていた。
「博士、あなたは……」
「その、博士というのはやめていただけませんか。なんとなく、こう、居心地が悪い。わたしのことなら、桐野さん、でけっこうですよ」
沢守澄麗はにこりとした。
「ええ、居心地が悪そうにしていたのは感じていました。しかし、わたしのほうから、言葉を崩してしまうのもまた礼儀を知らないといわれてしまいますからね。やむなく、こうお呼びしていたというわけで。でも、お許しが出たからには、こちらも、気兼ねなく、桐野さん、と呼ばせていただきます。いいですね? 桐野さん」
「もちろんですとも」
わたしは激しく首を縦に振った。この女性から名前をじかに呼んでもらえるというだけで、わたしは幸せのあまり天にまで昇ってしまいそうだった。
「それでは、桐野さん、あなたは、なぜあの高校生のもとへ通っていたのですか?」
「なぜって……」
わたしは口ごもった。
「わたしのせいだからです」
沢守澄麗は首を振った。
「あなたのせいではありません。それは、誰よりも桐野さん自身がご存知のはずです」
「わたしは……」
わたしは、テーブルとマイクを見つめた。
「わたしは、行かなくてはいけないから行ったんです。あの子を見捨てられないから!」
わたしは半ば陶然としながら、目の前の女性とこの場をいっしょにいられることの幸福感を噛み締めていた。
「さて、博士。この研究所について、どう思われましたか?」
「すばらしいですね」
思ったままを答えた。
「会員の人たちは皆いい人ばかりだし、そして学長のあなたは、天女か妖精のような美しいご婦人だ。なんというか、まるで天国にでも遊びに来たみたいな感じです」
沢守澄麗はうなずいた。
「天国というのは」
涼やかな声。
「天国というのは、博士、この現世です。全てはものの見かたひとつです。イエスは、ソロモンの栄華を極めても、野に咲く花ひとつほどの装いもできなかったと説教で述べました。真実です。わたしたちは、この救いのない世の中においても、イエスの説いた花のように、ソロモンの栄華に負けないようなすばらしいなにか、誇れるようななにかを見出さなければなりません。それを可能にする考えかたが、真理心理学のひとつの重要な価値になります」
「ははあ」
わたしは感服して聞いていた。
「博士、あなたは……」
「その、博士というのはやめていただけませんか。なんとなく、こう、居心地が悪い。わたしのことなら、桐野さん、でけっこうですよ」
沢守澄麗はにこりとした。
「ええ、居心地が悪そうにしていたのは感じていました。しかし、わたしのほうから、言葉を崩してしまうのもまた礼儀を知らないといわれてしまいますからね。やむなく、こうお呼びしていたというわけで。でも、お許しが出たからには、こちらも、気兼ねなく、桐野さん、と呼ばせていただきます。いいですね? 桐野さん」
「もちろんですとも」
わたしは激しく首を縦に振った。この女性から名前をじかに呼んでもらえるというだけで、わたしは幸せのあまり天にまで昇ってしまいそうだった。
「それでは、桐野さん、あなたは、なぜあの高校生のもとへ通っていたのですか?」
「なぜって……」
わたしは口ごもった。
「わたしのせいだからです」
沢守澄麗は首を振った。
「あなたのせいではありません。それは、誰よりも桐野さん自身がご存知のはずです」
「わたしは……」
わたしは、テーブルとマイクを見つめた。
「わたしは、行かなくてはいけないから行ったんです。あの子を見捨てられないから!」
- 関連記事
-
- 天使を吊るせ 10-2
- 天使を吊るせ 10-1
- 天使を吊るせ 9-4
スポンサーサイト
もくじ
風渡涼一退魔行

もくじ
はじめにお読みください

もくじ
ゲーマー!(長編小説・連載中)

もくじ
5 死霊術師の瞳(連載中)

もくじ
鋼鉄少女伝説

もくじ
ホームズ・パロディ

もくじ
ミステリ・パロディ

もくじ
昔話シリーズ(掌編)

もくじ
カミラ&ヒース緊急治療院

もくじ
未分類

もくじ
リンク先紹介

もくじ
いただきもの

もくじ
ささげもの

もくじ
その他いろいろ

もくじ
自炊日記(ノンフィクション)

もくじ
SF狂歌

もくじ
ウォーゲーム歴史秘話

もくじ
ノイズ(連作ショートショート)

もくじ
不快(壊れた文章)

もくじ
映画の感想

もくじ
旅路より(掌編シリーズ)

もくじ
エンペドクレスかく語りき

もくじ
家(

もくじ
家(長編ホラー小説・不定期連載)

もくじ
懇願

もくじ
私家版 悪魔の手帖

もくじ
紅恵美と語るおすすめの本

もくじ
TRPG奮戦記

もくじ
焼肉屋ジョニィ

もくじ
睡眠時無呼吸日記

もくじ
ご意見など

もくじ
おすすめ小説

もくじ
X氏の日常

もくじ
読書日記

~ Comment ~
こんにちは
女性(本人)を目の前にして
天女か妖精のような美しいご婦人
と堂々と言える桐野先生はもう少し財力があれば間違いなく結婚できますよ!
……桐野先生、そんなに自分を追い詰めないでください、、
気持ちはわかりますが…(。。;)
天女か妖精のような美しいご婦人
と堂々と言える桐野先生はもう少し財力があれば間違いなく結婚できますよ!
……桐野先生、そんなに自分を追い詰めないでください、、
気持ちはわかりますが…(。。;)
- #780 佐槻勇斗
- URL
- 2010.02/08 12:03
- ▲EntryTop
Re:NoTitle
>ネミエルさん
そういうところに宗教というものはつけこんでくるから注意しましょう(^^)
そうしないと桐野くんみたいに大ハマりすることになります。
そういうところに宗教というものはつけこんでくるから注意しましょう(^^)
そうしないと桐野くんみたいに大ハマりすることになります。
~ Trackback ~
卜ラックバックURL
⇒
⇒この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
Re:こんにちは
桐野くんは舞い上がって自分がなにをしゃべっているのかわからなくなっているだけだったりします(^^;)
たぶん(^^;)
それとも作者すらも気づいていなかったけど、桐野くんには実は素質だけは女たらしの才能があるのかなあ(そうか?)