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    読書日記

    「情事の人びと」読んだ

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     ベン・ヘクトという作家がいる。日本では作家というよりはむしろ映画脚本家としての評価が高い。ウィキペディアでそのかかわった作品の数々を見ると、あまりのきら星のようなタイトル群にびっくりすること請け合いである。むろん、作家としても評価が高く、たとえば、江戸川乱歩の選になる短編ミステリの秀作を集めた日本独自の名アンソロジー「世界推理短編傑作集」(創元)にも、「十五人の殺人者たち」という、一種の安楽椅子探偵ものが録られている……のに、どうして日本ではまったくといっていいほど本が訳出されていないのか。ここで、われわれ取材班は、1960年に訳出された、ほぼ半世紀にわたってベン・ヘクトの日本語で読める唯一の長編小説であったこの「情事の人びと」という本を読むべくアマゾンへ……向かうとお金がかかるので土浦市立図書館に頼んだ。茨城県内の図書館には一冊もこの本が所蔵されておらず、結局、栃木県立図書館から取り寄せてもらった。栃木県立図書館さん、ありがとう。

     で、期待に打ち震えながらどきどきして読んだわけだが……1960年の小説、ということを差し引いても……ごめん。こりゃ売れないわ。というか、どうしてよりによってベン・ヘクトの長編を訳出するに当たってこれを選んだのですか、と、当時の光文社の編集部に文句をいいたくなってくる。

     カバーの惹句には「フィクション・スリラー」とあり、現に殺人事件が三つも起こるけど、これ、ミステリじゃないのだ。どちらかといえば、性愛がらみの心理小説とでもいうべきもので、主人公は、郊外の住宅地に住むハイソな主婦で、夫ヘンリーの浮気を知って腸が煮えくりかえる思いをしているアン。そして夫が、浮気相手のキャバレーの歌手リザの夫であるトムを殺した殺人事件の容疑者として逮捕されてから、この奥さんの、猜疑心と、ある種の性的な欲求不満と、プライドを傷つけられた恨みと、愛情がゆらいだことによる欠損感、とでもいったものが、モノローグによりねちねちと語られていく。結局、獄中の夫を救うべく、ヘンリーの弁護士である隣人のサムを伴って、アンはリザに会いに行くのだが……。60年代当時ということもあり、「セックス」が公に話されてもいいだろう、という空気のせいか、この小説は、二言目には「セックス」という言葉が飛び出してくるような代物で、読んでて、もう、辟易してくる。

     殺人事件の犯人は、いわゆるサイコ・スリラーの先取り、という感もあって、そうきたか、と思うんだけど、サイコ・スリラーとして読むにはあまりにもあっさりしすぎだしなあ。作者自身も、「十九世紀的小説の一作です」とか語ってたそうだし。21世紀の現在に読んで面白いか、といわれると、首をひねるしかない、そんな代物。どうしてこんなものよりも、脂がのりきっていた1920年代の作品を訳出してくれなかったのか、と、うーん、やっぱり当時の光文社にひとこといってやりたいぞ。

     コレクターなら持っていてもいいかもしれないが、一般の読者が、古本屋を回って探して読む本ではありません。

     がっかりっす……。
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    ~ Comment ~

    Re: 椿さん

    心理サスペンスじゃないですw

    ほんと、ほとんどの部分を「奥さんが口には出さずに内心で辛辣な愚痴をこぼす」だけに終始する小説(笑) 殺人事件自体はショッキングな結末を迎えるけど、主人公の奥さんはほとんどなにもタッチできないまま話が進むので、一種の「セカイ系小説」やろか(違う(笑))

    長い沈黙を破ってこの小説を書いた4年後にベン・ヘクトは亡くなってしまうので、やっぱり脂ののりきった1920年前後の小説を読みたかったなあ、と本気で思います。アカデミー脚本賞を2回も獲って、立場上隠れて脚色した「風と共に去りぬ」を入れたら事実上3回受賞といってもいい天才やぞ。どこか出版社出してくれ~! 論創さ~ん!

    NoTitle

    おつかれさまでした……。
    心理サスペンス嫌いじゃないんですが、やっぱりその時代の映画っぽい感じが強そうですね(^^;

    当時はキャッチーだったのかもですが、他に代表作があるなら訳してもらいたいですねえ。
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