「ナイトメアハンター桐野(二次創作長編小説シリーズ)」
4 天使を吊るせ(完結)
天使を吊るせ 10-2
「そうです」
沢守澄麗は、わが意を得たりとばかりにうなずいた。
「桐野さん、あなたは彼を見捨てられなかった。見捨てたら、それこそ彼のこれからは、全てが閉ざされてしまいます。あなたには、そんなことはとてもできなかった」
言葉を切る。一呼吸置いた。
「そして、桐野さん、わたしたちも同じなのです。全人類を、見捨てるわけには行かないからこそ、わたしたちは真理を説くのです。たとえ人が耳をふさごうと、目をふさごうと、暴力を用いて言葉をさえぎろうと、説かなければいけないから説くのです。おわかりになりましたか、桐野さん」
その言葉は、わたしの胸に染み入るようだった。
「わかった……ような気がします」
わたしは慈母を見るような目で、目の前の若い娘を見つめていた。
「それでいいんです」
沢守澄麗はわたしの手を取った。
「ごくごく小さなことを『わかる』ことから、人間同士の信頼が生まれてきます。それは地球全体から見れば微小な原子にすぎませんが、文明なり社会なりを構成する重要かつゆるがせにできないひとつの単位なのです。わたしは、桐野さんとそのような関係になれたことを嬉しく思います」
わたしはほとんどなにも考えられなかった。この人に必要とされ、この人に喜んでもらい、この人に幸せな気分になってもらえる! なんという歓喜!
沢守澄麗は観客席のほうを向いた。
「皆さん、桐野さんは、東方の博士として、わたしたちの真理を理解してくれました。なんと喜ばしいことでしょう!」
客席から口々に同意の声。
わたしはその暖かさのあまりに涙をうかべそうになっていた。
「桐野さん」
「はい」
沢守澄麗はわたしに優しくいった。
「この場は、わたしとあなたの、質問と交流をする場としましょう」
わたしは驚いた。
「いいんですか!」
沢守澄麗は会場を手で示した。
「いいのです。これは、いわばチャンスなのですから」
「チャンス?」
「そうです。初学者の桐野さんが、わたしたちの団体に抱いた素朴な疑問に、この場で答えることは、桐野さんのみならず、ここにいる会員たちにとっていい勉強になることでしょうから」
そして、自分を指す。
「もちろん、この学長のわたしにもですよ」
わたしは恐縮してしまった。
「では、単刀直入に。あなたは……」
沢守澄麗は、わが意を得たりとばかりにうなずいた。
「桐野さん、あなたは彼を見捨てられなかった。見捨てたら、それこそ彼のこれからは、全てが閉ざされてしまいます。あなたには、そんなことはとてもできなかった」
言葉を切る。一呼吸置いた。
「そして、桐野さん、わたしたちも同じなのです。全人類を、見捨てるわけには行かないからこそ、わたしたちは真理を説くのです。たとえ人が耳をふさごうと、目をふさごうと、暴力を用いて言葉をさえぎろうと、説かなければいけないから説くのです。おわかりになりましたか、桐野さん」
その言葉は、わたしの胸に染み入るようだった。
「わかった……ような気がします」
わたしは慈母を見るような目で、目の前の若い娘を見つめていた。
「それでいいんです」
沢守澄麗はわたしの手を取った。
「ごくごく小さなことを『わかる』ことから、人間同士の信頼が生まれてきます。それは地球全体から見れば微小な原子にすぎませんが、文明なり社会なりを構成する重要かつゆるがせにできないひとつの単位なのです。わたしは、桐野さんとそのような関係になれたことを嬉しく思います」
わたしはほとんどなにも考えられなかった。この人に必要とされ、この人に喜んでもらい、この人に幸せな気分になってもらえる! なんという歓喜!
沢守澄麗は観客席のほうを向いた。
「皆さん、桐野さんは、東方の博士として、わたしたちの真理を理解してくれました。なんと喜ばしいことでしょう!」
客席から口々に同意の声。
わたしはその暖かさのあまりに涙をうかべそうになっていた。
「桐野さん」
「はい」
沢守澄麗はわたしに優しくいった。
「この場は、わたしとあなたの、質問と交流をする場としましょう」
わたしは驚いた。
「いいんですか!」
沢守澄麗は会場を手で示した。
「いいのです。これは、いわばチャンスなのですから」
「チャンス?」
「そうです。初学者の桐野さんが、わたしたちの団体に抱いた素朴な疑問に、この場で答えることは、桐野さんのみならず、ここにいる会員たちにとっていい勉強になることでしょうから」
そして、自分を指す。
「もちろん、この学長のわたしにもですよ」
わたしは恐縮してしまった。
「では、単刀直入に。あなたは……」
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Re:NoTitle
どっち系かは知りませんが、その前に桐野くんはどうしても聞かなければならないことがありますので……(^^;)
それにえっちな質問なんかしたらこの場から生きて出られないし(木亥火暴)