天使を吊るせ 14-3

　杉内は夢でも見ているかのような目になっていた。
いわしの頭も信心からとはいうが、プラスチックのパイプも信心とは。
「こんなこと聴講生のわたしに話してもいいんですか？」
　わたしの質問に、杉内は、あっ、といって頭をかいた。
「いちおう、これ、第三研究課程以上の人間しか知ってはいけない秘密なんですけれど、まあ、いいでしょう。桐野さんは特別ですしね」
「……特別？」
　杉内は何度もうなずいた。
「そうですよ。学長先生が、この人はと認めたかたですからね。それに、ナイトメア・ハンターですし」
「そうですか」
　わたしはいたたまれないものを感じた。つくづくＶＩＰ扱いに向いていない性格をしているらしい。
　わたしが上の階に行くのにいつも使っているエレベーターに乗り込み、杉内はボタンを押した。
「杉内さん？」
「なんです？」
　わたしは「７」のランプが点いているのに目をやった。
「そこは、わたしやあなたが行っていい階なんですか？　第一研究課程の資格を持っていなければ、入れないのではありませんでしたっけ？」
　杉内はにこやかな顔を崩さなかった。
「何度もいったでしょう、桐野さん。桐野さんは、特別なんですよ。だから、特例が認められているんです。おわかりでしょう？　気を楽にしてください」
「でも、あなたは……」
「わたしは桐野さんの付き人を任されていますから。名誉ある大任ですよ。こんな、上位者しか来られないようなところに足を踏み入れることができるなんて。これだけで夢みたいです。桐野さん、ほんとうにありがとうございます」
　礼までされてしまった。これではどうにもできない。
　そうこうしているうちにエレベーターは止まった。扉が開く。
　杉内の後について、わたしは廊下を進んだ。最上階とは別な意味で、贅がこらされているのがわかる。廊下に引かれているものはじゅうたんだった。それも、かなりの高級品らしい。一歩を踏み出すごとに、衝撃を柔らかく受け止めてくれる。
「やっぱり違いますね」
　わたしは小声で杉内にいった。なんとなく、大声を出すのがはばかられたからだ。
「そんなに気にされることもないですよ。学費の違いがこういうところに出ているだけのことですからね」