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    「エドさんとふしぎな毎日(童話)」
    探偵エドさん(童話掌編シリーズ・完結)

    エドさん探偵物語:3 鉄の城

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    鉄の城


     大雪が降った日でした。宿屋もないような小さな駅で列車が止まり、探偵の仕事の最中だったエドさんを含む乗客一同は、どこかで一夜を過ごさなくてはならなくなりました。

    「どうしよう。どこか泊まるところは……」

    「この先に、カイルさんのお屋敷がありますよ。大きな家ですから、部屋もあるのでは」

     駅員さんに教えられて、エドさんたち、列車の乗客は雪道を苦労して歩き始めました。お屋敷はすぐにわかりました。とても大きかったのです。屋敷の主のマルコム・カイルさんは、優しい目の持ち主で、みんなを暖かく迎えてくれました。屋敷を案内されるうち、エドさんは、部屋のひとつに、鋼鉄製の扉がついたものがあることに気づきました。

     その夜ふけ、マルコムさんはエドさんをお酒に誘いました。おしゃべりをしていると、マルコムさんは妙なことを話し始めました。

    「こんな日には祖父のオリバーを思い出しますよ。思い出したくもないですがね」

    「どんな人だったんですか?」

    「お金儲けについては天才と呼べる人でしたが、物凄いけちで、人を疑い、いじめることにかけても、人並みはずれた人でした。ぼくの両親も、とても苦労したそうです。ぼくだって大嫌いでした。あの事件の始まりは、八十六歳の誕生日のときでしたか。ちょうど、今日みたいな大雪の日でした」

    「あの事件?」

    「これから、それが起きた部屋にご案内しますよ。続きは、行きがてらお話しましょう」

     マルコムさんは燭台を手に取ると、歩き始めました。エドさんもついて行きます。

    「その日、祖父は皆を集めて宣言したんです。

    『いいか、わしは、今日から、小説を書くことにする。その間、誰一人としてこの屋敷に入ることは許さん』

    『でも、どうするんですか、父さん。暖房が故障してますから、修理してからでも』

     と、父はいいましたが、祖父は、

    『暖房なんかいらん。厚着すればすむことだ。わしはこの鉄の部屋にこもる。食べものは冷凍倉庫に、持病の薬は居間の金庫に、夏まででも大丈夫なように用意してある。いわばこの部屋がわしの鉄の城というわけだな。お前たちは、好きにするがいい。ただし、この家に一歩でも入ったら、容赦しないぞ』

     そういうと、本当に、ぼくたちを追い出してしまいました。ぼくはぐずぐずと、もう一度家に引き返しましたが、すぐに追い出されてしまいましたね。謎はこれからです」

     マルコムさんが足を止めたのは、あの、鉄の扉の部屋でした。扉がきしみながら開くと、中には、小さな鉄のベッドと書き物机、それに、鉄格子がはまった小さな窓がありました。

    「祖父はいつまでたっても家から出てきませんでした。冬が終わり、春が過ぎ、夏になっても。心配した家族が様子を見に部屋へ入ってみると、祖父の死体がありました。警察によれば、死の原因は、突然の発作に薬を飲まなかったことによるものだったそうです」

    「薬を飲まなかった?」

    「ええ。おかしいのは、扉には鍵がかかっておらず、外から押さえるようなものもなにもなかったということです。すぐ外の居間には、たっぷりと薬があったというのに」

     エドさんは、しばらく考えていましたが、やがて頭を上げました。

    「謎については、わかったような気がします。オリバーさんが部屋に一人で閉じこもった後、誰かが扉をたくさんの雪で塗り込めたのでは。暖房が故障していましたから、雪はたちまちに硬くなり、扉を凍りつかせてしまった。歳を取っていて力が弱くなっていたオリバーさんには、発作の薬を取りに戻ろうとしても扉を開けることができなかった。そして死体が発見された夏には、雪は全て溶け、蒸発して消えてしまった。それができた唯一の人物、すなわち犯人はあなただ」

     エドさんはにこりと笑いました。

    「しかし、老人は万一に備えて予備の薬を肌身離さず持っていたはずです。使いきった時点で扉を試していたでしょう。開かないと気づけば、それをノートに書き残さなかったわけがない。あなたのお話は全てでたらめだ」

     マルコムさんは、大声で笑い出しました。

    「怖がらせようと思ったのですがね。さすが本職の探偵さんだ。これは、祖父が書きかけた推理小説の粗筋なんです。うちの一族は先祖代々、こんないたずらが大好きで。この部屋も、後からわざわざこしらえたのですが」

    「じゃあ、オリバーさんという人は?」

    「お金儲けの天才というのは嘘じゃありませんが、とても陽気な人でした。ぼくも家族も大好きでした。逸話は山ほどありますよ」

     居間に戻ると、マルコムさんは、オリバーさんの傑作な逸話の数々を話してくれました。二人の笑い声は一晩中絶えませんでした。

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    ~ Comment ~

    Re: 椿さん

    このシリーズも、暗い話はかなり暗いんです。

    ほのぼの路線で行くはずだったのですが、いきなりハードボイルドな回になっちゃったり……(^^;)

    わたしも迷走していたんだなあ(^^;)

    NoTitle

    おお? 暗い話キタ! ……と思ったら、どんでん返し。
    いいですね、優しくて。癒されるシリーズですね。

    Re: YUKAさん

    一見したところ善良さだけが取り柄の鈍そうな風貌でも、実際は頼りがいある人物として描けたらいいなあ、と思っております。

    モデルにしたパトレイバーの松井警部補がまさにそういう人で……(^^)

    こんばんは♪

    おお!
    偏屈そうな老人から
    最初はクリスマス・キャロルっぽいのかと思いましたが
    それより、ほのぼの話でした~~^^
    いいですね~エドさんシリーズも。
    エドさんて優秀~^^

    Re: 有村司さん

    そしたら印税ウハウハの夢に一歩近づくんですが、世の中そう甘くはなくて……。このシリーズについてはまあいろいろあったのであります(^^;)

    同人誌にして即売会で売ることを計画しておりますが、うむむ……(^^;)

    こんばんは!

    エドさんすごい…!ウチのヘボ探偵とは大違い…(笑)

    膨大な全編中、まだ三篇しか拝読していませんが、このエドさんシリーズって、日本ではないたとえばヨーロッパとかのアニメ作家さんがアニメにしてくれないかしらん…?などと考えてしまいます。

    Re: fateさん

    なにせある意味、わたしの願望充足小説なもので(^^;)

    ほのぼので終わらせよう、といつも努力はするのですが、けっこう悲惨な話も書いてしまったりするのでした。うむむむむ(^^;)

    そういうことか!

    なんだか、ほのぼの系でしたね。
    これはこれで良い感じでした(^^)
    生きているだけで、エドさんは楽しいことがいっぱいだなぁ!羨ましい!

    Re: 神田夏美さん

    なにせ、どんな事件も「原稿用紙五枚」で解決しなくてはならないので(^^;)

    ある意味すごい名探偵だなエドさん(^^)

    お久しぶりです!
    エドさんが最初に「~犯人はあなただ」と言ったときには「!」と思いましたが、次にすぐ笑顔で否定してくれてほっとしました。最後はほのぼのするようなオチでよかったです♪

    しかし、話を聞いてすぐに謎がわかり、話がでたらめだというところまで推理してしまうエドさんはすごいですねえ……。さすがです。

    Re: ぴゆうさん

    いちおうこれは、童話、少なくとも小学生あたりを狙って書いた小説であります。

    だからあまりブラックな終わりかたは避けるように書いております。

    たまにブラックなものが混じってしまうこともありますが(^^;)

    独裁的権力を握った人間というのは、死に方もまた難しい。秦の始皇帝しかり、コンスタンティヌス大帝しかり……。

    人間、最後はオリバーさんくらいがちょうどいいんじゃないかなあ。(^^)

    NoTitle

    スターリンの最後を思い出しました。
    誰も信用せず、鉄の扉がついた頑丈すぎる室内で心臓発作で死んだ人。
    なんだかなぁ~~
    大金持ちのハワード・ヒューズも死んだ後に発見されたんだよね。
    爪も髪も伸び放題で幽鬼みたいだったらしいよね。

    オリバー爺さんがいい人で良かった。

    Re: 鍵コメさん

    はじめまして。

    童話調のものから、ギャグ小説、SF、ミステリ、暴力小説、西部劇、ホラー、なんでも取り揃えてますのでぜひともごゆるりとご覧ください。

    この節操のなさがわたしのブログにいまいち人気が出ない原因かもしれませんが……(^^;)

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