「ショートショート」
SF
おれが洗濯されたとき
おれが洗濯されたとき、外はよく晴れていた。洗濯には絶好の日だ。
洗濯機のふたが開けられると、なかには誰もいなかった。おれは一人で洗濯されるらしい。いいことだ。他人とまとめて洗濯されると、他人の汚れまで引き受けてしまいそうだからだ。色落ちの影響なんか受けてみろ、たまったもんじゃない。
洗濯機に入れられたおれは、若干の洗剤とともに、大量の水を浴びた。苦しいかもしれないが、生まれ変わるためだ。しかたがない。
人間を洗う洗濯機が開発されてから、しばらくたつ。人間を洗濯してなにかいいことがあるのか、というやつは昔よくいたが、今ではそんな声は消え去ってしまった。
人間を洗うとは、どういうことか。要するに、浮世の垢を取り除くということだ。身体から不活性分子を取り除き、記憶からトラウマだのなんだのといった、マイナスの記憶を取り除き、心身リフレッシュして再び社会の中に飛び込んでいこう、というものである。
この機械ができてからというもの、人間社会は、かなりさっぱりとした。自殺者は減少し、出生率は増加し、巷には新しい建設的なアイデアがあふれ、これまでのギスギスした空気がウソのように消えた。なんとも喜ばしいことじゃないか。管理社会の極みみたいなものだと悪口をいうやつも、いっぺん洗濯を受けてみればいいのだ。
工程はすすぎに入った。おれはぐいんぐいん振り回された。すすがれるごとに、身体の中から厄介な汚れが除去され、心身ともにすっきりしてくるのがよくわかる。
気持ちがいい。もうなにも考えられない……。
とたん、機械が止まった。
なんだ?
洗濯機のふたが開けられ、ばかでかいロボット・アームがおれをつまみ上げた。
『ドウシタ?』
『ヤブレッチャッタワヨコレ。ゾウキンニシヨウカシラ?』
『カナリクタビレテタカラナ。ステロヨ、カワリハイクラデモアル』
『ソウネ』
アームはおれを放り出した。おれは真っぷたつに裂けた身体で、その言葉を反芻していた。
代わりはいくらでもある。代わりはいくらでもある。代わりは……。
その通りだった。
洗濯機のふたが開けられると、なかには誰もいなかった。おれは一人で洗濯されるらしい。いいことだ。他人とまとめて洗濯されると、他人の汚れまで引き受けてしまいそうだからだ。色落ちの影響なんか受けてみろ、たまったもんじゃない。
洗濯機に入れられたおれは、若干の洗剤とともに、大量の水を浴びた。苦しいかもしれないが、生まれ変わるためだ。しかたがない。
人間を洗う洗濯機が開発されてから、しばらくたつ。人間を洗濯してなにかいいことがあるのか、というやつは昔よくいたが、今ではそんな声は消え去ってしまった。
人間を洗うとは、どういうことか。要するに、浮世の垢を取り除くということだ。身体から不活性分子を取り除き、記憶からトラウマだのなんだのといった、マイナスの記憶を取り除き、心身リフレッシュして再び社会の中に飛び込んでいこう、というものである。
この機械ができてからというもの、人間社会は、かなりさっぱりとした。自殺者は減少し、出生率は増加し、巷には新しい建設的なアイデアがあふれ、これまでのギスギスした空気がウソのように消えた。なんとも喜ばしいことじゃないか。管理社会の極みみたいなものだと悪口をいうやつも、いっぺん洗濯を受けてみればいいのだ。
工程はすすぎに入った。おれはぐいんぐいん振り回された。すすがれるごとに、身体の中から厄介な汚れが除去され、心身ともにすっきりしてくるのがよくわかる。
気持ちがいい。もうなにも考えられない……。
とたん、機械が止まった。
なんだ?
洗濯機のふたが開けられ、ばかでかいロボット・アームがおれをつまみ上げた。
『ドウシタ?』
『ヤブレッチャッタワヨコレ。ゾウキンニシヨウカシラ?』
『カナリクタビレテタカラナ。ステロヨ、カワリハイクラデモアル』
『ソウネ』
アームはおれを放り出した。おれは真っぷたつに裂けた身体で、その言葉を反芻していた。
代わりはいくらでもある。代わりはいくらでもある。代わりは……。
その通りだった。
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~ Comment ~
Re: YUKAさん
ありがとうございます~。
世の中に、「バカな子ほどかわいい」というのがありますが、このショートショートは、まさにそんな作品だったりします。
印象深い作品ではあります(^^;)
世の中に、「バカな子ほどかわいい」というのがありますが、このショートショートは、まさにそんな作品だったりします。
印象深い作品ではあります(^^;)
おはようございます^^
擬人化!!
ブラックがちょっと入っていて、ポール・ブリッツ作品だなって感じです^^
やけくそで書いた作品だったのですか?
こういうの、結構好きですよ^^
ブラックがちょっと入っていて、ポール・ブリッツ作品だなって感じです^^
やけくそで書いた作品だったのですか?
こういうの、結構好きですよ^^
Re: LandMさん
これを書いたときにはブログの更新に追われてやけくそでした(^^;)
あまりといえばあまりの内容に書いてからものすごく反省したのですが、喜んでもらえてよかったです。
あまりといえばあまりの内容に書いてからものすごく反省したのですが、喜んでもらえてよかったです。
NoTitle
なんか某たいやきくんみたいですね。
焼かれるのが嫌で、海に逃げたけど釣られて食べられちゃうという……なんかそういうシリアスコメディの可能性を込めたお話ですね。
焼かれるのが嫌で、海に逃げたけど釣られて食べられちゃうという……なんかそういうシリアスコメディの可能性を込めたお話ですね。
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Re: ihiroppiさん
オチももうちょっとなんとかできたのでは、と自分では思っています(^_^;)