FC2ブログ

    「ナイトメアハンター桐野(二次創作長編小説シリーズ)」
    4 天使を吊るせ(完結)

    天使を吊るせ 21-4

     ←天使を吊るせ 21-3 →天使を吊るせ 22-1
     それがどんな感覚だったのかを、沢守澄麗はうまく語れないといった。
     それもそうだ。そんな宗教的体験がほいほい語れたら、世にある大半の哲学書や宗教書は不要になってしまう。
     表現できることだけを述べるしかない。
     その日、沢守澄麗は、ブラジルの僻地にある村の市場に買い物に来ていた。十数年も逃げているのだから、もうほとぼりも冷めただろうという判断から戻ってきたのだった。仮住まいには、共用の炊事場があり、そこで日々の食事を作るのも、十四の娘の仕事になっていた。
     母親がなにをしているのかは十四だからよくわかっていた。人を言葉で騙しているか、人を身体で騙しているかのどちらかだ。どちらにしても体力勝負である。
     いくつかの出店を回り、ピンガと呼ばれる蒸留酒と、レモン、砂糖、それにいくらかの肉と野菜を買った。
     保存用の氷を買おうとしたところで……沢守澄麗は、急に……めまいを感じた。
     めまいという言葉だけでは説明がつかなかったそうだ。それは、なにか、得体のしれないものが身体に入ってくるとでもいったものだった。それでいて、それは決して不快ではなく、なにか暖かさと安心感のようなものを伴っていたらしい。
     それだけではなかった。流入を感じた直後、沢守澄麗は肌になにかおぞましいものを感じた。それは、苦悶と孤独と冷たさと悲しみと……ありとあらゆるネガティブな感情の集積体だった。それは沢守澄麗の身体だけでなく、周りの空間のいたるところにいた。
     沢守澄麗は、無意識のうちに道に落ちていたプラスチックのパイプを取り、振り回した。なんとしても、そのおぞましいものを滅さなければならない……彼女はそう思った。
     ひとしきり振り回し、沢守澄麗は、そのおぞましいものに、激しい悲しみの感情が混じっていることに気づいた。彼女は自分のやっていたことに気づき……そのおぞましいもののために涙を流して悲しんだ。
     おびえたように見守っていた周囲の人たちが落ち着かせようとしたときには、彼女はすでにひとりの宗教家となっていた……。

    「そして宗教団体を立ち上げ、母親のトラブルを金やその他で解決して、現在に至る」
    「じゃあ、宝槍というのは?」
    「沢守澄麗本人は自分を戒めるために持ってきたつもりだったそうだ。魔を払うという理屈づけは母親が行なったらしい」
     北村は難しい顔でコーヒーカップをもてあそんでいた。
    「その話が正しいとは?」
    「夢の中で、学長先生と合言葉を決めておいて、出てきた後に交換してみた。大丈夫だ、妄想じゃないよ。いま語ったことは、真実と見て間違いない。彼女を信じればだが」
    関連記事
    スポンサーサイト






     関連もくじ一覧 ▼ 
    総もくじ 3kaku_s_L.png ほら吹き大探偵の冒険(児童文学)
    総もくじ 3kaku_s_L.png 夢逐人(オリジナル長編小説)
    総もくじ 3kaku_s_L.png 残念な男(二次創作シリーズ)
    総もくじ 3kaku_s_L.png ショートショート
    総もくじ 3kaku_s_L.png 紅探偵事務所事件ファイル
    総もくじ 3kaku_s_L.png 銀河農耕伝説(リレー小説)
    総もくじ 3kaku_s_L.png 剣と魔法の国の伝説
    もくじ  3kaku_s_L.png 風渡涼一退魔行
    もくじ  3kaku_s_L.png 鋼鉄少女伝説
    総もくじ  3kaku_s_L.png ほら吹き大探偵の冒険(児童文学)
    総もくじ  3kaku_s_L.png 夢逐人(オリジナル長編小説)
    総もくじ  3kaku_s_L.png 残念な男(二次創作シリーズ)
    総もくじ  3kaku_s_L.png ショートショート
    総もくじ  3kaku_s_L.png 紅探偵事務所事件ファイル
    総もくじ  3kaku_s_L.png 銀河農耕伝説(リレー小説)
    もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
    もくじ  3kaku_s_L.png リンク先紹介
    もくじ  3kaku_s_L.png いただきもの
    もくじ  3kaku_s_L.png ささげもの
    もくじ  3kaku_s_L.png その他いろいろ
    もくじ  3kaku_s_L.png SF狂歌
    総もくじ  3kaku_s_L.png 剣と魔法の国の伝説
    もくじ  3kaku_s_L.png 映画の感想
    もくじ  3kaku_s_L.png 家(
    もくじ  3kaku_s_L.png 懇願
    もくじ  3kaku_s_L.png TRPG奮戦記
    もくじ  3kaku_s_L.png 焼肉屋ジョニィ
    もくじ  3kaku_s_L.png ご意見など
    もくじ  3kaku_s_L.png おすすめ小説
    【天使を吊るせ 21-3】へ  【天使を吊るせ 22-1】へ

    ~ Comment ~

    Re: 佐槻勇斗さん

    わたしの南米に関するイメージには、船戸与一先生の一連の「南米もの」と呼ばれる冒険小説があります。

    想像の斜め上を行くムチャクチャな世界です(^^)

    よかったら「山猫の夏」を読んでみてください。日本のおもしろい小説のベストを組んだら、絶対に上位に入れる作品です。

    学長先生は、天才、というよりは、「啓示を受けてしまった」タイプの人ですね。受けてしまった以上はそう生きるしかないわけです。
    だいたいの宗教の開祖はそういうふうにして宗教家になります。
    そうでない宗教家はむしろ哲学者と呼んだほうがいいです。

    NoTitle

    おかあさんすごいな、やってることはめちゃくちゃだけど(´▽`A)

    にしても、14歳で宗教家に目覚めるなんて、学長はほんとうの天才なんですね。というより、もはや神の一人なのでは? と思います。
    ・・・・・・まあ、彼女の言うことを信じれば、ですが(ω)フフ
    管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

    ~ Trackback ~

    卜ラックバックURL


    この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

    • 【天使を吊るせ 21-3】へ
    • 【天使を吊るせ 22-1】へ