「ナイトメアハンター桐野(二次創作長編小説シリーズ)」
4 天使を吊るせ(完結)
天使を吊るせ 22-4
カップ麺のかわりに沢守澄麗手作りのサンドイッチを島田さんと三人で食べたが、幼少の折から母親のために料理を作ってきたことに嘘はないことがよくわかる味だった。
食べる代償として、わたしはナイトメア・ハンターとしての仕事をそのそばで見学させることに同意せざるを得なかった。とはいえ、断る理由もない。
沢守澄麗は、終始にこにこしながら診察室の隅に座っていた。
面白いことに、来る患者来る患者、みんな今日は陽気だった。
沢守澄麗の期待に反して、わたしは夢に入ることはほとんどなかった。みんな明るく前向きに考え、悩み事を吐き出すと、わたしがなにもしていないのに勝手に自分で解決策なり打開策なりなどを見出して、金を払って上機嫌で帰っていくのだった。
「澄麗さんが来てくださってほんとに楽ですわ」
島田春江が書面にチェックを入れて、あきれたようにつぶやいた。
「澄麗さんがその気になったら、先生、患者さんを全部取られちゃうんじゃないかしら」
「そしたらナイトメア・ハンターを廃業して掃除夫にでも雇ってもらうさ」
わたしは半ば本気でそういった。
時計を見るともう七時だった。
「こんな時間までお引き止めしてしまってすみません。なにか食べて行きますか。カップ麺とコーラしかありませんが……」
「いえ。わたしも、そろそろ帰ろうかと」
「じゃ、いっしょに食事でもどうです? お聞きしたいこともあるのでね。仕事は早仕舞いすることにしますよ。二人きりが怖いなら、島田さんと三人で。韓国料理の隠れた穴場を知っているんですが」
「そうしていただけるのなら嬉しいです」
わたしは海の向こうで戦塵にまみれて写真を撮っているはずの坂元に、ジンをひとケースプレゼントしたくなった。
そんないい店知っていたのなら、どうしてこれまであたしに教えてくれなかったんですかといい続ける島田春江をなだめながら、わたしは事務所の片づけを始めた。
片づけが終わり、わたしはゴミ袋を手に、沢守澄麗をエスコートしてドアを開けた。
どん、という音がした。
わたしも島田春江も、その場にいた人間全てが虚脱状態になった。
道交法を無視してあろうことか歩道を走ってきたバイクが、わたしの診療所を出てきたばかりの沢守澄麗を直撃したのだ。
島田春江は、憑きものが落ちたかのようなぼんやりとした表情で倒れ伏した沢守澄麗を眺めていた。沢守澄麗の開いたバッグからは、杉内と同じ抗うつ薬がのぞいていた。
その瞬間、わたしには全てがわかった。
それでもわたしは、救急車が来るまでずっと沢守澄麗の手を握り続けていた。
食べる代償として、わたしはナイトメア・ハンターとしての仕事をそのそばで見学させることに同意せざるを得なかった。とはいえ、断る理由もない。
沢守澄麗は、終始にこにこしながら診察室の隅に座っていた。
面白いことに、来る患者来る患者、みんな今日は陽気だった。
沢守澄麗の期待に反して、わたしは夢に入ることはほとんどなかった。みんな明るく前向きに考え、悩み事を吐き出すと、わたしがなにもしていないのに勝手に自分で解決策なり打開策なりなどを見出して、金を払って上機嫌で帰っていくのだった。
「澄麗さんが来てくださってほんとに楽ですわ」
島田春江が書面にチェックを入れて、あきれたようにつぶやいた。
「澄麗さんがその気になったら、先生、患者さんを全部取られちゃうんじゃないかしら」
「そしたらナイトメア・ハンターを廃業して掃除夫にでも雇ってもらうさ」
わたしは半ば本気でそういった。
時計を見るともう七時だった。
「こんな時間までお引き止めしてしまってすみません。なにか食べて行きますか。カップ麺とコーラしかありませんが……」
「いえ。わたしも、そろそろ帰ろうかと」
「じゃ、いっしょに食事でもどうです? お聞きしたいこともあるのでね。仕事は早仕舞いすることにしますよ。二人きりが怖いなら、島田さんと三人で。韓国料理の隠れた穴場を知っているんですが」
「そうしていただけるのなら嬉しいです」
わたしは海の向こうで戦塵にまみれて写真を撮っているはずの坂元に、ジンをひとケースプレゼントしたくなった。
そんないい店知っていたのなら、どうしてこれまであたしに教えてくれなかったんですかといい続ける島田春江をなだめながら、わたしは事務所の片づけを始めた。
片づけが終わり、わたしはゴミ袋を手に、沢守澄麗をエスコートしてドアを開けた。
どん、という音がした。
わたしも島田春江も、その場にいた人間全てが虚脱状態になった。
道交法を無視してあろうことか歩道を走ってきたバイクが、わたしの診療所を出てきたばかりの沢守澄麗を直撃したのだ。
島田春江は、憑きものが落ちたかのようなぼんやりとした表情で倒れ伏した沢守澄麗を眺めていた。沢守澄麗の開いたバッグからは、杉内と同じ抗うつ薬がのぞいていた。
その瞬間、わたしには全てがわかった。
それでもわたしは、救急車が来るまでずっと沢守澄麗の手を握り続けていた。
- 関連記事
-
- 天使を吊るせ 23-1
- 天使を吊るせ 22-4
- 天使を吊るせ 22-3
スポンサーサイト
もくじ
風渡涼一退魔行

もくじ
はじめにお読みください

もくじ
ゲーマー!(長編小説・連載中)

もくじ
5 死霊術師の瞳(連載中)

もくじ
鋼鉄少女伝説

もくじ
ホームズ・パロディ

もくじ
ミステリ・パロディ

もくじ
昔話シリーズ(掌編)

もくじ
カミラ&ヒース緊急治療院

もくじ
未分類

もくじ
リンク先紹介

もくじ
いただきもの

もくじ
ささげもの

もくじ
その他いろいろ

もくじ
自炊日記(ノンフィクション)

もくじ
SF狂歌

もくじ
ウォーゲーム歴史秘話

もくじ
ノイズ(連作ショートショート)

もくじ
不快(壊れた文章)

もくじ
映画の感想

もくじ
旅路より(掌編シリーズ)

もくじ
エンペドクレスかく語りき

もくじ
家(

もくじ
家(長編ホラー小説・不定期連載)

もくじ
懇願

もくじ
私家版 悪魔の手帖

もくじ
紅恵美と語るおすすめの本

もくじ
TRPG奮戦記

もくじ
焼肉屋ジョニィ

もくじ
睡眠時無呼吸日記

もくじ
ご意見など

もくじ
おすすめ小説

もくじ
X氏の日常

もくじ
読書日記

~ Comment ~
NoTitle
えっ!
何気に読んでいたら学長先生!?ど、どうなってるんですか!?
なんかおはようございます的なのりで言われたような感じなのですが!?(なにそののり
しかもうつの・・。
こ、このまま学長先生は死んじゃうんでしょうか!?
なんかそうならあっけなさすぎるじゃないですか・・
何気に読んでいたら学長先生!?ど、どうなってるんですか!?
なんかおはようございます的なのりで言われたような感じなのですが!?(なにそののり
しかもうつの・・。
こ、このまま学長先生は死んじゃうんでしょうか!?
なんかそうならあっけなさすぎるじゃないですか・・
Re: ネミエルさん
いいのっこれは最初からこうするつもりだったのっ(^^;)
わたしが小説の組み立てがヘタクソなだけなのっ(^^;;)
わたしが小説の組み立てがヘタクソなだけなのっ(^^;;)
NoTitle
急展開ww
ちょwww
ちょっwwww
急展開すぎてwww
えwwww
もうwww
笑うしかwww
ちょwww
ちょっwwww
急展開すぎてwww
えwwww
もうwww
笑うしかwww
- #969 Nemiel
- URL
- 2010.03/29 23:07
- ▲EntryTop
~ Trackback ~
卜ラックバックURL
⇒
⇒この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
Re: れもんさん
あの人にはやらなければならないことが残っているんです。
それに謎の真相も明らかにしていないし。
作者がミステリファンなものですから、いろいろな事件をうまく着地させたいんですよ(^^)