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    「ナイトメアハンター桐野(二次創作長編小説シリーズ)」
    1 ナイトメア・ハンターの掟(完結)

    ナイトメア・ハンターの掟 1-1

     ←登場人物 →ナイトメア・ハンターの掟 1-2
    (筆者注)本小説は、TRPG「ナイトメア・ハンター」およびその続編である「ナイトメアハンター・ディープ」の二次創作の長編小説である。
     このRPGからは、主人公が夢に入って夢魔と戦う、ということを含むいくつかの基本設定は借用したが、主人公の桐野俊明をはじめとする登場人物、舞台、事件については、純粋に筆者の想像の産物である。
     お読みになられていささかなりとも楽しんでいただければ無上の幸いである。
     では、桐野の冒険におつきあいいただきたい。

    ナイトメア・ハンターの掟

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

     火事は、ひどいものだった。消防署から出動した新式のポンプ車が総がかりで放水し、消火にあたったものの、民家一軒が全焼、廃墟からは老人の遺体が見つかった。行方不明になっている、この家の住人のものと確定された。
     唯一の慰めは、この家で留守番をしていた、二歳の幼い男の子を救出できたことくらいであった。

    とある元警察官の手記「K町警察署備忘録」より

    (この元警察官は、上の手記をまとめて自費出版しようとしたが、出版社の破産によって予算の二百万円は持ち逃げされ、裁判沙汰となり、結局原稿は日の目を見ることはなかったということである)

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

     第一章 ナイトメア・ハンターの掟
     
     拉致というものはこうやってするものなのかということを、その日、わたしは身をもって体験した。

     寒い日だった。気温は平年を大きく下回っていた。厚い雲が昼間から空を覆い、ちょっとでも大気のバランスが崩れたら大雪が降るだろうと思われた。
    『……あの同時多発テロの悲劇から一年以上が過ぎましたが、アメリカ軍は未だにテロとの厳しい戦いを各地で繰り広げております。本当にわたしたちは平和な世界を取り戻すことができるのでしょうか。今年、二〇〇二年も残りあとわずかです。クリスマスは笑顔で迎えたいですね。ではスタジオからお別れいたしましょう……』
     リサイクルショップで買ってきた、壊れかけのトランジスタラジオのスイッチを切った。ぷつんと音がしてラジオは黙った。背筋を伸ばして、かぶっていた布団から抜け出た。
     部屋は冷え切っていた。隙間風が、ニヒリスティックな笑い声のような音を立てていた。築何十年になるかもわからぬフロ・トイレ共同のアパート。奇跡的にガスと流しと電気はついていたものの、それだけでは柔弱な二十一世紀人が風邪をひかずに冬を越すには足りない。
     なにか暖かいものが食べたかった。塾の講師の仕事で得たなけなしの千円札を握り締め、今夜の食事として、近所のコンビニに適当な鍋のセット(アルミの鍋に、具材と固まった汁がセットされている、温めるだけで食べられるやつだ)を買いに出かけることにしたのはごく自然な成り行きである。
     いつ外れて落ちてもおかしくないようなアパートの扉を開ける。外へ一歩踏み出すと、思わず、寒気にぶるっと震えた。午後六時を回ると、この季節ともなるとすでに日はとっぷりと暮れている。コートの前をしっかり合わせ、扉に鍵をかけた。盗んで嬉しくなるようなものはなにも持ってはいないが、ひとつでもなくなったらこっちは死活問題なのだ。用心するにこしたことはない。
     敷地を出たすぐ前の道路に、見慣れぬ車が停まっていた。形式はわからないが、緑のセダンだ。どこにでもあるタイプの車である。このアパートには、駐車場がない。きっとどこかの住人のところの来客が、不法駐車しているのだろうと思われた。
     横目で見ながら通り過ぎようとしたとき、いきなり背中に固いものが当たった。
     はっと振り返ろうとしたわたしの耳に、低い声がささやいた。
    「乗れ」
    「人違いじゃ……ないのか……」
     喉がからからになったわたしに、声は無情にも続けた。
    「お前は桐野俊明。精神科医。これ以上手間をかけさせるんじゃない」
     荷物の仕分けでもするような、感情のかけらもない声だった。静かではあったが、暴力というものをひしひしと感じさせる。四肢が勝手に動き、わたしは車に乗り込んだ。プロはこういう具合にしゃべるのか、と、妙なところに感心しながら。
     声の主はわたしの後から車に乗り込んできた。わたしは横目で観察した。ごくどこにでもいるようなサラリーマン姿の男だった。たったひとつ違うところがあるとすれば、手に拳銃を握っているところだろう。
    「出せ」
     男の声とともに、車は走り出した。
     わたしの横で、男は無造作に、拳銃をコートの下に着けたホルスターに収めた。
    「出しておかなくていいのか」
    「今の状態でお前になにができる」
    「拳銃を奪って暴れたらどうする」
    「そんなことができると本気で思っているのか?」
     思っていなかった。
    「どうしてわたしをさらった」
    「会いたがっているかたがいらっしゃる」
     意外だった。
    「わたしに? わたしはただの一般市民だぞ。それも食えなくて、塾の講師で口を糊しているような貧乏人だ。そんなわたしに、誰がどんな用で」
    「おれは知らん。ただ、お前を連れてくるようにいわれただけだ。こう話していること自体、越権行為みたいなものだがな」
    「それじゃあ来期のプロ野球の話でもするか。野村監督はやると思うか」
     男は首を振った。
    「なんでもいいからしゃべらせて、情報を得ようとしても無駄だ。これからしばらく、おれはなにもいわん。最後に武士の情けだ、これだけはいっておいてやろう。野村監督は、そろそろ馬鹿な球界に見切りをつけたほうがいいな」
     それだけいうと、男は本当に口を閉ざした。わたしは男の口を開かせようと努力してみたが、失敗に終わった。
     車はどこかへ走っていく。目隠しをされていないということは、もしや、片道だけの旅を意味しているのか? 背筋に寒気を覚えた。
     都心部を抜け、郊外に出た。一時間ほど走ったところで、洋館が見えてきた。延々と白塗りの壁が続く塀はかなり高いが、それでも夜明かりに屋根が浮き上がって見える。これだけの大きさともなると、かなりのお屋敷だ。
     車は門をくぐり、庭へと入った。ちらりと洋館のシルエットが見えたが、それだけでも、並々ならぬものであるとわかる。わたしには建築の知識はないが、おそらくは昭和初期に建てられたモダニズム建築というやつだろうか。未来的ではあるが落ち着きがあり、そしてなによりでかい。
    車はそのまま地下駐車場に降りていった。エレベーターと思われるものの前で停まる。地下駐車場があるとはどういう邸宅だ、まったく。
    「降りろ」
     男は先に車を出た。わたしも後から続く。暴れるなどとは考えてもいないのだろう、男は拳銃を抜くそぶりすら見せなかった。その考えは正しい。この先いったいなにが待っているのかという、好奇心と恐怖心が混ざり合った感情により、抵抗しようという気はまったくなくなっていた。格闘技の訓練など受けたこともないのに、抵抗したところでなんになるというのだ。
     エレベーターに乗り込んだ。扉が閉まり、エレベーターは上昇を始めた。
     二階を示すランプが点き、エレベーターは止まった。扉が大きく左右に開く。
     手すりが取り付けられた、広く長い廊下が続いていた。白を基調としたシンプルな内装で、よく掃除されて塵ひとつ落ちていない。わたしは自然と病院を連想した。
    「こちらだ」
     男はわたしの後ろから、前に行くよういった。いわれるがままに歩く。
     とある部屋の前で立ち止まった。男はわたしの横へ進みいで、扉をノックした。
    「桐野様をお連れしました」
     かちゃりと、鍵の外れる音がした。電子ロックだろうか。
    「入れ、ということか?」
     男はうなずき、扉を開けた。
     暗い部屋だった。たよりなげにぽつんとともされたライトの細い明かりの中で、わたしの目にまず飛び込んできたのは、大きなベッドだった。
    「よく来てくださった」
     ベッドの上で半身を起こした人物が、口を開いた。声から察するに、かなりの年配だ。
    「灯りが暗くて申し訳ない。病気のせいで光に弱くなってな。自己紹介が遅れましたな。大野龍臣といいます。桐野先生、あなたをお待ちしておりました」
     それが大野龍臣との出会いだった。
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    ~ Comment ~

    Re: 面白半分さん

    一人称が「わたし」で根が暗くて自虐的なユーモア感覚があって自分から不幸に飛び込む悪癖があって決して幸せになれない男でムダに知的であまつさえ「宿命の女」がいるというキャラクター設定、志水辰夫先生以外の誰から影響を受けたというのでしょうか。(^_^;)

    これがごくふつうのオタクの言語に染まったのならまっとうな道を歩んでいたのかもしれませんが。

    なるほど短くリズミカルな文体ですね。
    私もたいした読み手でないので
    気にしないと文体にまで気づかなかったかもしれません。
    ただ読みやすく、だんだん入り込んでくる文章でした。

    小説というのは文体の要素も大きいんですね



    Re: 有村司さん

    桐野くんは、わたしと長いつきあいになります。それだけに難物です(^^;)

    最終章を書くまでわたし生きてられるかな(^^;)

    悩みました…。

    こんばんは!

    泣く泣く「エドさん」にグッドラック!を言って、次に何を拝読するか…すごく、すごーーーーく悩みました…。
    そしてやはり、掲載順に読むのがよろしかろうという結論に…こういうところがB型なのに「A型ですか?」と訊かれ、ついでに性別まで間違われる所以ですね(苦笑・余談)

    で、このお話…やはりポールブリッツさまはホールブリッツさまだった!!
    と感動と称賛の言葉を申し上げます。
    シリアスなのにどこかユーモアというかエスプリが効いている…。
    「桐野さん」という方にも好感が持てました。長い付き合いが楽しくできそうです^^

    Re: 蘭さん

    はいゲームが元です。

    設定とかはかなり独自解釈してますが。

    登場人物は、ほぼ全部わたしの想像の産物です。

    とはいえ二次ですから、「オリジナル小説」で看板をかかげるのにちょっと躊躇しました(^^;)

    ほんとになんでもありですねうちのブログ(^^;)

    最新のものまで読むと、1200枚をゆうにこえる大河小説になってしまうので、まあごゆるりと……(^^;)

    こんばんは^^

    「紅蓮の街」は本編を読んでないので、タイムリーでついていけないと思って、こちらを読ませていただきました。

    これ、二次なんですか?
    RPGって事は、ゲームが元??
    「ナイトメアハンター」とか聞いたら、私が大好きな宮部みゆきの「ドリームバスター」を思い出します。
    これまた未完なので、先を読みたいんですけどね^^;

    少しずつ読ませていただきますv-411

    Re: いき♂さん

    ようこそいらっしゃいました!

    ナイトメア・ハンターというTRPGは、早い話、「夢の中に入って武器作って夢魔を殴って楽しいな」みたいなゲームですので、その基本さえ押さえておけば、すぐに世界にも慣れると思います。

    全五部作の予定ですが、第五部はとうぶん書くつもりがありませんので、今からでもゆうゆう追いつけます。どうかゆっくりお楽しみください!

    はじめまして!

    実は何度かお邪魔しておりますが、初コメです!
    TRPG「ナイトメア・ハンター」を知らないので読むのを躊躇っていたのですが、こちらの前書きで基本設定のみ借用とのこと、安心して読み始めました。
    引き込まれる出だしなので、続きも拝読し、楽しませていただこうと思っております。
    では、またお邪魔します。

    >れもんさん

    いちおう長編が三つ完成しておりますので、のんびりとお楽しみください。今日から第4シリーズが連載です(^^)

    このゲーム好きなんですけど相手してくれる人がいなくて、欲求不満解消のために書いたんですが、主人公に愛着が出てきてこんな長いシリーズに(笑)

    シリーズ中には、知っていてウソを書いているところもありますが、そこは大目に見てくださいね~♪

    タイトルに惹かれて思わず読ませていただきました☆
    ナイトメア・ハンターとか・・♪

    というか、始まって拉致とか早速、ドキドキの展開(人〃∇〃)
    これからどうなるのか楽しみです

    読むの遅いですが、また読みに来ます!

    >佐槻勇斗さん

    ううむ長いですか。すみません。
    この小説400字詰めで全部で400枚以上あるため、どうしても一節一節が長くなってしまって……全43回でやりましたから、ならすと一節につき10枚近く。あははこりゃ長いや(汗)。
    どうか呆れ返らずおつきあいください~(^^;)

    こんばんは

    お言葉に甘え、またまた来てしまいました(;^ω^A

    拉致されているというのにいたって冷静な桐野さんに見事にはまってしまいました。
    大野龍臣との出会いで桐野さんがどうなっていくのか、気になります。たのしみです((o(^∇^)o))

    失礼なことですが、
    ページを開いた瞬間、「うわ、長っ」と一瞬驚きました。ですが、読み進めていくとそんな思いはいつしか吹き飛んでいてあっという間にここまで来ていました。
    自分でもびっくりでした笑
    佐槻もゲームが大好き(特にRPG)なので、これからに期待大です★

    また読みに来ますね。それでは(@^▽^@)ノ

    >神田夏美さん

    お読みいただいてありがとうございます。

    ブログ作成前に書き上げた長編小説を、適当にぶつぶつ切って「連載小説」にしたものなので、ブログ形式ではそうとう読みにくいかとは思いますが、どうかおつきあいください。m(__)m

    長編なので詳しく書くとネタバレ~~~ということになりかねないので、こちらももどかしいのですが、大野氏は桐野くんの敵ではありません。

    とりあえず、この回を含む第一章だけでも独立した短編と読めないこともないので、43回読むのがつらければ、そこまでお読みいただければいいな、と思います。

    わたしも目次を作ったほうがよかったかな……(^^;)

    こんばんは、またお邪魔させて頂いております。
    第一話目から緊迫感のある内容で引き込まれました。淡々と緊張を煽る文章で、自然と読む進めることができました。
    一話のラストまで読み進めて、どんな恐いボスとかが現れるのかと思ったら、かなりの年配の方、しかも桐野のことを先生と呼んでいて、いい意味で期待を裏切られたというか、意外性があり先の展開が気になります。
    遅読で申し訳ないのですが、これからちょくちょく続きも読ませて頂きますね^^

    No title

    突然の訪問、失礼いたします。
    私はこちら⇒http://bestfreegame.blog20.fc2.com/
    でブログをやっているきみきといいます。
    色々なサイトをみて勉強させていただいています。
    もしよろしかったら相互リンクをお願いできないでしょうか?
    「やってもいいよ」という方はコメントを残してくだされば、
    私もリンクさせていただきます。
    よろしくお願いします^^
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