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    「ナイトメアハンター桐野(二次創作長編小説シリーズ)」
    1 ナイトメア・ハンターの掟(完結)

    ナイトメア・ハンターの掟 1-2

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    第一章(承前)

     大野龍臣という名に聞き覚えはなかった。もとよりこんな家に住めるような金持ち階級に関する知識はゼロなのだ。
    「わたしの拉致を命じたのはあなたですか」
     拉致か、と老人はつぶやいた。
    「余目め、くれぐれも丁重にお迎えしろといっておいたのに」
    「面白い丁重もあったものです。椅子はありませんか? ここでこうして立っていると、なんだか被告人みたいで落ち着かない。できれば晩飯とお茶もほしいところですが、暗がりで飯を食っても味気ないのでね」
     老人は横を向いたようだった。なにかのスイッチを操作したのか、電子音が鳴る。
    「桐野先生に、なにかお飲み物を。……よく冷えたストリッチナヤがあったはずだが」
     ウォッカなどとんとごぶさただ。自分の喉が鳴るのがわかった。
    「わたしの好物がよくわかりましたね」
    「調べたのでな。……目が慣れたらわかるかと思うが、桐野先生、椅子はその近くにあるはず。適当に座ってください」
     辺りを手探りで探し回った。手がなにか固いものに触れた。荷物だろうと電気椅子だろうと知ったことか。引き寄せて座る。運のいいことに、それは椅子だった。日ごろの行いがいい証拠だ。
     普通に座ってから、逆向きに座ったほうが実戦的かな、という考えが頭をかすめたが、座りなおすのもバカバカしい気がする。だいいち格好が悪い。せいぜいわたしにできたのはわざと乱暴に足を組むことくらいだった。
    「わたしのことはなんでもわかっているような口ぶりですね」
    「なんでもというわけではない」
     それもそうだ。わたしが言葉を差し挟もうとしたとき、ノックの音がした。
    「お飲み物をお持ちしました」
    「入れ」
    「失礼します」
     扉が開いて、飲み物を盆に載せた男が入ってきた。声から判断するに、わたしを拉致してきた、余目というらしい男とは別人のようだ。そいつは暗い中をふらつく様子もなく歩いてくると、わたしの手に冷たいグラスを握らせた。
     男が出て行くのを待って、わたしはグラスにわずかに口をつけた。よく冷えた、すばらしいストリッチナヤだった。ウォッカにもヴィンテージがあるのか、それとも供しかたになにかコツがあるのか、これが酒屋でひと瓶千数百円で買ってくるストリッチナヤと同じものだとしたら、世の中不公平である。
     もう一口すすりたいのをこらえて、さっきいいかけたことを続ける。
    「ウォッカをサービスしてくれるなんて、めぐまれない講師に愛の手を差し延べてくれようとしているわけでは……ないですよね。聞きたいのはなんです?」
    「桐野先生しか知らないことです」
     いやな予感がした。
    「わたししか知らないこと?」
    「小笠原登志子のことについておうかがいしたい」
    「小笠原登志子……? 誰のことです?」
     シラをきったが、相手は確かに、なにかを知っているようだった。
    「先生の、最後の患者だった娘です。お忘れのはずはない」
     わたしは無言でウォッカを飲んだ。胃は焼けるように熱くなったが、舌と頭はこれ以上ないほど冷え切っていた。
    「小笠原登志子。いいでしょう。知っているとしましょう。だが医者には守秘義務があって」
    「登志子が、わしのたった一人の孫娘だとしてもですか?」
    「ご親族なら、なおさらです。聞いて面白い話じゃない」
    「面白い話など求めてはおりません。真実が知りたい。桐野先生、あなたは、いったいなにを見たのですか?」
     この老人はどこまで知っているのか?
     わたしはウォッカをあおった。
    「先生もご存知かと思いますが、登志子は、今はぬけがらのようになって精神病棟にいます。医者は回復の見込みは薄いといっています。登志子がそのようになるのと期を同じくして先生も大学をやめておられる。なにを知っているのですか!」
    「わかりました」
     なるようになれ、という気分だった。
    「お話ししましょう。その前に」
     わたしはグラスを軽く振った。
    「おかわりをいただきたいのですが。それもたっぷり。気が滅入る話なのです。わたしにとっても、あなたにとっても」
     わずかの量のウォッカでわたしはなにを売ろうというのだろう。
    「あれは……」

    …………
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    ~ Comment ~

    Re: 有村司さん

    ありがとうございます。

    わたしはこのゲームが好きで好きで好きで(^^)

    でも誰もプレイにつきあってくれないので、こうなったら自分で書こう、と……(^^;)

    その執念がこもってます(^^)

    気になる…!

    こんにちは!

    物語の世界に、ぐいぐい引き込まれています。
    ポールブリッツさま「魅せます」ねえー!

    >佐槻勇斗さん

    この小説、一度書き上げた長編をぶつぶつ切って連載にしたので、「引き」もなにも考えていなかったりします。
    どきどきしていただけるなんて嬉しいです。
    第一章だけでも独立した短編になってますので、まずはごゆるりと……。

    桐野先生はお医者様だったのですね。
    それで彼は小笠原登志子とどう関わったのか。なにを知っているのか。すごく、すごくすごく気になります。
    が、今日もここまでにしておきます笑
    楽しみがある生活って素敵だと思いますので(*^^*)

    それにしても、読んでいてとてもどきどきさせられますね。
    まだ二話だとはとうてい思えません……。
    読者を引きつける力……羨ましいです。私ももっと頑張ろう!!o(・ω・)o

    それではまた来ます♪

    >神田夏美さん

    お褒めいただきありがとうございます。
    冒頭部は難しいですよね。『人は見た目が10割』ではありませんが、ここで人の気を引かなければ、一切読んでもらえませんから。わたしもまだまだ修行をしなくてはならないです(汗)。

    10行読んだらやめられない、そんな小説が書ける境地に達したいものですね~♪

    二話目も読ませる内容ですね。小笠原登志子のこと、そして桐野が見たもの。一体何があったのか、非常に気になります。
    1、2話目って、長編においてはものすごく重要な入口だと思うので(私自身、小説を読んでいて、冒頭がつまらないと読むのをやめてしまうことが結構あるのです^^;)
    こうして冒頭から読者の好奇心をくすぐる導入というのは、とても上手いなあと感じました。

    「胃は焼けるように熱くなったが、舌と頭はこれ以上ないほど冷え切っていた。」など、描写も上手で、まだ二話目ですがとても面白い物語を期待させてくれます。
    続きもまた読ませて頂きますね^^
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