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    「ナイトメアハンター桐野(二次創作長編小説シリーズ)」
    1 ナイトメア・ハンターの掟(完結)

    ナイトメア・ハンターの掟 1-4

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    第一章(承前)

     夜が来た。
     連日の夜勤は、肉体も精神も疲弊させる。ただでさえ。
     わたしの場合は、その疲れにプラスアルファがあった。
     五階の、5‐Dに足を運ぶ。そこにはわたしの患者が寝ていた。本来ならばわたしも仮眠を取るべき時間だが、そのくらいしか自由になる時間はないのでいたしかたない。
     患者の名は田中晋三郎。五十九歳。悪夢をしばしば見るようになり、深刻な不眠症となってこの病院に来る。一時は悪化の傾向を見せたが、入院と適切な治療により、漸次好転……ということになっていた。だが実際なにがあったのかは、わたししか知らない。
     ベッドのそばまで来て、椅子に座った。看護師はしばらく来ない。その間に終えてしまうのだ。
     頭の中に青い正六角形をイメージした。右に六十度傾け、色を紫に変える。再び六十度傾け、赤をイメージする。その調子でオレンジ、黄色、緑、再び青、と次々と回転させながら色を変えていった。
     調子が乗ったところでイメージの変化を速くする。
     青、紫、赤、オレンジ、黄色、緑、青……。
     猛烈な速さで回転する六角形は円へと変わっていた。
     虹色を通り越して白色の光を放つ真円のイメージがいっぱいに広がったとき……。
     わたしは田中晋三郎の夢の中に入った。
     夢に入る。この特殊能力を、いったいどうやって得たのか、じつはわたしもよく覚えていない。夢の中で、誰かに教えられたような気がするのだが、夢というやつは、もともと見てもすぐに忘れてしまうものであるし、訓練を忘れるように記憶が操作されたというおぼろげな記憶もある。そもそも、この記憶すら、いつこうしてまとまったのかもわからないときているのだ。一年前のような気もするし、十年前のような気もするし、生まれたときにはすでにあったような気もするし……。
     しかし、問われるのはそれが実際に使えるかどうかである。その点で、この能力は充分すぎるほど充分だった。
     今、わたしは田中晋三郎の見ている夢、を体感していた。
     そこは昭和三十年代の東京だった。空き地で、男の子たちが鬼ごっこをやっていた。帽子をめいめいが変なかたちにかぶっているところを見ると「水雷艦長」らしい。
     平和な光景だった。夢魔がいる様子はない。
     わたしはほっとしてこの間の戦いを思い返した。
     田中晋三郎といううつ病患者が悪夢を見ている、と最初に聞いたとき、わたしは、即座に夢魔の存在を連想した。うつ症状は、夢魔に精神のエネルギーといったものを食われていることで起こっているのではないかと。
     夢魔。それは、わたしたち人類の精神を主食とする、悪意ある一種のエネルギー体である。と、わたしの記憶にはある。これも、この特殊な力を得るときに夢の中で得られた知識なのだろうか? わたしにはわからない。ただ、そういった確信があるだけだ。夢魔は、人間の夢の中に現れては、精神を食い荒らして去っていくのだ。食われた者の精神は荒廃し、最終的には永遠の狂気に沈むこととなる。これもまた、同じく、わたしの心に刻み込まれている。妄想なのか、と疑ったことは数知れないし、現に、最初に他人の夢に入るまでは(ある意味、入った後でも)そうだった。だが、わたしが関わった患者のうち、少なからぬ人が、病気に劇的な改善を見せるようになった後では、わたしはこの確信を信じることにしていた。
     どうであれ、永遠の狂気に沈むような目に遭わせてはならない。そう考えたわたしは、田中晋三郎の夢に潜った。
     そのとき、夢魔はいた。それもかなり強力なものが。田中晋三郎の夢をかなり食らったに違いない。人を守るどころか、自分の身の安全を守るのすら危ういような話だった。なにも知識がなかったら、完全に二人ともやつの餌食になっていただろう。
     しかしわたしは、戦う術を知っていた。
     人間は、訓練を受けることで、夢の世界でおのれの精神力を武器とする方法を身につける。わたしはそれを、「物象化」と呼んでいた。
     物象化ができる人間を、ナイトメア・ハンターと呼ぶ。この名前もまた、ある種の確信としてわたしの心に刻印されていた。
     物象化をどう使うのか。具体的にいえば、精神を集中し、武器の形に結晶化させて夢魔に対する攻撃の手段とするのである。もと射撃部で、クレー射撃をやっていたわたしの武器は、もちろん散弾銃だ。
     ここにこうして生きていることからもわかるように、わたしはぼろぼろになりながらも勝利した。
     今日来たのは、田中晋三郎のもとにしつこく夢魔が訪れていないかどうか確かめるためだった。夢魔というのは血に飢えた鮫みたいなもので、動揺している精神を見つけると群がってくる傾向にあるのだ。
     しばらく見回ったが、それらしい気配はなかった。もうちょっとこの平和な雰囲気のなかにいたかったが、それは田中晋三郎の負担になりかねない。
     わたしは夢から出た。
     時計を見る。五分しか経っていなかった。
     こんな時間に病室にいるのを見られるのはさすがにまずい。見回りが来る前に消えることにする。
     そういえば。
     昨日会った、小笠原登志子という患者はどうしているだろうか。
     幸いにも今日は調子がいい。訴えるところの悪夢とやらを調べるために、夢へと入ってみるか。
     わたしは看護師の巡回の合間をぬって、四階の女子病棟へ降りた。
     それが転落への最後の曲がり角だった。

    …………

    「行ったのですか」
     大野龍臣は、静かにいった。
     わたしはウォッカをすすった。
    「行きました」
    「登志子がああなったのは、先生のせいなのですか」
    「ある意味では」
    「先生はなにを見たのです!」
     わたしが見たのは……。

    …………
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    ~ Comment ~

    Re: 有村司さん

    ふっふっふ。昔から、ラジオやテレビの講談や浪花節というものは、場を盛り上げられるだけ盛り上げておいて、

    ♪ちょうど時間となりました。続きはどうぞレコードで♪

    と相場が決まっているのじゃ。ふっふっふっ(^^)

    私が見たのは…!?

    な…桐野先生何を見たんですか!?ってかここで「続く」ですか!?
    わーん!!ポールブリッツさまの「イケズ」!!

    Re: 蘭さん

    ふっふっふ。紙芝居の昔から、続き物というのはあとを引くように作られておるのじゃ。

    まだまだ先は長いですので、どうかゆっくりご覧になってください。

    こんにちは^^

    わお!
    何とまぁ、中途半端な終わり方をして、次に持ちこもうとは卑劣な・・・・・・!!

    (笑)

    一体何をみたのでしょう??
    気にはなるものの、時間がないのでまた明日v-222

    Re: LandMさん

    そうですね。ここで桐野くんが語っている夢魔は、インキュバスとかサキュバスみたいに、人間的な意志と人間的な知性を持っているタイプの魔物じゃないですね。もっと異質で、人間には食欲(っていうのも変ですが)の具現としか知覚できない存在みたいな。

    もちろん、これは基礎的なものでして(もとにしたゲームのルールに従えばですが)、実際は夢に応じて知性や意志を備えた存在として形を取ることもありますし、他の妖魔が夢に現れるときの存在としてそういう形をとることもあります(ネタバレですが第3シリーズの敵はそういうやつです)。

    もとのゲーム「ナイトメア・ハンター」が汎用性を重視したタイプのものだったので、ちょっととらえどころがないですね。その後出た続編の「ナイトメアハンター・ディープ」によってそのあたりは明確化されクリアになったのですが、その内容はわたしの好むところではなかったため、わたしの小説では準拠していません。

    とりあえず全五部作の予定で書いていますが、完結は早くて七年後の予定であります。そのころブログやっていられるのかなあわたし。

    NoTitle

    どうも。読ませていただきました。
    LandMです。
    この場合の夢魔というのは、一般的なインキュバスやサキュバスとは少し系統が違う夢魔になるんでしょうかね。あれは精を奪いますが、これは精神エネルギーを奪う……という解釈になるんでしょうかね。
    どことなく、悪い解釈の獏をイメージするような感じですよね。良い夢を食べて、人を絶望に追い込む……みたいな解釈になるんでしょうかね。この場合は。少し違うような気がしないでもないですけど。
    また、読ませていただきますね~~。

    >れもんさん

    この設定を考えたOVA「ドリームハンター麗夢」とTRPG「ナイトメア・ハンター」シリーズのデザイナーに感謝するしかないです(^^)

    大好きなゲームなのですが、どうもマイナー出版社から出たせいかまるで人気がなかったですね、販売当初は。

    続編のリメイクが出たのですが、それはわたしの好きだった「ナイトメア・ハンター」とはほとんど別物といっていい代物で……その恨みをここで晴らしていたりして(^^;)

    第一章だけである意味完結しておりますので、とりあえずそこだけ読んで、面白かったら続きを、というふうにすることをおすすめいたしますであります。

    面白い自信はありますが(^^)

    夢の中とかかっこいいーー!!!
    いいですね、夢魔とか・・(え)
    そういえば、最近夢見てないです・・(覚えてないだけ?)睡眠が深い・・?

    登志子さんの夢の中は一体どうなってるのでしょうか?
    今度読みに来ます!

    >佐槻勇斗さん

    わたしもウン年前このTRPGを買ったときには、その「夢の中に入る」という行いにゾクゾクしたものですが、どうも人気がなかったようであっという間に絶版に……(^^;)
    その怨念(笑)も籠もっていたりするので、お読みいただけると嬉しいです♪

    リンク貼ってくださってかまいませんよ~。友達の友達はみな友達だ~♪

    こんばんは。
    桐野先生にならって頭の中で正六角形をぐるぐるしてみた佐槻です笑
    "夢の中に入る"って、佐槻のど真ん中ストライクです♪わくわくどきどきで読ませていただきました(^^*
    次回は登志子さんの夢(に入るところ)でしょうか。気になります☆
    また読みに来ますね♪

    リンクのほう、貼っていただいてもちろん結構です!
    ありがとうございます。
    あとその、迷惑じゃなかったら佐槻のブログにも、こちらのリンクを貼らせていただいてもよろしいですか??
    お返事お待ちしておりますm(_ _)m

    >神田夏美さん

    お読みいただきありがとうございますm(__)m
    反省点はいっぱいあるのですが、今後のネタを割るようでしゃべれないのが辛い……(汗)。
    またいらしてください~♪

    続きが気になりますね。今回は説明部分が多く淡々としていましたが、この次は登志子に関することが明かされそうでドキドキします。
    遅読で申し訳ないのですが、また読みに参りますので。
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