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    「ナイトメアハンター桐野(二次創作長編小説シリーズ)」
    1 ナイトメア・ハンターの掟(完結)

    ナイトメア・ハンターの掟 1-5

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    第一章(承前)

    …………

     出歯亀根性がなかったといったら嘘になる。
     わたしは眠っている小笠原登志子の枕元の椅子に腰かけ、夢に入るための精神統一をしていた。
     しかし、こんな美しい女性が、自分から入院したくなるような悪夢とはどんなものなのだろう。
     やはり夢魔がらみとみるべきだろうか。
     答は簡単、入ってみるのみだ。いつもどおりに回転する六角形をイメージし、夢の中へと入った。
     眼前にあったのは。
     明るい林の中に建つ、一軒の山小屋とおぼしき小屋だった。
     一見したところ平凡でなんの変哲もない光景である。
     だがわたしは、恐ろしいものを感じ取っていた。
     この濃密な血の臭いはなんだ!
     緊張しながら山小屋に歩んで行った。
     血の臭いはここから流れて来ているらしい。
     扉に手をかけた。汗のせいか、取っ手がつかみづらかった。
     ひねって押す。扉はスムーズすぎるほどスムーズに開いた。
     たたらを踏み、小屋の中へ転倒した。
     池のように溜まった血が、顔を、衣服を、赤黒く染めた。金臭く生臭い臭いに、胸が悪くなった。
     新鮮な空気を求めて顔を上げたとき、小笠原登志子と目が合った。
     その血に濡れた瞳には、すでに生気がなかった。
     全裸だった。万歳をするかのように両手を上げている。身体を隠すものといえば、両手両足を拘束する鎖しかない。
     エロチシズムは微塵も感じられなかった。全身に無数の傷と打撲、そしてやけどの痕があり、腫れ上がった身体に刻まれた傷口からは、血がとどめようもなくながれていたからだ。
     痛々しい。それだけだ。
     わたしは医者としての本能と、ナイトメア・ハンターとしての能力を持っていることとから、手当てをするために、小笠原登志子の前にかがみ込んだ。
     まずは鎖を切らなくては。
     精神を集中して、道具の形を強く念じる。ヤスリ……ヤスリ……ヤスリ……。
     このような小さな道具の物象化は、ナイトメア・ハンターの基礎中の基礎だ。
     わたしの手の中に、最初はぼんやりと、しかしすぐにリアルに感じられるものとして、ヤスリが現れた。鎖を切るのならば電動の工具を出したいところだが、そんなものを物象化させると疲労が大きいのである。ヤスリで我慢だ。
     さっそく、鎖を切断する作業に入る。
     夢の中での行動のやりやすさは、対象の精神の強さに左右される。頑固な意志の持ち主だとか、強力な夢魔が精神を支配している、といった場合には、なにかを成し遂げるのが難しくなるわけだ。今回もそのクチらしかった。よほど強力な夢魔の幻覚なのか、鎖が固くてヤスリの刃が食い込みやしない。
     それでも一本が切れ、片方の手が自由になった。
     小笠原登志子の瞳に、ようやくなにか光めいたものがきらめき出した。
    「あ……あ……」
     小笠原登志子はなにかをしゃべろうとした。だが、言葉にならない。なぜだろう、とその口元に目をやったわたしは驚愕した。
     舌が切り取られていた。
     なんて夢魔だ!
     悪態をついて、もう一本の鎖に取りかかる。
     そのときだった。
     小笠原登志子が自由になった手でわたしの肩を叩いた。瞳に恐怖の影が浮かぶ。
     なんだ?
     振り向いた。
     目に、仁王立ちした、やぶにらみの裸の男が写った。その手には剣が握られていた。
     武器を物象化させている時間はなかった。横殴りに斬りつけてくるのをかわすだけで精一杯だった。
     格闘術も剣術も知らないうえに、武器といえばごく短いヤスリが一本。
     これではなんとかしろというほうが無理だ。
     だがしかし、なんとかしないと小笠原登志子の身が危うい。
     ぶんぶん振り回されてくる刃を、背後の女性を守りながら必死に必死にかわす、という矛盾したことを強いられた。ときどき刃が身体をかすめる。当たらないのは向こうもそれほど剣術がうまくないのと、神の恩寵によるものだ。
     相手が戦法を変えた。これまでの大振りのなぎ払いから、突きにシフトしたのだ。
     時代小説で、斬るよりも突くほうが相手の命を奪いやすい、という文章を読んだことを思い出した。まずいことに、それは医学的に見ても理にかなっていた。
     剣を槍のように構えた男が、体重を乗せて突っ込んできた。とっさに右にかわす。
     かわすべきではなかった。幾たび自分のうかつさを呪ったことか。
     避けられた刃は、当然、わたしの後方に向かった。
     後方には小笠原登志子がいたのだ。
     刃が小笠原登志子の肌に突き立ち、舌を切り取られたその口から、言葉にならない絶叫が響き渡った。
     それと同時に周りの風景が揺らぎ始めた。それは危険なほどに激しくなる。
     まずい! この夢を見ている小笠原登志子の心に致命的なダメージが行き、精神が死のうとしているのだ!
     このままではわたしもまた精神の闇に飲み込まれてしまう!
     慌ててこっちも精神を集中した。夢から出る。夢から出る。夢から……。
     わたしは意識が遠のいていくのを感じた。
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    ~ Comment ~

    Re: 有村司さん

    真相はもっとひどかったりします。

    うむむ。

    我慢できずに…

    続きを読みに来ましたら…。

    なんという展開…!!ジェイソンもフレディーも吃驚です…!
    こんな夢見てたらそりゃあ、どこか体に変調をきたすのも仕方ないです…。というより、むしろ夢魔の目的は、「彼女を夢の世界から帰さない事」でしょうから…うう、恐ろしい…。

    >佐槻勇斗さん

    ありがとうございます。書いた甲斐がありました。
    もともとこの章は短編を書くつもりで書いたので展開がけっこう速かったりします。
    それでも50枚ありますが(爆)。
    どうかごゆるりとお読みください~♪

    すごい展開ですね。どきどきしっぱなしです。夢の中の光景を想像して心臓バクバクです。コメント書いてる今、目がいつもの1.5割り増しぐらいに(わかりにくい)開いてます!
    突然現れた剣を持った男。何者……?? 気になります。
    まるで映画を見ているような展開の速さにどんどん引きこまれます。
    また読みに参りますっ

    あ、リンクのほう、ありがとうございました♪

    >神田夏美さん

    お読みいただいてありがとうございます。
    いわばこれはナイトメア・ハンターとしての一生の不覚というやつで、桐野くんは埋め合わせをするために苦労することになります。
    ここらあたりを書いていたときには短編か連作短編にするつもりだったので、長編としてはバランスが悪いのですがどうか今後もおつきあいください。

    うおおおお、すごい展開ですね!まだ五話目だというのにどんどん引き込まれます。この夢は一体何なのか、小笠原登志子は何故こんなことをされているのか、夢の男は一体誰なのか……一気に謎が増え、この謎が解明されてゆくのが楽しみです。
    それにしても、悪夢がこんなにも残酷なものだったとは……そりゃあ、こんな夢を見ていたら鬱にもなりますね……。
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