「範子と文子の驚異の高校生活(ギャグ掌編小説シリーズ・完結)」
範子と文子の三十分一本勝負(ギャグ掌編小説シリーズ・完結)
範子と文子の三十分一本勝負:FIGHT・8
「こんにゃく」
範子は、文子の弁当箱を見つめ、呆然とした表情でつぶやいた。
「こんにゃくだよ、範ちゃん」
文子は泣きそうになっていた。
「なによ、なによ、このこんにゃくの量は!」
範子が愕然とするのも無理はなかった。文子が持ってきた弁当箱は、年ごろの少女が持ってくるような小ぶりなものではなく、昔の、いや、今も同じだろうか、運動部所属の大食漢の男子が持ってくるような、いわゆる、「ドカベン」というやつだったのである。
ご飯の量自体は少なかったが、それを圧倒するかのような、薄切りにして炒めたこんにゃく、こんにゃく、こんにゃくの群れ!
「文子……」
範子はゆっくりと言葉を押し出した。
「こんにゃくがノーカロリー食品だとはいっても、あまり、むちゃなダイエットは身体に毒だわ」
「ダイエットするのにこんな量のこんにゃくが必要なわけないでしょうよお!」
文子は箸を持った手で机をばん、と叩いた。
「うちでもって法事があって、親戚その他がたくさん家に来ることになったんだよ」
「それで」
「精進料理を作ることになって、安くてかさがあるものってことになって、おからとこんにゃくをたくさん買い込んで、近所の家を総動員して鍋とフライパンでこんにゃくとおからの料理を作って作って作りたおしたのはいいんだけど」
「……だいたいわかったわ」
「分量の計算を間違えて、大量のおからとこんにゃくが余っちゃったのよ!」
「…………」
「おからは親戚に持っていってもらったけど、こんにゃくのほうは、さすがに……わたしが女子高に通っているっていうので、こんにゃくは低カロリーでダイエットにいいから持っていきなさいって」
それでも量に常識というか限度というものがあるだろう、と範子は思った。
「範ちゃん、食べるのにつきあってくれない?」
範子もこんにゃくは嫌いな食べ物ではなかったが、それは自分の家でよく調理されたものを少し食べるという意味においてであった。
「……わたし一人じゃ無理だわ。ほかのクラスメートも……」
クラスメートは全員逃げていた。
「みんなこの弁当箱を見せたら逃げちゃったの! 範ちゃん、あなたが最後の希望なのよ!」
文子からうるうるした瞳で見上げられて、範子は覚悟を決めた。そうだ、自分は文子を好きなのではなかったか。
「……いいわ、文子。わたしは、あなたのために死ぬわ」
今日は食堂で食べるつもりだったので弁当持ってこなくてよかった、と思いながら、範子は学生食堂からがめてきた割り箸を割ると、決然とした表情でこんにゃくの海をにらみつけた。醤油で炒められて茶褐色になったこんにゃくは、まるで無数のくらげに見えた。
一片をつまみあげ、口に入れる。
「なによこれ、おいしいじゃない」
醤油の味と微妙なだしの味、それにこんにゃくの歯ごたえが絶品といえるハーモニーを奏でている。
ひと口、もうひと口、と箸が止まらなくなってしまう範子であった。
文子は安心した、とでもいいたげにほっと吐息を漏らした。
「文子、ご飯もわけてくれない? おかずだけじゃ……」
「もちろん、いいよ、範ちゃん」
文子の家族が作ったこんにゃくの味にすっかりハマってしまった範子は、猛烈なペースでこんにゃくを片付けていった。
恐るべきものというか、人間やればできるものというか、気がついたときにはあのばかでかいドカベンに入っていたこんにゃくも、すっかりきれいになっていた。
範子はにこにこ笑いながらおなかをさすっていた。
「いやー、食べたわ、食べたわ。おいしかった。文子、ごちそうさま。それにしても、文子、まだ、ご飯残しているの? だったらもらうんだったわ」
といったとき、範子の頭に電撃のようにひとつの疑念が。
「文子、まさか……」
文子はうなずいた。
「範ちゃん、弁当箱はあと二つあるのよ」
範子の中で、なにかが音を立てて崩れた。
範子は突っ伏してすべてを暗黒の中に委ねていった……要するに失神したのである。
範子は、文子の弁当箱を見つめ、呆然とした表情でつぶやいた。
「こんにゃくだよ、範ちゃん」
文子は泣きそうになっていた。
「なによ、なによ、このこんにゃくの量は!」
範子が愕然とするのも無理はなかった。文子が持ってきた弁当箱は、年ごろの少女が持ってくるような小ぶりなものではなく、昔の、いや、今も同じだろうか、運動部所属の大食漢の男子が持ってくるような、いわゆる、「ドカベン」というやつだったのである。
ご飯の量自体は少なかったが、それを圧倒するかのような、薄切りにして炒めたこんにゃく、こんにゃく、こんにゃくの群れ!
「文子……」
範子はゆっくりと言葉を押し出した。
「こんにゃくがノーカロリー食品だとはいっても、あまり、むちゃなダイエットは身体に毒だわ」
「ダイエットするのにこんな量のこんにゃくが必要なわけないでしょうよお!」
文子は箸を持った手で机をばん、と叩いた。
「うちでもって法事があって、親戚その他がたくさん家に来ることになったんだよ」
「それで」
「精進料理を作ることになって、安くてかさがあるものってことになって、おからとこんにゃくをたくさん買い込んで、近所の家を総動員して鍋とフライパンでこんにゃくとおからの料理を作って作って作りたおしたのはいいんだけど」
「……だいたいわかったわ」
「分量の計算を間違えて、大量のおからとこんにゃくが余っちゃったのよ!」
「…………」
「おからは親戚に持っていってもらったけど、こんにゃくのほうは、さすがに……わたしが女子高に通っているっていうので、こんにゃくは低カロリーでダイエットにいいから持っていきなさいって」
それでも量に常識というか限度というものがあるだろう、と範子は思った。
「範ちゃん、食べるのにつきあってくれない?」
範子もこんにゃくは嫌いな食べ物ではなかったが、それは自分の家でよく調理されたものを少し食べるという意味においてであった。
「……わたし一人じゃ無理だわ。ほかのクラスメートも……」
クラスメートは全員逃げていた。
「みんなこの弁当箱を見せたら逃げちゃったの! 範ちゃん、あなたが最後の希望なのよ!」
文子からうるうるした瞳で見上げられて、範子は覚悟を決めた。そうだ、自分は文子を好きなのではなかったか。
「……いいわ、文子。わたしは、あなたのために死ぬわ」
今日は食堂で食べるつもりだったので弁当持ってこなくてよかった、と思いながら、範子は学生食堂からがめてきた割り箸を割ると、決然とした表情でこんにゃくの海をにらみつけた。醤油で炒められて茶褐色になったこんにゃくは、まるで無数のくらげに見えた。
一片をつまみあげ、口に入れる。
「なによこれ、おいしいじゃない」
醤油の味と微妙なだしの味、それにこんにゃくの歯ごたえが絶品といえるハーモニーを奏でている。
ひと口、もうひと口、と箸が止まらなくなってしまう範子であった。
文子は安心した、とでもいいたげにほっと吐息を漏らした。
「文子、ご飯もわけてくれない? おかずだけじゃ……」
「もちろん、いいよ、範ちゃん」
文子の家族が作ったこんにゃくの味にすっかりハマってしまった範子は、猛烈なペースでこんにゃくを片付けていった。
恐るべきものというか、人間やればできるものというか、気がついたときにはあのばかでかいドカベンに入っていたこんにゃくも、すっかりきれいになっていた。
範子はにこにこ笑いながらおなかをさすっていた。
「いやー、食べたわ、食べたわ。おいしかった。文子、ごちそうさま。それにしても、文子、まだ、ご飯残しているの? だったらもらうんだったわ」
といったとき、範子の頭に電撃のようにひとつの疑念が。
「文子、まさか……」
文子はうなずいた。
「範ちゃん、弁当箱はあと二つあるのよ」
範子の中で、なにかが音を立てて崩れた。
範子は突っ伏してすべてを暗黒の中に委ねていった……要するに失神したのである。
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NoTitle
> 「なによこれ、おいしいじゃない」
先生。
テレビ見てると、何か食べたレポーターは、語る前に必ずまず「うん…」って言ってから語るのが決まりのようですけど…(笑)
先生。
テレビ見てると、何か食べたレポーターは、語る前に必ずまず「うん…」って言ってから語るのが決まりのようですけど…(笑)
- #17569 ひゃく
- URL
- 2016.08/07 17:25
- ▲EntryTop
Re: 小説と軽小説の人さん
こんにゃく殺人事件……どういうシチュエーションになるんだろういったい。でも面白そうなタイトルだなあ。ぜひ書いて読ませてください(^^)
ご学友はそのうち出てきます。いつか気が向いたらサイドストーリーでも書こうかな(^^)
ご学友はそのうち出てきます。いつか気が向いたらサイドストーリーでも書こうかな(^^)
そうか、こんにゃく殺人事件もありなのか!
文子と範子がクラスメイトにどう思われているのか気になりますね。
二人の仲睦まじい百合具合が何ともツボです。
文子と範子がクラスメイトにどう思われているのか気になりますね。
二人の仲睦まじい百合具合が何ともツボです。
- #10713 小説と軽小説の人
- URL
- 2013.06/22 15:36
- ▲EntryTop
Re: 神田夏美さん
やっぱり書いていて王道は気持ちいいですな(^^)
この学校の生徒はみんな心が正しいので、人をいじめるとかいうことがもとから考えられないのでしょう。きっと。そうだったらいいのになあ。
この学校の生徒はみんな心が正しいので、人をいじめるとかいうことがもとから考えられないのでしょう。きっと。そうだったらいいのになあ。
NoTitle
なんという王道オチ(笑)
おいしいものでもそんなにたくさん食べたらさすがにちょっと……^^;
こんなお弁当学校に持ってきてる子がいたらいじめられそうですね(爆)
いいお友達がいてよかったね文ちゃん!
おいしいものでもそんなにたくさん食べたらさすがにちょっと……^^;
こんなお弁当学校に持ってきてる子がいたらいじめられそうですね(爆)
いいお友達がいてよかったね文ちゃん!
Re: LandMさん
味噌田楽もさしみこんにゃくもウマいですよね。
でもそれだけをどんぶり一杯食べるとなると逃げます(^^;)
でもそれだけをどんぶり一杯食べるとなると逃げます(^^;)
NoTitle
こんにゃくは味噌をつけると美味しいですよ。
……といっても、それだけも食べれないですけどね。
どうも、LandMでした。
……といっても、それだけも食べれないですけどね。
どうも、LandMでした。
Re: ネミエルさん
みんなおでん好きだなあ。
個人的におでんの具で好きなのはたまごとはんぺんです(^^)
個人的におでんの具で好きなのはたまごとはんぺんです(^^)
Re: れもんさん
さすがにおでんのこんにゃくを弁当に持ってくるわけにもいかんので(^^)
修羅場の台所では、ときに誰も想像もつかないような異常な状況が出てくるのであります(笑)
修羅場の台所では、ときに誰も想像もつかないような異常な状況が出てくるのであります(笑)
NoTitle
こ、こんにゃくーΣ(´Д`*)
別に嫌いじゃないですけど、流石にそんなに食べたら・・。あ、おからは嫌いです
こんにゃくといえば、おでんになったものがいい・・。
どうしたらこんな風に分量を間違えるんだろう・・・
別に嫌いじゃないですけど、流石にそんなに食べたら・・。あ、おからは嫌いです
こんにゃくといえば、おでんになったものがいい・・。
どうしたらこんな風に分量を間違えるんだろう・・・
Re: トゥデイさん
わたしはつい最近まで、某えっちなマンガ雑誌の読者投稿欄に「ぶりっつ」名で毎月のようにハガキが載っていました。
自慢にもなんにもなりゃしねえ(笑)。
たまには普通のシチュエーションコメディも書かなければ読んでるほうも書いてるほうも疲れきってしまうんではないかと思います(^^)
そりゃームチャクチャなネタが次から次へと浮かべば楽なんですがねえ。
激辛料理ばっかり食っていたら料理人も食べる人も舌がバカになるのと同じ理由であります。
おから嫌いですか……ちょこっと食うんだったらうまいと思いますけど。安いし。
自慢にもなんにもなりゃしねえ(笑)。
たまには普通のシチュエーションコメディも書かなければ読んでるほうも書いてるほうも疲れきってしまうんではないかと思います(^^)
そりゃームチャクチャなネタが次から次へと浮かべば楽なんですがねえ。
激辛料理ばっかり食っていたら料理人も食べる人も舌がバカになるのと同じ理由であります。
おから嫌いですか……ちょこっと食うんだったらうまいと思いますけど。安いし。
クイックジャパンの読者欄に投稿が載った。
さて、これがニコニコなら「普通www」とコメントしてました。いつになく普通のギャグと普通のオチでした。
文子よ、おからを残しておこうよ。比較的軽いし。私は嫌いだけど。
さて、これがニコニコなら「普通www」とコメントしてました。いつになく普通のギャグと普通のオチでした。
文子よ、おからを残しておこうよ。比較的軽いし。私は嫌いだけど。
- #1201 トゥデイ
- URL
- 2010.05/11 16:49
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Re: ひゃくさん