「ナイトメアハンター桐野(二次創作長編小説シリーズ)」
1 ナイトメア・ハンターの掟(完結)
ナイトメア・ハンターの掟 1-6
第一章(承前)
「……のくん。桐野君!」
肩を揺さぶられた。ぼんやりとした暗闇が、わたしを包んでいた。ここはどこだ。ここは……。
はっと目を覚ました。目を覚まして、自分が今どんな状況にいるかを思い出した。
「なにをしているんだ、こんなところで!」
「石垣先生……」
わたしの顔色は真っ青になっていたことだろう。
「君には、わたしの忠告が届かなかったようだな」
その声には悲しみと疲れ、そして怒りがうかがわれた。
「先生、わたしは……」
「聞きたくない!」
石垣教授はびしり、といった。
「見たまえ、桐野君。この患者を」
小笠原登志子の顔を指し示す。その顔は恐怖と苦痛に歪んでいた。わたしは目を背けた。
「考えも及ばないような恐ろしいことがあったのだろう。桐野君、君がいったいなにをしたのかわたしは知らん。知りたくもない。だが君はこうしてそばについていながら、この患者にわずかの精神安定剤も与えないで眠っていたのだ。それも勤務時間内に、女子病棟で!」
返す言葉もなかった。
「君にはいろいろと噂が立っているのを知っているか。あまり芳しくない噂だ。それも含めて、ゆっくり聞かせることがある。後でわたしの部屋に来たまえ。それが終わったら、荷物をまとめて家へ帰り、一週間ほど謹慎だ。君のこれまでの働きに免じて、修了はさせてやるが、推薦状はもらえると思わないことだな」
わたしはうつむいていた。
「もし、この子にこれ以上のおかしなことが起こっていたら、わたしも取るべき手段を取らせてもらう。わかったな。わかったら部屋に戻れ!」
小笠原登志子の運命を知っているわたしは、逃げるように部屋を出、その場で荷物をまとめて病院を後にした。
翌朝、病院の面々は、小笠原登志子が完全に発狂し、ぬけがらのようになってしまっているのを知ることになるだろう。診断の結果は、重度の統合失調症と判断されるに違いない。
そのとおりになった。わたしはその日から病院を休んだ。いったいどんな面を下げて病院に行けるというのだ。
石垣教授は善人だった。その言葉に嘘はなく、半月後、わたしはどうにか修了の免状をもらえた。
推薦状までくれという気はなかった。
…………
「そういうことだったのですか」
大野龍臣は感情を押し殺した声でそういった。
「そうです。いったはずでしょう。面白い話ではないと」
わたしはウォッカをひとすすりした。舌の上でアルコールの味をゆっくりと味わう。これで最後となるかもしれないのだ。このくらいしてもバチは当たるまい。
「わたしがもうちょっと利口であれば、あるいはもうちょっと強ければ、登志子さんは気が狂わずにすんだ。誰が見ても明白です。あの悪夢には、精神安定剤で対処したほうがまだよかったかもしれない。こんなバカなナイトメア・ハンターがしゃしゃり出てくるよりはずっと」
大野龍臣は、わたしをじっと見た。わたしも大野龍臣をじっと見た。
二人の間に、沈黙が訪れた。
先に沈黙を破ったのはわたしのほうだった。
「どうしたんですか? わたしはあなたのお孫さんを殺したも同然です。わたしをどうするのもあなたの自由です。さっきの余目とかいう人を呼んだらどうです?」
「まだ、わたしは先生のお話を全部うかがってはいませんので」
「どういうことです? 話はあれで終わりですよ」
暗がりの中で、首が横に振られるのがぼんやりと見えた。
「いいえ。先生は、森村探偵事務所に行かれた。なにをなさりに行かれたのです?」
わたしはウォッカの最後の一滴を飲み干した。
「わたしを調べたというのは本当のようですね」
「真実を知るためです」
真実か……。
…………
「……のくん。桐野君!」
肩を揺さぶられた。ぼんやりとした暗闇が、わたしを包んでいた。ここはどこだ。ここは……。
はっと目を覚ました。目を覚まして、自分が今どんな状況にいるかを思い出した。
「なにをしているんだ、こんなところで!」
「石垣先生……」
わたしの顔色は真っ青になっていたことだろう。
「君には、わたしの忠告が届かなかったようだな」
その声には悲しみと疲れ、そして怒りがうかがわれた。
「先生、わたしは……」
「聞きたくない!」
石垣教授はびしり、といった。
「見たまえ、桐野君。この患者を」
小笠原登志子の顔を指し示す。その顔は恐怖と苦痛に歪んでいた。わたしは目を背けた。
「考えも及ばないような恐ろしいことがあったのだろう。桐野君、君がいったいなにをしたのかわたしは知らん。知りたくもない。だが君はこうしてそばについていながら、この患者にわずかの精神安定剤も与えないで眠っていたのだ。それも勤務時間内に、女子病棟で!」
返す言葉もなかった。
「君にはいろいろと噂が立っているのを知っているか。あまり芳しくない噂だ。それも含めて、ゆっくり聞かせることがある。後でわたしの部屋に来たまえ。それが終わったら、荷物をまとめて家へ帰り、一週間ほど謹慎だ。君のこれまでの働きに免じて、修了はさせてやるが、推薦状はもらえると思わないことだな」
わたしはうつむいていた。
「もし、この子にこれ以上のおかしなことが起こっていたら、わたしも取るべき手段を取らせてもらう。わかったな。わかったら部屋に戻れ!」
小笠原登志子の運命を知っているわたしは、逃げるように部屋を出、その場で荷物をまとめて病院を後にした。
翌朝、病院の面々は、小笠原登志子が完全に発狂し、ぬけがらのようになってしまっているのを知ることになるだろう。診断の結果は、重度の統合失調症と判断されるに違いない。
そのとおりになった。わたしはその日から病院を休んだ。いったいどんな面を下げて病院に行けるというのだ。
石垣教授は善人だった。その言葉に嘘はなく、半月後、わたしはどうにか修了の免状をもらえた。
推薦状までくれという気はなかった。
…………
「そういうことだったのですか」
大野龍臣は感情を押し殺した声でそういった。
「そうです。いったはずでしょう。面白い話ではないと」
わたしはウォッカをひとすすりした。舌の上でアルコールの味をゆっくりと味わう。これで最後となるかもしれないのだ。このくらいしてもバチは当たるまい。
「わたしがもうちょっと利口であれば、あるいはもうちょっと強ければ、登志子さんは気が狂わずにすんだ。誰が見ても明白です。あの悪夢には、精神安定剤で対処したほうがまだよかったかもしれない。こんなバカなナイトメア・ハンターがしゃしゃり出てくるよりはずっと」
大野龍臣は、わたしをじっと見た。わたしも大野龍臣をじっと見た。
二人の間に、沈黙が訪れた。
先に沈黙を破ったのはわたしのほうだった。
「どうしたんですか? わたしはあなたのお孫さんを殺したも同然です。わたしをどうするのもあなたの自由です。さっきの余目とかいう人を呼んだらどうです?」
「まだ、わたしは先生のお話を全部うかがってはいませんので」
「どういうことです? 話はあれで終わりですよ」
暗がりの中で、首が横に振られるのがぼんやりと見えた。
「いいえ。先生は、森村探偵事務所に行かれた。なにをなさりに行かれたのです?」
わたしはウォッカの最後の一滴を飲み干した。
「わたしを調べたというのは本当のようですね」
「真実を知るためです」
真実か……。
…………
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ですかあ…?
ホントいいところで終わりますねえ。
子供の頃、毎日紙芝居のオジサンが来るのを楽しみにしていた…その気分を思い出しています。
このお話自体はそんな呑気なものではないですが…。
ホントいいところで終わりますねえ。
子供の頃、毎日紙芝居のオジサンが来るのを楽しみにしていた…その気分を思い出しています。
このお話自体はそんな呑気なものではないですが…。
- #5972 有村司
- URL
- 2011.11/27 09:39
- ▲EntryTop
>佐槻勇斗さん
こんばんはであります。
ネタバレになりますが、この探偵事務所の所員たちは今後重要な登場人物になります。
いると便利なもので(爆)。
こんばんはであります。
ネタバレになりますが、この探偵事務所の所員たちは今後重要な登場人物になります。
いると便利なもので(爆)。
いつもいいところで終わりますね~ヽ( ̄∇ ̄)
こんばんは、佐槻です。
桐野先生はいったい探偵事務所になにをしに行ったのでしょう。登志子の夢に関係があるのでしょうか??
気になりますなぁ、、
また読みに来ますね☆それでは。
こんばんは、佐槻です。
桐野先生はいったい探偵事務所になにをしに行ったのでしょう。登志子の夢に関係があるのでしょうか??
気になりますなぁ、、
また読みに来ますね☆それでは。
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Re: 有村司さん
今はとんと見ませんねえ。幼稚園の頃は先生がやってくれるそれが大好きでしたけど。
これから事態はさらに陰鬱になっていきますのでご覚悟を(^^) 面白さは保証いたしますが(^^)