「範子と文子の驚異の高校生活(ギャグ掌編小説シリーズ・完結)」
    範子と文子の三十分一本勝負(ギャグ掌編小説シリーズ・完結)

    範子と文子の三十分一本勝負:FIGHT・13

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    「ねえ文子」
    「なあに、範ちゃん?」
     範子は、いつになく真剣な表情でいった。
    「……わたしたち、なんで学校に来ているわけ?」
    「そういえば……」
     文子はきょろきょろと周りを見回した。
    「誰もいないね……」
    「それはそうよ」
     範子は強い調子で断言した。
    「だって今日は、日曜日だもの!」
    「日曜日だよねえ、範ちゃん」
    「まったくもう、日曜日だっていうのに、なんでわたしたちはこうして真面目に学校なんかに来ているわけ?」
     範子は指折り数えた。
    「よく考えたら、わたしたちは、五月の連休中も、毎日毎日毎日毎日学校に通っていたわよね」
    「範ちゃん、あまり根詰めて考えすぎると身体に毒だよ」
    「とにかくっ!」
     範子は、バン、と机を平手で叩いた。
    「わたしは断固、このような学生を学生とも思わない措置に立ち向かうものである!」
    「おー」
     文子はぱちぱちと拍手した。その音は、無人の教室内にふわふわと漂った。
    「でも範ちゃん、いったいどこに立ち向かうの?」
    「どこって?」
     範子は困惑しているようだった。
    「文部省? 学校? 日本政府? 神? 敵によって、それなりに戦いかたも違ってくるよ」
    「そういえば……」
     範子は額を押さえた。
    「ねえ文子、わたしたちが今通っている学校って、なに?」
     文子は教室内をなめるように見回した。
    「順当だったら、紅恵高校なんだろうけど……決め手がないね、範ちゃん。学校がなんなのかを示すようなものは、ことごとく注意深く取り外されている」
    「そんなことは聞いてないわよ! 記憶ではどうなの?」
    「……わからないよ、わたしにも。範ちゃん、範ちゃんだってそうでしょう?」
     押し黙る範子。まさにその通りだった。
    「でも、それにしても……自分が通っている学校すらわからないなんて……」
     範子は自分の身体を見た。
    「わかっているのは、わたしは人間の、宇奈月範子で、十七歳女子。血液型は……何型だったっけ?」
    「覚えていないよ、範ちゃん。だって、わたしだって、わからないもん。血液型も、なにもかも」
    「これは異様な事態よ……」
     範子は額に汗を浮かべていった。
    「わたしたちは、自分が何者なのだかよく知っている。しかし、それについての知識は限定されたものでしかない!」
    「まるで、小説の登場人物が、自分について設定されていないことについて本当に知っているのかいないのかわからないように、ね」
     文子も顔色をわずかながら蒼くしていた。
    「わたしたちは、なんの意味もなく、この教室ごと、無の只中へ投げ出されてしまっているんじゃないかしら」
    「実存主義の『投企』というやつ? やめてよ、文子、そんな気味の悪いこといわないで」
    「ごめん、範ちゃん」
    「でも、これで敵の見当がついたわ。わたしたちが戦う相手は、『作者』よ!」
    「『作者』?」
    「この世界を作ったやつよ。それも悪意を持ってこの世界を作ったやつ。それに対して、わたしたちは戦いを挑まなくちゃいけないのよ!」
    「戦って勝てる相手なの、範ちゃん? だって、範ちゃんの言葉が正しければ、それって、『神様』ってことでしょう?」
    「神様でも、デミウルゴスってやつよ。この世界を失敗したように作ってしまった愚かな造物主。グノーシス主義に出てくるわ」
     範子は、頭を強く叩いた。
    「……なんで! なんでわたしは、こんなことを知っているの!」
    「範ちゃん……」
     範子は、文子の肩をつかんだ。
    「文子、一緒に考えてくれない? どうやれば、造物主に勝てると思う? 自分のいいようにわたしたちをすら操ることのできる造物主に」
    「そうね……」
     文子は考えた。
    「範ちゃん、小説を書いたことある?」
    「……いえ。ほとんどないけど」
    「聞いた話じゃね、登場人物が、作者の手を離れて、勝手なことをはじめてしまう例ってけっこうあるんだって。それに従って、小説のストーリーからなにから変えなくちゃならなくなった例もそうとうあるみたい」
    「……だから?」
     文子は、範子の腕を自分の肩からほどき、その手のひらを握った。
    「だから、範ちゃんが、幸せなように、生き生きと動けば、じきに作者のほうも態度を変えてくれるんじゃないかなあ」
    「態度を変える……」
    「そもそも、『作者』って、わたしたちに害意ばかり抱いているのかなあ? 範ちゃん、生きていて、この教室に来ていて、幸せ?」
    「え……そりゃあ」
     文子の顔と向き合って、なぜか赤面して下を向く範子だった。
    「じゃあ、範ちゃんが、ここで幸せにしていれば、それで万々歳じゃない? プラス思考だよ、範ちゃん。ここにこうして教室へいるだけでも、それだけでもいいじゃない!」
    「そう……かしら?」
     範子は自分の手を握っている文子の手を、自分からも力を込めて握り返した。
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    ~ Comment ~

    Re: ひゃくさん

    もっとも今の流行りは「百姓と自キャラは搾れば搾るほど取れる」らしいでありますな。いろいろな意味でとほほ(^^;)

    NoTitle

    > 「百姓と自キャラは、生かさず、殺さず」と佐藤栄作元総理もおっしゃって(いない)。

    あ、それ、名言かも!(笑)

    Re: ひゃくさん

    「百姓と自キャラは、生かさず、殺さず」と佐藤栄作元総理もおっしゃって(いない)。

    NoTitle

    > そもそも、『作者』って、わたしたちに害意ばかり抱いているのかなあ? 

    そおかなあ?(笑)

    Re: fateさん

    「作者対登場人物」では、いちばん先鋭的だったのは、筒井康隆「エディプスの恋人」でしょうね。もちろん、このショートショートはそれを念頭に置いています。

    いまから考えると、旧約聖書ヨブ記は、史上初の、「登場人物対作者」の実験小説だったのかもしれません。そんなこというと知人のクリスチャンから怒られそうなので広言はしませんが……。

    わたしたちが戦う相手は、『作者』よ!

    ↑ぎゃあああああああっ
    fateの人物が、それに気づかないでくれることを祈るのみ~~~

    まぁ、ポールさんなら、大丈夫であろう。

    >登場人物が、作者の手を離れて、勝手なことをはじめてしまう例ってけっこうあるんだって

    ↑っていうか、これはいつもなので、fateは今更特に驚かない。いやいやいや、むしろ、そうしてくれないと世界が展開出来んし。
    物語を綴るのはfateでも、それは人物の後を追っているだけなので~(^^;

    この二人、なんだかんだで微笑ましい。
    フフフフ。

    Re: 神田夏美さん

    この回は書いているうちにあれよあれよという間にメタフィクションになってしまいました(^^;)
    この2人組暴れすぎ(^^;)

    「神無月の巫女」は、まあ無理して見ることもないような深夜向けテレビアニメですが、ハマる人はことんハマってしまうアニメでもあります。
    わたしはDVDで見てハマりました(^^)

    自動的に校正してくれる機械としては、ワードのあの機能がありますが、使い物にはぜんぜんならないのがつらいところ。
    そういえば、東野圭吾先生の小説に、本を入れると勝手に書評記事を書いてくれる「ショヒョックス」なる機械が発明され、「ショヒョックス」にウケる小説を自動的に書いてくれる「ショヒョックス・キラー」なる作品が発明され、読者は読者で自前のショヒョックスを購入して、それに作品を読み込ませることで「読んだ気」になり、人間は誰一人として純粋な意味で「本」なんか読まなくなる、という社会風刺ギャグ短編小説がありましたが(「超・殺人事件」収録)、わたしも売れる小説を勝手に書いてくれる機械が欲しいものであります。(^^;)

    NoTitle

    文子ちゃん、ポジティブシンキングでいいですね~♪途中どうなるのかと思いきや、ラストでは心が温かくなりました^^

    神無月の巫女は、ニコ動でOP曲だけ聞いたことがあり、そのイラストやおもしろいタグ(カワイソーマだとか)で以前から興味があったので、いつか観てみたいものです。どこかで観れないかなあ(←DVDを借りる金もないらしい)

    校正は難しいです。私の原稿はいつもちゃんと見直したつもりでも次から次へと誤字脱字が現れますです……OTL
    自動的に校正してくれる機械でもあればいいんですけどね~。あっても高そうで買えないですが(笑)
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