「範子と文子の驚異の高校生活(ギャグ掌編小説シリーズ・完結)」
範子と文子の三十分一本勝負(ギャグ掌編小説シリーズ・完結)
範子と文子の三十分一本勝負:FIGHT・16
よく晴れた放課後の教室。
「魔法って信じる?」
範子の問いに、文子は疲れた様子でうなずいた。
「もう、なんでも信じるよ、範ちゃん。木の葉が沈んで石が泳ぐのだって信じる。そんな気分だよ」
「いや、そういうことじゃなくって。わたしたちが、魔法を使うこともできるんじゃないかってことよ」
「わたしたちが? 魔法を?」
文子はいかにもうさんくさげな話だ、とでもいうかのように範子を見た。
「どこからそんなことを思いついたの、範ちゃん? また範ちゃんのもうそ……ひらめき?」
「妄想でいいわよ、妄想で」
範子はちょっと傷ついたようだった。
「思いついたのは、ちょっと、物理学の本を読んだことがきっかけよ」
「物理学?」
文子は首をひねった。魔法とは、正反対の学問のような気がしたからだ。
「物理学っていうと?」
「バタフライ効果」
「聞いたことあるような気がするけど、なんだったっけ、それ?」
文子は思い出そうとした。
「えーと、えーと、ああ、カオス理論にあったあれね。高度に複雑化した、たとえば地球規模の気象のような状況では、遠く離れたヨーロッパでの蝶のはばたきが、さまざまな要因と折り重なって、つぎつぎとドミノ倒しみたいに影響を与えていき、最後には南米のアマゾンに大洪水をもたらすことも否定できない、という理論」
「そういうことよ」
「それが、どうして魔法と……」
いいかけた文子は、ふいにぴんときた。
「ちょ、ちょっと、だいたいわかるような気がするけど、範ちゃん、それってアイデアを通り越してトンデモだよ!」
「トンデモとは失礼ね。……でもまあトンデモみたいなものか」
範子は真面目な表情で文子に向かった。
「もし、この理論が正しければ、わたしたち人間も、『正しい時間と状況において身体を動作させることができれば、バタフライ効果の蝶のように、様々な要因の連鎖の引き金となって、想像もつかないことを起こせる』ということになるんじゃない?」
「うわあ、トンデモだあ……」
「魔法っていうのは、その力を人が名付けたのがはじまりに違いないわ。さあ、見ていて、文子!」
範子はなにか、違うものが乗り移ったかのような厳粛な顔つきで、両腕を開いた。
目を閉じて空気を読む。
しばしの沈黙。文子はその、範子のただならぬ雰囲気の前にごくりと唾を飲み込んだ。
範子の目が、くわっと見開かれた。
「嵐よ起これ!」
手が、はげしく打ち合わされ、大きな「パシッ」という音が、教室に響き渡った。
「…………」
文子は動けなかった。
十秒……二十秒……三十秒……。
教室は沈黙に覆われた。
四十秒目、二人ははじかれたように、いっせいに笑い出した。
「範ちゃん、冗談がひどすぎるよお。あそこまで真面目にやることもないじゃない!」
「……ご、ごめん、文子。でも、こういうのは真面目にやったほうが面白いじゃない」
文子は窓の外の空を指差した。
「あんなことで、天候が変わったら、世の中苦労は……」
いきなり、雲が湧き出した。
「え……?」
さっきまで晴れていたはずなのに、二十秒もしないうちに空は真っ暗になった。
呆然と見ている二人の前で、雨のしずくがぽつり、ぽつりと窓に当たり始め、そしてあっという間に一面の土砂降りとなった。
顔をこわばらせ、文子は範子を見た。
「範ちゃん、雨だよ」
範子はかくかくとうなずいた。
風が強くなってきた。風圧を受けて窓ガラスがびりびりとうなり出す。
「範ちゃん、嵐だよ」
範子は血の気のない顔で再びかくかくとうなずいた。
「範ちゃん……わたし、どうやって帰ろう」
「責任は取るわ」
範子は目をつぶり、空気を読んだ。
「晴れろ!」
手を打ち鳴らす。
文子はいくばくかの期待を込めて外を見た。
気象庁を困惑どころか驚愕させる季節はずれの突発性の大嵐の中、学校に取り残された生徒たちが自衛隊に救出されたのは三日後のことであったそうである。
「魔法って信じる?」
範子の問いに、文子は疲れた様子でうなずいた。
「もう、なんでも信じるよ、範ちゃん。木の葉が沈んで石が泳ぐのだって信じる。そんな気分だよ」
「いや、そういうことじゃなくって。わたしたちが、魔法を使うこともできるんじゃないかってことよ」
「わたしたちが? 魔法を?」
文子はいかにもうさんくさげな話だ、とでもいうかのように範子を見た。
「どこからそんなことを思いついたの、範ちゃん? また範ちゃんのもうそ……ひらめき?」
「妄想でいいわよ、妄想で」
範子はちょっと傷ついたようだった。
「思いついたのは、ちょっと、物理学の本を読んだことがきっかけよ」
「物理学?」
文子は首をひねった。魔法とは、正反対の学問のような気がしたからだ。
「物理学っていうと?」
「バタフライ効果」
「聞いたことあるような気がするけど、なんだったっけ、それ?」
文子は思い出そうとした。
「えーと、えーと、ああ、カオス理論にあったあれね。高度に複雑化した、たとえば地球規模の気象のような状況では、遠く離れたヨーロッパでの蝶のはばたきが、さまざまな要因と折り重なって、つぎつぎとドミノ倒しみたいに影響を与えていき、最後には南米のアマゾンに大洪水をもたらすことも否定できない、という理論」
「そういうことよ」
「それが、どうして魔法と……」
いいかけた文子は、ふいにぴんときた。
「ちょ、ちょっと、だいたいわかるような気がするけど、範ちゃん、それってアイデアを通り越してトンデモだよ!」
「トンデモとは失礼ね。……でもまあトンデモみたいなものか」
範子は真面目な表情で文子に向かった。
「もし、この理論が正しければ、わたしたち人間も、『正しい時間と状況において身体を動作させることができれば、バタフライ効果の蝶のように、様々な要因の連鎖の引き金となって、想像もつかないことを起こせる』ということになるんじゃない?」
「うわあ、トンデモだあ……」
「魔法っていうのは、その力を人が名付けたのがはじまりに違いないわ。さあ、見ていて、文子!」
範子はなにか、違うものが乗り移ったかのような厳粛な顔つきで、両腕を開いた。
目を閉じて空気を読む。
しばしの沈黙。文子はその、範子のただならぬ雰囲気の前にごくりと唾を飲み込んだ。
範子の目が、くわっと見開かれた。
「嵐よ起これ!」
手が、はげしく打ち合わされ、大きな「パシッ」という音が、教室に響き渡った。
「…………」
文子は動けなかった。
十秒……二十秒……三十秒……。
教室は沈黙に覆われた。
四十秒目、二人ははじかれたように、いっせいに笑い出した。
「範ちゃん、冗談がひどすぎるよお。あそこまで真面目にやることもないじゃない!」
「……ご、ごめん、文子。でも、こういうのは真面目にやったほうが面白いじゃない」
文子は窓の外の空を指差した。
「あんなことで、天候が変わったら、世の中苦労は……」
いきなり、雲が湧き出した。
「え……?」
さっきまで晴れていたはずなのに、二十秒もしないうちに空は真っ暗になった。
呆然と見ている二人の前で、雨のしずくがぽつり、ぽつりと窓に当たり始め、そしてあっという間に一面の土砂降りとなった。
顔をこわばらせ、文子は範子を見た。
「範ちゃん、雨だよ」
範子はかくかくとうなずいた。
風が強くなってきた。風圧を受けて窓ガラスがびりびりとうなり出す。
「範ちゃん、嵐だよ」
範子は血の気のない顔で再びかくかくとうなずいた。
「範ちゃん……わたし、どうやって帰ろう」
「責任は取るわ」
範子は目をつぶり、空気を読んだ。
「晴れろ!」
手を打ち鳴らす。
文子はいくばくかの期待を込めて外を見た。
気象庁を困惑どころか驚愕させる季節はずれの突発性の大嵐の中、学校に取り残された生徒たちが自衛隊に救出されたのは三日後のことであったそうである。
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NoTitle
> 三日後のことであったそうである。
あったのはうそであるって、読んじゃって、なんじゃそのオチ?とか思っちゃいました。
スミマセン(爆)
あったのはうそであるって、読んじゃって、なんじゃそのオチ?とか思っちゃいました。
スミマセン(爆)
- #17609 ひゃく
- URL
- 2016.08/14 17:41
- ▲EntryTop
Re: 神田夏美さん
笑っていただいてありがたいです。
ギャグ小説というのはすべったときのことを考えると怖い。
ついでに、今日これからメールボックスを開けるのも怖いです(^^;)
ギャグ小説というのはすべったときのことを考えると怖い。
ついでに、今日これからメールボックスを開けるのも怖いです(^^;)
NoTitle
今回、最初と最後でかなり笑いました。「もうそ……ひらめき?」が何だかツボに入ってしまって^^
ちょっと傷づいた範子ちゃんが可愛いです^^
あ、ラブコメファンタジーの感想をメール致しましたので、ご確認ください~
ちょっと傷づいた範子ちゃんが可愛いです^^
あ、ラブコメファンタジーの感想をメール致しましたので、ご確認ください~
Re: ネミエルさん
紳士淑女たるもの、常にバタフライ効果のことまで考えて、一挙手一投足にまで気を配らねばならんッ!(無理)
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Re: ひゃくさん