「範子と文子の驚異の高校生活(ギャグ掌編小説シリーズ・完結)」
    範子と文子の三十分一本勝負(ギャグ掌編小説シリーズ・完結)

    範子と文子の三十分一本勝負:FIGHT・17

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    「あやこー、いい眺めよー」
     いつもの教室、いつもの放課後。
     窓から外を眺めている範子をよそに、文子は考えていた。
    「範ちゃん、あのさ」
    「どうしたの、文子?」
    「わたしたち、今も嵐の中で学校に閉じ込められているはずだよね」
     深刻な顔をしている文子に、範子は振り向くと笑顔を見せた。
    「なんだ、そんなことで悩んでいたの」
    「どうして今もこの教室で普通に授業を受けて平和な放課後を迎えているの……?」
    「それはね文子」
     範子は急に真面目な口調になった。
    「多元宇宙よ」
    「多元宇宙?」
    「そう。パラレルワールド」
    「パラレルワールドっていったって、世の中にやっていいことと悪いことがあるんじゃ……」
    「いいのよ。パラレルワールドっていいさえすれば、後は世の中なあなあでやっていけるのよ」
    「そういうものなの、範ちゃん?」
    「そういうものよ」
     範子は余裕たっぷりにうなずいた。
    「じゃあ、わたしたちはなんなの? これまで生きてきたのとは、まったくの別人なわけ?」
    「それはね文子。わたしたちは、遍在しているのよ」
    「遍在?」
    「そう。無限の数のパラレルワールドにまたがって、遍在しているの。だからこうして、ほかのパラレルワールドの記憶があったっておかしくないのよ」
    「おかしいと思うけど……」
    「文子、そんなことより、いい眺めよ。ほらごらんなさいよ」
     文子はそういわれて席から窓の外を見た。どうということもない、普通の青空だった。
    「いい眺めって、普通の空と校庭だよ、範ちゃん。あまり面白くはないと思うよ」
     ……不審そうに文子は答えたが、すぐに、範子が見ているのが窓の下方、校庭のほうだということに気づいた。
    「範ちゃん、いったい、なにを見ているの?」
     ゆっくりと窓の近くまでやってきて、範子が見ている下方を見た文子は、驚愕のあまりしりもちをついた。
    「な……な……なんなの、これ、範ちゃん!」
     文子が見たものは、学校ぎりぎりに走る、地割れだった。
     地割れの中は一見したところ、暗くて何も見えないようだったが……。
    「大いなる深淵よ」
     範子はおごそかにいった。
    「大いなる深淵?」
    「ほら、ニーチェにあるでしょう。『深淵をのぞくものは心せよ』って」
    「だって、あれはたとえ話でしょう……って、よしてよ範ちゃん! そんなところばかりのぞいていると、ほんとに範ちゃんも獣になっちゃうよ!」
    「大丈夫よ、節度をもってのぞいているから」
    「大丈夫とは思えないんだけどなあ……」
     文子は、こわごわその『深淵』とやらをのぞいた。
     その奥に広がっていたのは、暗闇は暗闇でも、まったくの『虚無』だった。文子は自分の魂が、その虚無に吸い込まれ、墜ちていくかのような錯覚を覚えていた。
    「ご、ごめん、範ちゃん、わたしパス。こ、高所恐怖症で」
    「文子って高所恐怖症だったっけ?」
     範子は首をひねった。
    「まあいいわ。それじゃ、文子、道具を貸してあげるから、いっしょにあれをやらない?」
    「あれ……?」
     範子は教室の隅に行って、長いバッグを取り出した。
    「よいしょ、と」
     範子はバッグを開けると、てきぱきと、釣竿と糸と針を取り出した。
     文子は呆然と見つめていた。
    「じゃじゃーん」
     竿を窓の外に突き出すと、範子は糸を深淵へと垂れ始めた。
    「楽しいから、文子もやってみなさいよ」
    「……の、範ちゃん、それって、いったい、なにが釣れるの?」
    「釣ってみてのお楽しみだよ」
     そういったかいわないかのうちに、竿がぴくぴくと動き始めた。
    「かかったわ! 文子、力を貸して! 糸を切られる!」
     文子は範子の背中に回って、一緒に竿を力いっぱい握りながら訊ねた。
    「範ちゃん、これって……」
    「これから楽しい、コズミック・ホラーが始まるのよ! さあ、引いて、文子!」
     範子はリールを回した。
     窓の外で、虚無の深淵から釣り上げられた「なにか」が宙を舞った。
     ひと目見て、文子は悲鳴を上げた……。
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    ~ Comment ~

    Re: ひゃくさん

    克明に描写すればするほど、そのモンスターがなんなのかにかかわらず、恐怖が矮小化されてしまう、という側面が実際にあります。

    スピルバーグが「ジョーズ」を撮る時、サメの身体を終盤まで徹底的に隠しに隠して観客の想像に委ね、「サメが人を襲う」というだけの映画をホラーの記念碑的傑作にしたのと同じ理屈ですな。怪談を書く上でも重要なポイントです。

    「朦朧法」はさらにそれを徹底し、「いったい小説で何が起こったのか」すら読者に判然とさせないで恐怖をあおる方法論。うまい人がやるとマジで怖いです(^^;)

    NoTitle

    > 「朦朧法」といいまして、ホラーを書くときに重要になってくる手法をですね

    だから、そこを軽々と越えてみせるのが、ブリッツさんのブリッツさんたるとこなんじゃないかと(笑)

    …と、一方的にハードルを上げちゃう、と(爆)

    Re: ひゃくさん

    「朦朧法」といいまして、ホラーを書くときに重要になってくる手法をですね(←ほんとか?(^_^;))

    NoTitle

    > 「いいのよ。パラレルワールドっていいさえすれば、後は世の中なあなあでやっていけるのよ」

    確かに、世の中(あと、漫画とか、アニメとか、小説、ドラマとか…www)そんなとこ、ありますよね(爆)

    ていうか、これはよかったなー。
    うん。好き!
    ただ、惜しむらくは、ラストが曖昧なのはなー。
    そこは、ポール・ブリッツ氏。
    なんか、このパターンのお話とはちょっと違う展開をやって欲しかったなーって(笑) 

    Re: 神田夏美さん

    ギャグ小説ですから、なんでもありにしないとネタが尽きてしまうのであります(^^)

    ただでさえ舞台は教室、登場人物はふたりというしばりをかけてやっているので(もちろんこのしばりから外れるときもあります)、毎日シチュエーションを変えるのがたいへんなのであります(^^)
    とりあえず100話まではこのふたりでやります。セリフのある新キャラが出るとしたら新シリーズででしょうねえ。

    例の夫妻の大バカな夫婦生活についてはまったく筆が前進してくれないであります。どうしよう(汗)

    NoTitle

    一体何が釣れたのかとても気になる終わり方ですね(笑)
    それにしてもパラレルワールドとは……範ちゃんと文ちゃんはもう本当になんでもありですね(笑)
    この無茶苦茶っぷりが面白くて好きです(笑)

    Re: ネミエルさん

    いや小さいのかもしれませんよ。

    それが群をなして釣り糸にびっしり。

    想像しちまって吐きたくなった(笑)

    Re: 佐槻勇斗さん

    海から釣り上げられた生き物でいちばんグロかったのは、昔のアニメ「伝説巨神イデオン」での海の星の回で、うっかり釣り糸を垂れてしまったソロシップのクルーの目の前に現れたやつですね。未だにトラウマ(^^)

    Re: れもんさん

    高いところが好きな人っていますよね。

    わたしも子供のころはデパートの屋上から下を見下ろすのが大好きでした。

    今はあまり高いところには昇りませんねえ。


    この話は、海からやってきた「なにか」に、観光客の大群が「釣られ」て海に引きずりこまれてしまう、という怪奇小説を思い出して書きました。あれはぞっとしたなあ。

    NoTitle

    何がつれたんだろう。
    意外とデカイものだったりして・・・

    NoTitle

    うわぁ……なにが釣れたんだろσ(^ω^;)
    想像するとどこまでもグロイのを思い浮かべてしまいそうなので止めておきます苦笑

    NoTitle

    なにが釣れたんですか・・!??
    コズミック・ホラー・・・;
    うわ、気になりますよ

    高所恐怖症。私は高い所が大好きです★
    高い所にいると飛び降りてみたい謎の気持ちに襲われます(え)大丈夫です、気持ちだけです(爆)
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