「範子と文子の驚異の高校生活(ギャグ掌編小説シリーズ・完結)」
範子と文子の三十分一本勝負(ギャグ掌編小説シリーズ・完結)
範子と文子の三十分一本勝負:FIGHT・19
「文子」
「なあに? 範ちゃん?」
「今何時?」
文子はふわりと宙に浮かびながら、時計を見た。
「四時になったところだよ」
「そう」
範子もぷかぷかと宙に浮かびながら答えた。
「あと三十分というところね」
範子は、紅恵高校の制服を着たまま、壁を蹴ると、軽くくるりと宙を一回転した。
「身体が軽いわね……」
「そりゃそうだよ、範ちゃん、無重力だもん」
文子はちょっと身体をうまく動かすのに慣れていないようだった。
教室の窓の外は一面の星空だった。
「星がきれいね、文子」
「そうだね、範ちゃん」
教室には、机も椅子も、動かせるものはなにひとつなかった。もしもあったとしたら、それは教室中を飛び回る、物騒きわまるものになっていたに違いない。重量と質量の違いを体感するのは、範子も文子もいやだった。
「ねえ、文子?」
「なに、範ちゃん?」
足の磁力靴をオンにして壁に張りついた範子は、そのままふわふわと飛んでいる文子のそばにやってくると、その身体をつかまえて、自分と同じ地点に立たせてやった。
文子も素早く磁力靴をオンにする。
「わたしって、文子のいい友達だった?」
「もちろんだよ、範ちゃん!」
二人の少女は、壁に座りこむと、窓の外を見ながら肩を寄せ合った。
「わたしね……」
範子はちょっと口ごもったが、続けた。
「文子と、友達以上の関係になりたかったんだ……。わたし、淋しかったのかもしれない。心のどこかで。でも、周りに、友達以上の関係になれそうな人っていったら、文子しかいなかったんだ」
「範ちゃん……」
「わたし、文子に甘えていたのかな?」
範子は文子に笑いかけた。文子はその笑顔に、笑顔で答えた。
「ううん、そんなことないよ、そんなことないと思うよ、範ちゃん。むしろ、甘えていたのは、わたしのほうだよ。範ちゃんがわたしに対して向けてくれた、ものすごい好意を、それがいつまでも続くと思い込んで、お返しをすることもなく今日までなにもせず来たんだから、むしろ、叱られるのは、わたしのほうだよ」
「星は嘘をつかないわね、文子」
「うん」
範子は、星のひとつを指差した。
「わたしね、あの星に誓えるわ。文子が大好きだって。生まれ変わっても、文子と友達でいるって」
文子も、範子に指を重ねた。
「じゃあ、わたしはあの星。範ちゃんが誓った星の、すぐ下で輝いている星。いいでしょ、範ちゃん?」
「いいわよ……今何時?」
文子はまた、時計を見た。
「四時二十二分。あと、八分と少しだね」
「そうね」
範子は、文子にしがみついたまま、磁力靴のスイッチを切った。
「文子、あなたも靴を切ってくれない」
文子はその言葉に、靴のスイッチを切った。二人の身体は、ふわりと浮かび上がった。
二人はしっかりと手を結んでひとつになったまま、最後の言葉を交わした。
「惑星地表到達……激突まであと五分。文子、自由落下によるこの偽りの無重力もすぐに終わるわ」
「うん」
「最後の瞬間まで、わたし、飛んでいたい。文子と一緒に、飛んでいたい」
範子が伸ばした手を、文子はしっかりと握り、自分のほうへと引き寄せた。
範子と文子は、お互いの身体をしっかりと抱き締め合い、最後の瞬間を待った……。
「範ちゃん……」
「文子……」
それで?
それでどうなったかって?
どうにもなるわけないじゃないか。
このシリーズを始めてから、まだ二十日も経っていないんだぞ。
殺したら話が終わってしまうではないか。
まだまだ話は延々と続く。投げっぱなしエンドでも!
「なあに? 範ちゃん?」
「今何時?」
文子はふわりと宙に浮かびながら、時計を見た。
「四時になったところだよ」
「そう」
範子もぷかぷかと宙に浮かびながら答えた。
「あと三十分というところね」
範子は、紅恵高校の制服を着たまま、壁を蹴ると、軽くくるりと宙を一回転した。
「身体が軽いわね……」
「そりゃそうだよ、範ちゃん、無重力だもん」
文子はちょっと身体をうまく動かすのに慣れていないようだった。
教室の窓の外は一面の星空だった。
「星がきれいね、文子」
「そうだね、範ちゃん」
教室には、机も椅子も、動かせるものはなにひとつなかった。もしもあったとしたら、それは教室中を飛び回る、物騒きわまるものになっていたに違いない。重量と質量の違いを体感するのは、範子も文子もいやだった。
「ねえ、文子?」
「なに、範ちゃん?」
足の磁力靴をオンにして壁に張りついた範子は、そのままふわふわと飛んでいる文子のそばにやってくると、その身体をつかまえて、自分と同じ地点に立たせてやった。
文子も素早く磁力靴をオンにする。
「わたしって、文子のいい友達だった?」
「もちろんだよ、範ちゃん!」
二人の少女は、壁に座りこむと、窓の外を見ながら肩を寄せ合った。
「わたしね……」
範子はちょっと口ごもったが、続けた。
「文子と、友達以上の関係になりたかったんだ……。わたし、淋しかったのかもしれない。心のどこかで。でも、周りに、友達以上の関係になれそうな人っていったら、文子しかいなかったんだ」
「範ちゃん……」
「わたし、文子に甘えていたのかな?」
範子は文子に笑いかけた。文子はその笑顔に、笑顔で答えた。
「ううん、そんなことないよ、そんなことないと思うよ、範ちゃん。むしろ、甘えていたのは、わたしのほうだよ。範ちゃんがわたしに対して向けてくれた、ものすごい好意を、それがいつまでも続くと思い込んで、お返しをすることもなく今日までなにもせず来たんだから、むしろ、叱られるのは、わたしのほうだよ」
「星は嘘をつかないわね、文子」
「うん」
範子は、星のひとつを指差した。
「わたしね、あの星に誓えるわ。文子が大好きだって。生まれ変わっても、文子と友達でいるって」
文子も、範子に指を重ねた。
「じゃあ、わたしはあの星。範ちゃんが誓った星の、すぐ下で輝いている星。いいでしょ、範ちゃん?」
「いいわよ……今何時?」
文子はまた、時計を見た。
「四時二十二分。あと、八分と少しだね」
「そうね」
範子は、文子にしがみついたまま、磁力靴のスイッチを切った。
「文子、あなたも靴を切ってくれない」
文子はその言葉に、靴のスイッチを切った。二人の身体は、ふわりと浮かび上がった。
二人はしっかりと手を結んでひとつになったまま、最後の言葉を交わした。
「惑星地表到達……激突まであと五分。文子、自由落下によるこの偽りの無重力もすぐに終わるわ」
「うん」
「最後の瞬間まで、わたし、飛んでいたい。文子と一緒に、飛んでいたい」
範子が伸ばした手を、文子はしっかりと握り、自分のほうへと引き寄せた。
範子と文子は、お互いの身体をしっかりと抱き締め合い、最後の瞬間を待った……。
「範ちゃん……」
「文子……」
それで?
それでどうなったかって?
どうにもなるわけないじゃないか。
このシリーズを始めてから、まだ二十日も経っていないんだぞ。
殺したら話が終わってしまうではないか。
まだまだ話は延々と続く。投げっぱなしエンドでも!
- 関連記事
-
- 範子と文子の三十分一本勝負:FIGHT・20
- 範子と文子の三十分一本勝負:FIGHT・19
- 範子と文子の三十分一本勝負:FIGHT・18
スポンサーサイト
もくじ
風渡涼一退魔行

もくじ
はじめにお読みください

もくじ
ゲーマー!(長編小説・連載中)

もくじ
5 死霊術師の瞳(連載中)

もくじ
鋼鉄少女伝説

もくじ
ホームズ・パロディ

もくじ
ミステリ・パロディ

もくじ
昔話シリーズ(掌編)

もくじ
カミラ&ヒース緊急治療院

もくじ
未分類

もくじ
リンク先紹介

もくじ
いただきもの

もくじ
ささげもの

もくじ
その他いろいろ

もくじ
自炊日記(ノンフィクション)

もくじ
SF狂歌

もくじ
ウォーゲーム歴史秘話

もくじ
ノイズ(連作ショートショート)

もくじ
不快(壊れた文章)

もくじ
映画の感想

もくじ
旅路より(掌編シリーズ)

もくじ
エンペドクレスかく語りき

もくじ
家(

もくじ
家(長編ホラー小説・不定期連載)

もくじ
懇願

もくじ
私家版 悪魔の手帖

もくじ
紅恵美と語るおすすめの本

もくじ
TRPG奮戦記

もくじ
焼肉屋ジョニィ

もくじ
睡眠時無呼吸日記

もくじ
ご意見など

もくじ
おすすめ小説

もくじ
X氏の日常

もくじ
読書日記

~ Comment ~
NoTitle
> 殺したら話が終わってしまうではないか。
いいじゃん。
科学の力でとか、神さまとかがとか、まぁとにかく生き返らせちゃえば(笑)
ていうか、そういうお話でしょ?(笑)
いいじゃん。
科学の力でとか、神さまとかがとか、まぁとにかく生き返らせちゃえば(笑)
ていうか、そういうお話でしょ?(笑)
- #17612 ひゃく
- URL
- 2016.08/14 17:53
- ▲EntryTop
Re: 神田夏美さん
さすがにしばらくの間は看板娘をやってもらおうと思っているのに、こんな初期段階であの世に行ってもらうわけにはいかん。
とりあえず、100話でひと区切りつけたら、後はこの娘らは月イチ更新にしようと思っています。さすがにハイテンションで毎日は疲れる。
九月からは、1日3枚、120回予定でどシリアスなファンタジーを展開する予定です。短剣がひらめき、血がしぶき、人がバタバタ死に、街が吹雪と業火に包まれます。
あくまで予定ですので、気が変わればおバカ小説になるかもしれません。(なんだその落差は)
とりあえず、100話でひと区切りつけたら、後はこの娘らは月イチ更新にしようと思っています。さすがにハイテンションで毎日は疲れる。
九月からは、1日3枚、120回予定でどシリアスなファンタジーを展開する予定です。短剣がひらめき、血がしぶき、人がバタバタ死に、街が吹雪と業火に包まれます。
あくまで予定ですので、気が変わればおバカ小説になるかもしれません。(なんだその落差は)
NoTitle
なんだかいい雰囲気、最終回の空気ときて、このオチ(笑)
いつもこのシリーズのオチには驚かされたり笑わせてもらったりしています^^
文子ちゃんと範子ちゃんのはちゃめちゃ時々ほのぼのなやりとりが大好きなので、長く続いてほしいものです♪
いつもこのシリーズのオチには驚かされたり笑わせてもらったりしています^^
文子ちゃんと範子ちゃんのはちゃめちゃ時々ほのぼのなやりとりが大好きなので、長く続いてほしいものです♪
Re: ネミエルさん
戦艦の甲板に反重力フィールドとか慣性停止装置とかついてないと結局は激突して死ぬと思います(^^;)
地球程度の重力の星として、三十分かかって自由落下しました。さて、地表到着時の速度はどれくらいになっているでしょうか?
ほれニュートンの運動方程式の問題じゃ。重力加速度=9.8メートル毎秒毎秒として計算してみい。中学で勉強したであろう? 学者になるのであったらこのくらい……(^^)
地球程度の重力の星として、三十分かかって自由落下しました。さて、地表到着時の速度はどれくらいになっているでしょうか?
ほれニュートンの運動方程式の問題じゃ。重力加速度=9.8メートル毎秒毎秒として計算してみい。中学で勉強したであろう? 学者になるのであったらこのくらい……(^^)
Re: 佐槻勇斗さん
はい。ダイソーで買ってきたキッチンタイマーをにらみながら書いてます(^^)
実験だとかライブ感だとかの前に、裏を返していえば、
「30分しか集中力が持続しない」
「30分しか割ける時間がない」
ということですので……(^^;)
「エドさん」とか「桐野」を書くと、同様の執筆量でも3倍くらいかかる時間が違うからなあ。いかにわたしが手を……あわわ。
実験だとかライブ感だとかの前に、裏を返していえば、
「30分しか集中力が持続しない」
「30分しか割ける時間がない」
ということですので……(^^;)
「エドさん」とか「桐野」を書くと、同様の執筆量でも3倍くらいかかる時間が違うからなあ。いかにわたしが手を……あわわ。
~ Trackback ~
卜ラックバックURL
⇒
⇒この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
Re: ひゃくさん