「範子と文子の驚異の高校生活(ギャグ掌編小説シリーズ・完結)」
範子と文子の三十分一本勝負(ギャグ掌編小説シリーズ・完結)
範子と文子の三十分一本勝負:FIGHT・20
「すがすがしい朝ね、文子」
「そうだね、範ちゃん」
そう答えたものの、文子はどうしても疑問をぶつけたかった。
「でもどうして、わたしたちの学校って、朝から放課後なわけ?」
二人以外は無人の教室。
朝っぱらからがらんとしていたら、物寂しさにもほどがあるのではないかと思う文子であった。
「それはね」
範子は答えた。
「それは、きっと神様か誰かがやけくそになって、『朝』にしてしまったのよ」
「だからって……」
文子は頭を抱えた。
「現実を直視するのよ、文子」
範子はそういうと、机の中のものを鞄へ入れ始めた
「どうするの、範ちゃん?」
「え? 放課後だから、家に帰るに決まっているでしょう」
「家に帰るって、こんな朝から家に帰って、いったいどうするの、範ちゃん?」
範子はびっくりしたようだった。
「家に帰ったら、朝ご飯を食べて、宿題をやって、予習をやって、寝るのよ。そのくらい当然でしょう? 高校生なんだから」
「遊んだりしないの……?」
「昼間から遊ぶのはよくないわよ、文子。盛り場なんか行ったら風紀委員か先生たちが見回っているんだから」
「そんな、盛り場なんか行かないよ、範ちゃん。ほかに行くところもやることもあるでしょう、公園行くとか本屋行くとかファーストフードでちょっと食べるとか」
「変なこというわねえ……」
範子は首をひねった。
「なんか、おかしいわよ、文子」
「そうかなあ?」
おかしいのは範子のほうだろう、と文子は思った。
「あっ、そうそう、そういえば」
範子は鞄をごそごそやった。
「借りていた本があったよね」
「本……?」
わたしはなにか貸しただろうか、と文子は自問した。覚えていなかった。
このところ頭になにか霧のようなものがかかっていて思い出せない。
「範ちゃん、わたし、なにを貸したんだっけ?」
「リチャード・マシスンの恐怖SF小説よ。すごく怖かった」
マシスン……。
「『縮みゆく人間』だったっけ、範ちゃん?」
「そっちじゃないわ。『地球最後の男』よ」
「地球最後の……」
文子はそのストーリーを思い出した。
同時に、自分が置かれている現状がわかったような気がした。
「の、範ちゃん、範ちゃん、お弁当はなにを食べた?」
「え? ……決まっているじゃない。真空パックされた、生き血よ。それがどうかしたの?」
文子は歯の根が合わなかった。
自分がなぜ記憶を失い、こんなところにいるのかをはっきりと思い出したからだ。
『地球最後の男』とは、文子の記憶が正しければ、こういうストーリーの恐怖小説だったはずだ。全世界の人間に、吸血性の病気が蔓延して、世界人類が皆、吸血鬼になってしまう……。
「範ちゃん!」
文子は立ち上がった。
「ご、ごめん、わたし、帰るわ。それじゃ!」
「どうしたのよ文子……」
範子の瞳が、はっとしたように見開かれた。
「文子! あなた、血が吸える新人類じゃないのね!」
範子は目を輝かせながら文子に迫ってきた。
「なーんだ、だったらそういってよー。大丈夫、痛くないように咬んであげるから」
「や、やめてよ範ちゃん。わたし、わたしにはそうなりたくないわけが……」
「問答無用よ文子」
範子は舌なめずりをした。
「いただきまーす」
かぷっ。
「範ちゃん……」
首筋に絆創膏を貼った文子は、隣にいる親友の範子に、沈んだ声をかけた。
「だから、いったでしょ? やめてって」
「そうね……」
範子の声も沈んでいた。
「わたし、とうとう思い出したのよ。昨日、なにかの実験で、わたしが『吸血鬼よりももっと悲惨ななにか』になるよう遺伝子レベルから改造を受けたのを」
「そう……」
「そしてそれは、血を吸った人にも伝染するのよね」
「…………」
「わたしがもっと早く思い出して、話していれば、こんなことには……」
「それはもういいけど、いったいこれって、なんなの? せめて変身するのだったら、みんながよく知っているものに変身したかった……」
『かつて範子だったもの』は、その見る影もなく変化してしまった両手に顔を埋め、泣いた。
「そうだね、範ちゃん」
そう答えたものの、文子はどうしても疑問をぶつけたかった。
「でもどうして、わたしたちの学校って、朝から放課後なわけ?」
二人以外は無人の教室。
朝っぱらからがらんとしていたら、物寂しさにもほどがあるのではないかと思う文子であった。
「それはね」
範子は答えた。
「それは、きっと神様か誰かがやけくそになって、『朝』にしてしまったのよ」
「だからって……」
文子は頭を抱えた。
「現実を直視するのよ、文子」
範子はそういうと、机の中のものを鞄へ入れ始めた
「どうするの、範ちゃん?」
「え? 放課後だから、家に帰るに決まっているでしょう」
「家に帰るって、こんな朝から家に帰って、いったいどうするの、範ちゃん?」
範子はびっくりしたようだった。
「家に帰ったら、朝ご飯を食べて、宿題をやって、予習をやって、寝るのよ。そのくらい当然でしょう? 高校生なんだから」
「遊んだりしないの……?」
「昼間から遊ぶのはよくないわよ、文子。盛り場なんか行ったら風紀委員か先生たちが見回っているんだから」
「そんな、盛り場なんか行かないよ、範ちゃん。ほかに行くところもやることもあるでしょう、公園行くとか本屋行くとかファーストフードでちょっと食べるとか」
「変なこというわねえ……」
範子は首をひねった。
「なんか、おかしいわよ、文子」
「そうかなあ?」
おかしいのは範子のほうだろう、と文子は思った。
「あっ、そうそう、そういえば」
範子は鞄をごそごそやった。
「借りていた本があったよね」
「本……?」
わたしはなにか貸しただろうか、と文子は自問した。覚えていなかった。
このところ頭になにか霧のようなものがかかっていて思い出せない。
「範ちゃん、わたし、なにを貸したんだっけ?」
「リチャード・マシスンの恐怖SF小説よ。すごく怖かった」
マシスン……。
「『縮みゆく人間』だったっけ、範ちゃん?」
「そっちじゃないわ。『地球最後の男』よ」
「地球最後の……」
文子はそのストーリーを思い出した。
同時に、自分が置かれている現状がわかったような気がした。
「の、範ちゃん、範ちゃん、お弁当はなにを食べた?」
「え? ……決まっているじゃない。真空パックされた、生き血よ。それがどうかしたの?」
文子は歯の根が合わなかった。
自分がなぜ記憶を失い、こんなところにいるのかをはっきりと思い出したからだ。
『地球最後の男』とは、文子の記憶が正しければ、こういうストーリーの恐怖小説だったはずだ。全世界の人間に、吸血性の病気が蔓延して、世界人類が皆、吸血鬼になってしまう……。
「範ちゃん!」
文子は立ち上がった。
「ご、ごめん、わたし、帰るわ。それじゃ!」
「どうしたのよ文子……」
範子の瞳が、はっとしたように見開かれた。
「文子! あなた、血が吸える新人類じゃないのね!」
範子は目を輝かせながら文子に迫ってきた。
「なーんだ、だったらそういってよー。大丈夫、痛くないように咬んであげるから」
「や、やめてよ範ちゃん。わたし、わたしにはそうなりたくないわけが……」
「問答無用よ文子」
範子は舌なめずりをした。
「いただきまーす」
かぷっ。
「範ちゃん……」
首筋に絆創膏を貼った文子は、隣にいる親友の範子に、沈んだ声をかけた。
「だから、いったでしょ? やめてって」
「そうね……」
範子の声も沈んでいた。
「わたし、とうとう思い出したのよ。昨日、なにかの実験で、わたしが『吸血鬼よりももっと悲惨ななにか』になるよう遺伝子レベルから改造を受けたのを」
「そう……」
「そしてそれは、血を吸った人にも伝染するのよね」
「…………」
「わたしがもっと早く思い出して、話していれば、こんなことには……」
「それはもういいけど、いったいこれって、なんなの? せめて変身するのだったら、みんながよく知っているものに変身したかった……」
『かつて範子だったもの』は、その見る影もなく変化してしまった両手に顔を埋め、泣いた。
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NoTitle
ブリッツさんとこって、MXテレビって見ること出来るんでしたっけ?
水曜日にやってる、仮面ライダーアマゾン。
あれ、無茶苦茶くだらないんだけど、でも、なぜか毎週見ちゃう面白さがあるんですよねー(笑)
よかったらどうぞ(爆)
水曜日にやってる、仮面ライダーアマゾン。
あれ、無茶苦茶くだらないんだけど、でも、なぜか毎週見ちゃう面白さがあるんですよねー(笑)
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- #17613 ひゃく
- URL
- 2016.08/14 17:58
- ▲EntryTop
Re: LandMさん
カレンさんにそんな裏話があったんですか。むしろサングラスはなにか邪眼(悪い意味ではありません)を隠すためだとばかり思っていまして……。
吸血鬼は、やっぱり見せ方だろうと思います。
普通に出したら弱点だらけであっという間にヘルシング博士みたいなヴァンパイアハンターにやられてしまいますもんねえ。
ブラム・ストーカーの古典「吸血鬼ドラキュラ」は、ホラーというよりはむしろ冒険小説で、読んでいてムチャクチャ面白かったです。
わたしの「ナイトメアハンター桐野」に出てくるサングラス姿の女性バーテンダーにも裏設定というか秘密がある(吸血鬼ではない)んですが、完結編の大ネタにするつもりなので今は伏せておきたい(^^)
吸血鬼は、やっぱり見せ方だろうと思います。
普通に出したら弱点だらけであっという間にヘルシング博士みたいなヴァンパイアハンターにやられてしまいますもんねえ。
ブラム・ストーカーの古典「吸血鬼ドラキュラ」は、ホラーというよりはむしろ冒険小説で、読んでいてムチャクチャ面白かったです。
わたしの「ナイトメアハンター桐野」に出てくるサングラス姿の女性バーテンダーにも裏設定というか秘密がある(吸血鬼ではない)んですが、完結編の大ネタにするつもりなので今は伏せておきたい(^^)
NoTitle
吸血鬼か~~~大変な生き物ですね。
そう言えば、私が中学生のころに書いたカレンでは吸血鬼だったんですけどね。デュミナス帝国が製造した最強人造吸血鬼!!みたいな設定でした。今のサングラスはその名残ですね。日光防止です。
……なので、今だに『なんでカレンが勇者なの?』って作者の私が一番思っていると思います。本当にどこをどう間違えるか分からないものですね。
そう言えば、私が中学生のころに書いたカレンでは吸血鬼だったんですけどね。デュミナス帝国が製造した最強人造吸血鬼!!みたいな設定でした。今のサングラスはその名残ですね。日光防止です。
……なので、今だに『なんでカレンが勇者なの?』って作者の私が一番思っていると思います。本当にどこをどう間違えるか分からないものですね。
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