「範子と文子の驚異の高校生活(ギャグ掌編小説シリーズ・完結)」
範子と文子の三十分一本勝負(ギャグ掌編小説シリーズ・完結)
範子と文子の三十分一本勝負:FIGHT・23
「あちょー!」
いきなり繰り出された範子の突きを、文子はぎりぎりでかわした。
「ど、どうしたのよ範ちゃん」
「ジークンドーよ」
範子は机の前で妙な構えを取っていた。
文子はなにが起こったのかわかったような気がした。
「範ちゃん……」
いっても無駄だと思いながらも、文子はいうしかなかった。
「今になって『燃えよドラゴン』は古いと思うよ」
「古典は年代を超えて素晴らしいのよ」
範子は見えないヌンチャクをぶんぶん振り回してでもいるかのように腕を素早く動かしていた。
「古典って……あれ、いつの映画だったっけ。たしかえーと今から……」
文子はいっしょうけんめいにというか、律儀にというか、正直に指を折って数えていた。
「だいたい四十年くらい前の映画じゃなかったっけ?」
「だからいったでしょう、文子。古典は年代を超えて素晴らしく、そして常に新しいのよ。これを温故知新というのよ」
「違うと思うよ、範ちゃん。とにかく、人と話すときはぶっそうだから手を下ろして話してね。そうそう。どうどう」
文子はなんとか範子をなだめた。なだめなかったら殴られかねない。
「とにかく、ブルース・リーよ。アジアの男でいちばんかっこいい人ね」
「……範ちゃんの好みってあんな人だったっけ?」
口に出してから、文子は後悔した。
「い、いや、範ちゃん、範ちゃんが男性に興味を持ってくれただけで親友のわたしは嬉しいよ」
親友の、に力点を置いてしゃべったつもりだったが、範子は簡潔に答えた。
「いちばん好きなのは文子だから安心して」
誰が安心できるか、と文子は思った。
「それにしても範ちゃんが……カンフー映画なんかとは無縁だと思っていたんだけど。わからないものだね、人間って」
「わからないものだなあ人間だもの。BY相田みつを」
ぼそっと範子はいった。
「…………」
「ごめんうそ」
「…………」
「考えるな、感じるんだ」
「変な言葉を持ち出してごまかさないでよ、範ちゃん」
文子は疲れている自分に気づいた。
「それにしても、範ちゃんちの財力から考えて、DVDは全部揃えたんでしょう? 『ドラゴン危機一発』から全部」
「その日のうちに『死亡遊戯』まで全部そろえたわ。当然でしょう」
このハマりようは……やっぱりと思ったが、いざ聞くとすごい。とにかく、今のところはなにがあってもジャッキー・チェンとジェット・リーについて話すのだけはやめておこうと思う文子であった。
「でも、映画があれしかないっていうのは、ちょっと……」
がっかりしたようにしゃべる範子を見て、文子はなんとか場を収拾しようとした。
「世の中そんなものだよ、範ちゃん」
「ねえ、文子、なんかこの手の映画の面白い作品、ほかにないかなあ?」
「う、ううん、わたし、よく知らない」
ジャッキー・チェンやジェット・リーなんて知らない知らない。
そうだ、と文子は思い至った。カンフー映画についての盛り上がりを冷めさせる方法があった。範子が男性に目覚めるのと、自分がカンフーの実験台にされることを秤にかければ、男性に目覚めるのはちょっと待ってもらってもいいだろう。
「そういえば、面白いドラマがあるわよ。『闘え! ドラゴン』っていうんだけど」
「ドラゴン?」
思ったとおりに反応した。
「うん、ブルース・リーに影響を与えた日本人俳優が主演の連続ドラマだよ。範ちゃんきっと気に入ると思うよ」
あの怪しさ大爆発の怪作を見れば、さすがの範子も……。
「ふーん、面白そうね。『闘え! ドラゴン』ね。父に頼んで揃えてもらうわ」
文子はほっとため息をついた。
よし、これで大丈夫なはずだ。
「で、範ちゃん、明日の授業だけど……」
そのときには文子は想像もしていなかった。
明日になったとき、まさか範子が熱心な倉田保昭ファンになってしまっているなどとは!
世の中恐ろしいものである。
南無……!
♪たたかえ~どら~ごん~!(『闘え! ドラゴン』オープニング)
いきなり繰り出された範子の突きを、文子はぎりぎりでかわした。
「ど、どうしたのよ範ちゃん」
「ジークンドーよ」
範子は机の前で妙な構えを取っていた。
文子はなにが起こったのかわかったような気がした。
「範ちゃん……」
いっても無駄だと思いながらも、文子はいうしかなかった。
「今になって『燃えよドラゴン』は古いと思うよ」
「古典は年代を超えて素晴らしいのよ」
範子は見えないヌンチャクをぶんぶん振り回してでもいるかのように腕を素早く動かしていた。
「古典って……あれ、いつの映画だったっけ。たしかえーと今から……」
文子はいっしょうけんめいにというか、律儀にというか、正直に指を折って数えていた。
「だいたい四十年くらい前の映画じゃなかったっけ?」
「だからいったでしょう、文子。古典は年代を超えて素晴らしく、そして常に新しいのよ。これを温故知新というのよ」
「違うと思うよ、範ちゃん。とにかく、人と話すときはぶっそうだから手を下ろして話してね。そうそう。どうどう」
文子はなんとか範子をなだめた。なだめなかったら殴られかねない。
「とにかく、ブルース・リーよ。アジアの男でいちばんかっこいい人ね」
「……範ちゃんの好みってあんな人だったっけ?」
口に出してから、文子は後悔した。
「い、いや、範ちゃん、範ちゃんが男性に興味を持ってくれただけで親友のわたしは嬉しいよ」
親友の、に力点を置いてしゃべったつもりだったが、範子は簡潔に答えた。
「いちばん好きなのは文子だから安心して」
誰が安心できるか、と文子は思った。
「それにしても範ちゃんが……カンフー映画なんかとは無縁だと思っていたんだけど。わからないものだね、人間って」
「わからないものだなあ人間だもの。BY相田みつを」
ぼそっと範子はいった。
「…………」
「ごめんうそ」
「…………」
「考えるな、感じるんだ」
「変な言葉を持ち出してごまかさないでよ、範ちゃん」
文子は疲れている自分に気づいた。
「それにしても、範ちゃんちの財力から考えて、DVDは全部揃えたんでしょう? 『ドラゴン危機一発』から全部」
「その日のうちに『死亡遊戯』まで全部そろえたわ。当然でしょう」
このハマりようは……やっぱりと思ったが、いざ聞くとすごい。とにかく、今のところはなにがあってもジャッキー・チェンとジェット・リーについて話すのだけはやめておこうと思う文子であった。
「でも、映画があれしかないっていうのは、ちょっと……」
がっかりしたようにしゃべる範子を見て、文子はなんとか場を収拾しようとした。
「世の中そんなものだよ、範ちゃん」
「ねえ、文子、なんかこの手の映画の面白い作品、ほかにないかなあ?」
「う、ううん、わたし、よく知らない」
ジャッキー・チェンやジェット・リーなんて知らない知らない。
そうだ、と文子は思い至った。カンフー映画についての盛り上がりを冷めさせる方法があった。範子が男性に目覚めるのと、自分がカンフーの実験台にされることを秤にかければ、男性に目覚めるのはちょっと待ってもらってもいいだろう。
「そういえば、面白いドラマがあるわよ。『闘え! ドラゴン』っていうんだけど」
「ドラゴン?」
思ったとおりに反応した。
「うん、ブルース・リーに影響を与えた日本人俳優が主演の連続ドラマだよ。範ちゃんきっと気に入ると思うよ」
あの怪しさ大爆発の怪作を見れば、さすがの範子も……。
「ふーん、面白そうね。『闘え! ドラゴン』ね。父に頼んで揃えてもらうわ」
文子はほっとため息をついた。
よし、これで大丈夫なはずだ。
「で、範ちゃん、明日の授業だけど……」
そのときには文子は想像もしていなかった。
明日になったとき、まさか範子が熱心な倉田保昭ファンになってしまっているなどとは!
世の中恐ろしいものである。
南無……!
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Re: トゥデイさん
「プロジェクトU」、動画を見たり記事を読んだりしましたが、どう見てもブルース・リーのパロディーではなくジャッキー・チェンのパロディーに見えてしかたがないのですが……。
後半にブルース・リーネタになるんですか?
後半にブルース・リーネタになるんですか?
Re: ネミエルさん
わたしもけーぶるてれびのさいほうそうでしったくちだからなあ(棒読み)
ちなみに最後に挙げた「闘え! ドラゴン」とはこんなドラマでした。ようつべなんでもあるな。
http://www.youtube.com/watch?v=czp1XBv4dHE&feature=related
ちなみに最後に挙げた「闘え! ドラゴン」とはこんなドラマでした。ようつべなんでもあるな。
http://www.youtube.com/watch?v=czp1XBv4dHE&feature=related
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NoTitle
とか言って、ブルース・リーの映画は一本も見たことないけど、その「闘えドラゴン」は毎週見てたなぁ~(爆)