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    「エドさんとふしぎな毎日(童話)」
    探偵エドさん(童話掌編シリーズ・完結)

    エドさん探偵物語:4 赤い手袋

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    赤い手袋



     寒い夜でした。エドさんは、自分の探偵事務所で、がたがた震えていました。ガス暖房機が壊れてしまっていたのです。

    「今日はもうおしまいにするか……」

     立ち上がりかけたそのとき、事務所の扉が大きく開きました。

    「探偵さん、力を貸してください!」

     その声の主を見て、エドさんはびっくりし、あっと叫びました。入ってきたのは、雪だるまだったからです。

    「どど、どうしてわたしの事務所に」

    「だって、ほかの探偵事務所はみんな、暖房がついていて、ぼくが溶けずにいられるのは、ここくらいだったんです」

     エドさんは、相手がとても真剣な表情だったので、話を聞いてみることにしました。

    「ぼくの両手のことなんですが」

     エドさんは、雪だるまの両手を見ました。木の枝の先端に、小さな赤い手袋がつけられています。

    「これが?」

    「この手袋を、持ち主に返してあげたいのです。ぼくは、角の空き地に、今日造られました。枝が差されて両手にされたのですが、リボンをつけた二歳くらいの女の子の手袋を、ちょっと大きないじめっ子が取り上げて、ぼくの手の先につけてしまったのです。女の子は、泣いてどこかへ行ってしまいました」

    「悪い奴がいたものですね。でも、それならば、あなたが動いてその場で返してあげればよかったじゃないですか」

    「雪だるまは、夜にならないと、一人で動けないものなんです。昼間に動く雪だるま、見たことがありますか?」

    「たしかにないですね」

    「今から女の子を捜そうにも、この体では……。お願いです、どうかぼくの代わりに捜してください。手袋を返してくれたら、お礼に、この宝石をあげましょう」

     取り出されたのは、きらきら輝く透明な宝石でした。宿っている冷たい美しさは、まぎれもなくダイヤモンド。雪だるまは本気で女の子を捜したいようです。その誠意に、エドさんはうなずいていました。

    「いいでしょう」

    「ありがとうございます。頼みましたよ」

     雪だるまが去った後、エドさんは、宝石で窓ガラスをひっかいてみました。ガラスには傷がつきました。本物です。泥棒に取られてはたいへんだと、あわてて事務所に置いてある冷蔵庫の、製氷室に隠しました。

     エドさんは、女の子捜しに取り掛かりました。こう見えても本職の探偵です。人捜しはお手の物なのです。次の日には、女の子の家を突き止めることができました。種を明かせば、手袋に小さく名前が書いてあったのを見つけたからなんですけどね。

     家を訪ねてみると、女の子は手袋を見て、とても喜びました。お母さんからいきさつを聞かれたエドさんは、雪だるまが持ってきたという話をしました。不審そうな顔をするお母さんとは逆に、女の子は叫びました。

    「また、雪だるまさんに会いたい!」

     女の子は、いい出したら聞かない子でした。エドさんは、夜になったら、角の空き地まで連れて行くことを約束させられました。

     夜になり、三人は角の空き地へ行きました。そこで見たものは、溶け崩れて、ほとんど元の形を留めていない雪だるまの姿でした。

     女の子はしくしく泣き出しました。

    「泣いちゃいけないよ。完全に壊れる前に君に返せて、ぼくはとても幸せだよ」

     とぎれとぎれで弱々しかったものの、三人は確かにそういう声を聞きました。雪だるまが、しゃべっていたのです。

    「夜は危ないよ。早くお帰り」

     女の子は、涙をふくと、自分の髪のリボンを外して、雪だるまの胸だったところに飾り、「ありがとう」といいました。お母さんは、さらになにか続けようとした女の子の手を引くと、逃げるように去って行きました。
    しばらくして、エドさんも、空き地を立ち去ろうとしたとき、雪だるまはいいました。

    「手袋の持ち主を見つけてくれてありがとうございます。あなたは、ほんとに腕利きの探偵だったんですね。謝らなければいけないことがあります。お渡しした宝石は、確かにただの氷ではありませんが、雪の精のダイヤモンドなので、暖かいところでは、溶けてなくなってしまうのです」

    「そんなことだろうと思いました。別にいいですよ。やりたいことがあるので」

     エドさんは、酒屋に立ち寄り、ウイスキーを一瓶買いました。探偵事務所に戻ると、製氷室から取り出したダイヤモンドをグラスに入れ、上からウイスキーを注ぎました。一口飲むと、えもいわれぬすばらしい味がしました。お金では、とても買えない味でした。

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    ~ Comment ~

    Re: 神田夏美さん

    わたしもこのころは夢のある話を書けたのですが……最近の世相を見てると、ねえ……とほほほ。

    でもこの話は気に入っています。このシリーズのベスト・エピソードだ、というかたもいます。ラストシーン、酒がウマそうに見えたらこちらの勝ちです(笑)

    小説は、時間を取って読ませてもらいますね(^^)

    NoTitle

    こんばんは。久しぶりにこのシリーズを読ませていただきました。動く雪だるまなんてメルヘンですね~。丁度この季節にぴったりのお話でした^^

    雪だるまが溶けてしまったところは切なかったですが、最後に手袋を返せたこと、リボンを飾られたところが胸にじんときました。

    そして結末がとても素敵ですね!雪の精のダイヤモンドでウイスキーとは……!この結末、とても好きです。確かに、お金以上の価値がある贅沢な味がしそうで素敵ですね^^

    あ、あと私信ですが、投稿用小説を送らせていただきました……!
    もしよろしければ読んでやってくださいませm(__)m

    Re: 初音さん

    ありがとうございます。書いた甲斐がありました!

    最初はショートショートのつもりで書いていたこの作品、気がついたらシリーズ三作、総枚数750枚に。

    どうかごゆるりとお楽しみください。

    いちおう「探偵エドさん」と「エドさんと緑の森の家」にはコピー誌ですが同人誌バージョンもあります。矢端想さんのイラスト入り(^_^)

    エドさんのファンです。

    エドさんのお話し とても好きです。

    「雪だるまさんに 会いたい!」って言った時の 女の子の顔が
    目に浮かぶようです。

    ダイヤモンド入りのウイスキーなんて 大人の童話ですね。





    Re: 涼音さん

    この話を書いていたときには、ほんとに詩神が降りてきたとしか思えません。知人にいわせれば、このシリーズ最高傑作だそうであります。(^_^)

    裏を返せばこれ以上の作品が書けていない、というお叱りでもあるので、精進する次第であります……(^_^)

    「探偵エドさん」は51編も書いてしまったので、これからゆっくりお読みくださいね~!

    今晩は。結局こちらを見つけ出せたのでこちらでコメント残します^^

    雪だるまは夜に歩くってファンタジーですね^^
    とっても可愛い話でした。

    雪の精のダイヤモンドなのかぁ^^
    素敵な表現ですね。

    元々あまり飲めないのですが、すっごく薄いウィスキーなら飲めるので、今度私も週末飲んでみたくなりました^^

    Re: ダメ子さん

    ほんとにこういう氷があったらなあ、と思います。

    夢でいいから一杯飲みたい(^^)

    南極の氷でウィスキーを飲むってのを読んで
    いいなあって思ったことあります
    こんな氷があったらそれ以上に楽しそうです

    お酒はまだ飲めないけどw

    Re: YUKAさん

    この話は結末を思いついた時点で、「よし、勝った」と(^^)

    誰に勝ったのだかはわかりませんが……(^^)

    ちなみに、貴重品を冷蔵庫や冷凍庫に隠す、というのはよくある話らしく、聞いた話では、外国のプロの泥棒は、冷凍庫の中にあるかちかちに凍った肉の塊までハンマーでたたき割って貴重品を探すとか……。

    こんばんは^^

    雪だるまは夜に歩く^^
    今回も可愛い話でした~

    私は製氷機に入れてどうするんだ?って思ってましたが。。。
    そうか!酒か~~!と手を叩きました(笑)
    いい味だったでしょうね~

    Re: 有村司さん

    なりたくてがんばってるんですけど次から次へとボツ通知が(^^;)

    世の中そんなに甘くない、ということで……(^^;)

    すいません何度も…^^;

    エドさんシリーズ素敵すぎて、コメントせずに素通りできないんです!
    雪だるまのダイヤ…乙な味だったでしょうね…ポールブリッツさまが何故プロ作家ではないのか?と考える今日一日でした。

    すみません!さっき無記名で投稿してしまいましたので再度失礼します!

    すいません何度も…^^;

    エドさんシリーズ素敵すぎて、コメントせずに素通りできないんです!
    雪だるまのダイヤ…乙な味だったでしょうね…ポールブリッツさまが何故プロ作家ではないのか?と考える今日一日でした。

    Re: fateさん

    深海じゃなくて南極の下層から取った氷です(^^) 一時期人気でしたが、最近聞きませんね。

    それはおいといて、消えていくものを消えていくものとして慈しむのは、どこか仏教の教えを思い浮かばせますね。

    ピラミッドを作るだけが崇高な営みではない、と、わたしも思います。どうせ百万年もしたら、月面の着陸跡を除いては、人間の文明の痕跡なんて全く残っていないでしょうから……と書いてはっと気づきましたが、人間の作りだした放射性廃棄物!! あれは半減期がえーと……まったく厄介な遺産を。とほほほ。

    雪だるまのくれた氷

    何か、どこかで似たような切ない物語を聞いた気がします。
    それから、深海から取った氷が、古代の空気を閉じ込めていて、お酒に浮かべるとぷちぷち、小さなささやきをくれるとか。ちょっとそれを思い起こしました。
    溶けてなくなってしまうものとは、そこに必ず小さなロマンを置いていく気がします。
    そこを拾い上げて物語の乗せる。
    小さなもの、儚いもの、旋律を奏でるロマン。
    消えていくものに惹かれるのは、雪国に生まれた運命ですかね。

    Re: 土屋マルさん

    何度も書いていますが、このシリーズ、もとはJOMOの童話大賞に送るつもりで十篇書いたものの総ボツを食らったものです(^^;)

    そのときのフォーマットが原稿用紙五枚以内、だったので意地で五枚で書き続けています。

    この作品は、草稿を読んだ友人の意見では、このシリーズの最高傑作だそうであります。そういわれると今後はなんとしてでもこれ以上のものを書かなければいけないのでたいへんであります(^^;)

    今後もごひいきにm(_ _)m

    NoTitle

    ポール・ブリッツ様、こんばんは(*´∀`*)ノ

    実はこの間からこっそりとエドさんを拝読させていただいているのですが、いや、どれもとっても素敵なお話で、羨ましいやら憎らしいやら、クスッとするやらホロリと来るやらで、とにかくポールさんってすごい! という認識を新たにした次第です。

    今回は、とっても感動したのでこちらにコメントを(*´ω`*)
    勝手に、「このダイヤ、後で氷と見分けがつかなくなって、エドさんは暖房を直すお金をget出来ないんだろうな(*´∀`*)クスクス」とか思ってたのですが、予想外の素敵なオチ♪
    きっとすごい美味しい極上のお酒だったんだろうなあ。

    エドさん、好きです(*´ω`*)テレ

    Re: ぴゆうさん

    友人の話だとこれがエドさんの最高傑作だそうで。

    その後もがんばって書いているつもりですが(^^;)

    NoTitle

    南極の氷よりクリアで、何より得難い味でしょうね。
    呑めないけど呑みたい下戸のつぶやき・・・
    v-16
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