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    「ナイトメアハンター桐野(二次創作長編小説シリーズ)」
    1 ナイトメア・ハンターの掟(完結)

    ナイトメア・ハンターの掟 1-8

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    第一章(承前)


     アパートで、職業別電話帳を開いた。いわゆるタウンページというやつだ。
     私立探偵のページを開く。あるわあるわ、これだけ探偵がいればこの市から犯罪は一掃されていてもおかしくはない。
     ページを切り取り、探偵の広告をひとつひとつバラバラに解体した後、コタツの上で目をつぶって麻雀パイよろしくよく混ぜた。
     目をつぶったまま、人さし指を高々と掲げて一気に振り下ろす。
     目を開いた。
     指先は、「森村探偵事務所」と書かれた広告を捉えていた。「徹底調査・秘密厳守・明朗会計」という広告文が踊っている。
     探偵事務所を選ぶなんてやったことがない以上、直感と運に頼るしかないが、この広告文が本当ならば頼りがいもありそうだ。
     夜遅かったが、わたしは受話器を取り上げると、電話をかけた。
    『はい、森村探偵事務所です』
    「桐野と申します。人を捜していただきたいのですが、そういうのもやっておられますか?」
    『はい、行っております。電話口ではなんでしょうから、一度こちらへお越しいただいて、お話はそのときにということで』
    「わかりました。ええと、場所は? ……はい。はい」
     わたしは頭に地図を叩き込んだ。
    「それでは、明日、十時に」
    『承りました。では、いらっしゃいましたら、北村、をお呼びください』

     森村探偵事務所は思っていたより大きな建物だった。こんな建物を構えていられるということは、かなり確かな仕事をするのか、かなり悪どい仕事をするのか、それともその両方なのか、だった。
     応接室で出がらしのようなお茶を前に、北村という男がやってくるのを待つ。
     現れたのは、ニュース番組のアナウンサーを数段地味にしたような男だった。まじめ一本で浮気ひとつしないタイプ。これが探偵なのか? と一瞬思ったが、人から秘密を探り出す仕事には、こういう面のほうが便利なのだろう。
    「ええ……桐野さん、でしたね。人を捜してほしい、とのことでしたが」
     わたしは持ってきた例の似顔絵を示した。
    「この人を捜して欲しいんです。できますか?」
    「力は尽くします。コピーを取りますのでこの絵をしばしお貸しください。でも、これだけの手がかりでは時間も費用もかなりかかってしまうでしょう。他になにか手がかりは?」
    「名前はたぶん渋川。偽名の可能性は小さいと思います。住んでいる場所は、きっとT大学病院からさして離れていないところ。もしかしたら最近T大学病院に通院していたかもしれない。それくらいしか手がかりはありません」
     北村はわたしの言葉にメモを取っていたが、やがて顔を上げた。
    「わかりました。やってみましょう。ところで、お聞きしますが、これは犯罪とは関係ありませんね?」
     どきっとした。わたしは言葉を選んで答えた。
    「はい。法に触れることは、なにもありません」
     嘘はついてない。それでも、こう続けざるをえなかった。
    「捜す理由もいわないといけませんか?」
     北村はまじめな表情をわずかも崩さずに答えた。
    「できるならば教えていただきたいですね。人を捜すというのは、その人のプライバシーに土足で踏み込む、ということでもあります。洒落や冗談でできることではありません。もし、万一、洒落とか冗談で捜されているのなら、この仕事をお断りすることも」
    「いいでしょう」
     わたしは、信じてもらうためにはどこまでしゃべるべきかを考えた。結局、こういうだけにとどめた。
    「とある女性が重度の精神病に陥ったのですが、その遠因のひとつにこの男性が関わっているらしいという信頼できる情報があるのです。わたしはそれを確かめたい。確かめるのは実際に会ってからわたしがやりますが、居場所も名前もわからないので」
     北村は表情を変えなかった。こいつはなにを考えているんだろう、と、わたしは思った。
    「けっこうです」
     北村は手帳を閉じた。
    「名前と居所がわかりしだい、連絡いたします。判明しなくとも、一週間単位で進展をご報告いたします。それでいいですか?」
     否やはなかった。わたしはうなずいた。
    「それでは、料金についてご説明いたしましょう。実働一時間につき……」
     北村は数字を挙げて話し始めた。わたしは上を向いて計算しながら、貯金を全部はたけばなんとかなるか……などと考えていた。

     人捜しなどは知識も経験もなかったので、プロの手に完全に任せるしかなかった。
     だが、プロのすごさというものをわたしはすぐに見せつけられることになる。
     連絡があったのはわずか四日後だった。
     銀行で貯金を引き出してから、探偵事務所に向かった。
     北村は深刻な表情をしていた。これが地なのだろうか、それとも本当になにかまずいことが起こったのか、そこからだけではうかがい知ることができない。
     北村は出がらしのお茶をひとすすりした。わたしの前にもお茶は出ていたが、こちらはすする余裕などない。
    「それで……」
    「まあ、落ち着いてください、桐野さん。その男の顔は、これですか?」
     北村はわたしに写真を見せた。隠し撮りしたのだろうか、横を向いた男のスナップ写真だ。
     あの時、夢の中で見た男の顔に間違いなかった。
    「こいつです」
     唾を飲み込んだ。
    「姓名と、住所を」
    「その前に。この男性が、ある女性の精神障害とどうつながっているかについておうかがいしたいのですが」
     北村は静かにいった。
    「いわなければなりませんか?」
    「わたしどもの調査では、この男性と、精神障害を引き起こしたような女性との直接的な接触は一切ありません。桐野さん、あなたは信頼できる情報があるとおっしゃった。それをいくらかでも明かしていただけなければ、倫理的に、お知らせすることはできかねます」
     わたしは迷った。
    「話しても信じていただけないでしょう」
    「お聞きいたします」
     迷った。だが、ここで話さなければ永遠に教えてもらえないのだ。
     肚を決めた。
    「あなたは、他人の夢、というものに、人間が入ることができると思いますか? わたしはそれができるのです。まずはこれを信じていただきたい」
     わたしは個人名を伏せながら、小笠原登志子の夢に入った顚末を語った。
    「……わたしが脱出したとき、その女性の精神は崩壊していました。わたしはその男のことが知りたい。なぜ彼女がそいつの夢を見ていたのか、狂気とはどんな関係があったのかを。それが、わたしができる唯一の責任の取りかただろうと思うからです」
     北村は眉ひとつ動かさずに聞いていたが、やがてぼそりといった。
    「わたしは探偵です。合理主義で飯を食ってきた男です」
    「……」
    「このわたしにそんな話を信じろというのですか」
     長い沈黙。わたしがいたたまれずに口を開こうとしたとき、北村は笑った。わたしも滅多に目にしないような、いい笑顔だった。
    「いいでしょう。信じましょう。人生には非合理も必要だ。それにあなたの心証もシロです。精神科医とは思えないほど、内心が顔に出るかたですな」
     安堵するわたしに、北村は茶を勧めた。冷え切っていたが、渇いた喉にはそちらのほうがちょうどよく、わたしはぐいぐいと飲んだ。
    「この男の名前は、渋川ではなく、静川郁夫といいます。住所その他についてはこの書類に全て書いてあります。先程、精神障害になった女性との直接的な接触は一切ないといいましたね。あれはいわば言葉のトリックというやつで、事実の一部しかお話ししていませんでした。確かに直接の接触はありませんでしたが、間接的な接触と思われるものはかなりあります。この男の行動範囲内で、若い女性が重度の精神分裂症、いや、最近では統合失調症といわなければいけませんね、ともかくそれに陥ったという事例が、わかっているだけで五例あります。それだけではありません」

    …………

    「スナッフ・フィルム?」
     大野龍臣は首をひねったようだった。
    「殺人を扱った性的な映像のことです」
    「それを?」
    「ええ。静川郁夫はそれのマニアでした。コレクションは膨大なものがあったそうです」

    …………
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    ~ Comment ~

    Re: 有村司さん

    捜査もきちんと描きたかったのですが、あいにくと現在の現実の探偵がどういう風に捜査をするかわからなくてギブアップ。

    餅は餅屋にまかせてしまえ、とこういう作者にとってデウスエクスマキナみたいな存在を設定したわけで。

    はい逃げです(^^;)とほほほ。

    それに、医者道まっしぐらだったころの桐野くんが、まともに捜査できたらそれはそれでリアリティがないであります。と苦しいいいわけ……(^^;)とほほほ。

    探偵かくあるべし。

    電話帳で見つけた割に信頼のおける探偵さんで良かったですね。私は桐野さんが自力で調べるものと思っていましたが…。
    昔、探偵志望の知人がいたので「探偵術(ノウハウ)」というのを色々聞いたのですが、随分昔のことなので、今の時代にはそぐわないでしょうね…。

    >佐槻勇斗さん

    まあ話を裏付ける事実があったのが一番大きいでしょうね。
    静川くんはわたしには珍しいストレートな変態さんです。変態さんはリアルに書くのが難しいなあ。

    夢の中に入れると言った桐野さんの言葉を信じてくれた探偵さん、
    偉い、優しい、強いww
    私なら信じ切れないかもしれないです(・Θ・;)
    それにしても静川郁夫……怖、キモ……;;;
    いつも夜に読ませていただいているのですが、腕に鳥肌です。

    これからが楽しみです♪それではまた

    >神田夏美さん

    まあ、よくよく考えてみれば、大学病院近くにいるらしいことはわかっているのですから、電話帳で「渋川」とそれに似た姓の人間をピックアップして(どちらかといえば珍しい姓でしょうから多くても三十人くらい?)、それをひとりひとり似顔絵を持って潰して行けば、プロの探偵だったら半日もあれば行き当たる可能性は高いのではと思って書いたのですが、やっぱり強引すぎたかな。(^^;)
    私立探偵の相場なんて知りませんが、やはり高いんじゃないかなあ。さすがに近くの探偵事務所に歩いて行って聞くわけにもいかないですしねえ。


    作品を読んでいただいてほんとうにありがとうございます。お礼の言葉もありません。
    これから一ヶ月、死ぬ気で書き直してみようと思います。がんばるぞー!

    渋川を自分で探そうとするのではなく探偵に任せるところがさすが現実的ですね。四日でこれほどの情報を集めてくる探偵もさすがです。探偵なんて関わったこともありませんが、探偵料って高いのでしょうね(笑)

    静川のことが徐々にですが明らかになってきましたね。これからの展開が楽しみです。

    業務連絡
    作品読み終えました。拙いですが私の意見をお送り致しましたので、一応ご報告です。
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