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    「ナイトメアハンター桐野(二次創作長編小説シリーズ)」
    1 ナイトメア・ハンターの掟(完結)

    ナイトメア・ハンターの掟 1-9

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    第一章(承前)

    …………

     静川郁夫は夜中になると、しばしば外出していた。
     森村探偵事務所の調査では、最近はとあるコンビニエンス・ストアにご執心だということである。駐車場に車を停めて、しばらく仮眠を取るくせがあるそうだ。
     なにをやっているかの想像はあらかたついた。やつもまたナイトメア・ハンターの能力を持っているに違いない。
     もうひとりのナイトメア・ハンターとの初邂逅が、どうしてこんな形を取らなければならないのだ。
     わたしはそのコンビニで、三つある駐車スペースのひとつに愛車を停め、静川郁夫がやってくるのをじっと待った。
     わたしの愛車は、中古で買った年代物のフォルクスワーゲン・ビートルだ。年代物といっても、ドイツの工場で作られたやつではない。メキシコの会社がライセンス生産したコピーである。あまり自慢できるような車でないのが残念だ。
     今日で張り込みも三日目である。いいかげんにやって来てはくれないか。コンビニで買った歯磨きガムを噛みながら、わたしはいらいらしながら待った。歯磨きガムというのは、ガムを噛んでいるうちに歯垢を除去してくれるという、非常に便利なお菓子である。この便利さに比肩しうるものは、睡眠学習枕くらいのものであろう。いずれも、看板がほんとか嘘かはしらないが。
     車の音がした。
     こっそりとバックミラーを見る。スズキの軽自動車だった。色は赤。
     静川郁夫の車に間違いない。
     隣を盗み見た。乗っているのは一人きりだ。男が車を降りた。コンビニの戸口へ向かって歩いて行く。わたしに気づく様子はない。
     確かに、静川郁夫、わたしが夢で見たあの男本人だった。
     静川郁夫は店内に五分くらいいた後、片手に何かを持って車に戻ってきた。どうやらカップラーメンを買ったらしい。
     眠る前に腹ごしらえをしようというつもりか。くそ。余裕たっぷりにふるまいやがって。
     わたしはガムをくちゃくちゃ噛んだ。もう味なんて完全に抜けている。慰めといえばここまで噛めば歯垢もだいぶ除去されて、まっさらの歯になっているだろうということだけだ。
     向こうはどうやら食べ終わったらしい。シートを倒すのがわかった。
     五分待った。
     わたしはガムを包み紙の中に吐き出して灰皿に捨てると、頭の中に六角形を思い浮かべ、精神を集中した。
     静川郁夫の夢の中へ!
     意識の中でなにかのチャンネルが変わり、わたしは夢へと入った。
     ぼんやりとした世界の中、視界が焦点を結んだ。
     やぶにらみの目と向かい合っていた。
    「待ってたぜ」
     だだっ広く続く草原で、鎧を身につけた静川郁夫が、野太い声でいった。
     手には長剣が握られていた。

    「動くんじゃねえ。動いたら、おめえの身体にこれがぐっさりと行くからな」
    「いつから気づいていた」
     わたしは冷静さを装っていった。精一杯の虚勢だ。相手もそれに気づいているのは明白だったが、見苦しい振る舞いはしたくなかった。
    「てめえは、病院にいた女の夢の中に入ってきただろう。そのときに面を覚えたんだ。今日ここへ来てみたら、いつもの駐車スペースがふさがっているじゃねえか。どんなバカが停めてやがるのかと思ったら、あのときの顔だ。なにしに来たのかは、考えるまでもなかったな」
    「ここは誰の夢だ」
    「おれが入ったのは、白井優希という女の夢だ。このコンビニの隣のアパートに住んでいるOLだよ」
    「なにをしている」
    「その表情だと、わかってるんじゃねえのか?」
    「お前の口から聞きたい」
    「女をいたぶって殺すに決まってるじゃねえか。夢はいい。どうしようとおれの思いのままだ。警察が来ることもねえし、やって来たとしても、おせっかいでまぬけな男だけだからな」
    「夢に入ることはどこで覚えた」
    「覚える? そんなことしねえよ。気がついたら入れるようになってたんだ。おめえもそうじゃねえのか?」
    「生まれながらの野獣というわけか。話し合ってわかるような顔ではないと思っていたが、そのとおりだったようだ」
    「ふざけたことぬかしてんじゃねえ。刺すぜ」
    「その前に、足元を見てみるんだな」
    「その手には乗らねえぜ」
     静川郁夫の目が鋭く光った。
     静川郁夫は足元を見るべきだった。しゃべっている間に、わたしがあらん限りの精神力を込めて物象化させた、猟で使う虎ばさみの罠が奴の足首を狙っていたからだ。
     やつが一歩を踏み出したとき、虎ばさみがその足もとに食いついた。。
     静川郁夫は大声を上げて、足をぶるんぶるん振り回した。
     その隙をついて、わたしは転がりながら散弾銃、ヘッケラー&コッホ・HK502を物象化させた。
     静川郁夫の顔が憤怒と驚愕に歪む。
     引き金を引いた。散弾銃から飛び出した一粒弾(ライフルスラッグ)は、鎧を貫くだけの破壊力を充分に持っていた。
     静川郁夫が身につけている鎧のどてっ腹に開いた傷口から、鮮血がしぶいた。
    「静川。お前は訓練を受けていない。少なくとも、精神力を有効に使う術を知らない。精神力さえ万全に使えれば、作れるものは原始的な武器だけとは限らないのだ」
     わたしは銃を抱えたまま立ち上がり、苦痛にのた打ち回る静川郁夫の頭に狙いをつけた。
    「痛いか。苦しいか。精神が集中できなければ、夢から出ることもできまい。お前が精神的に殺してきた女性たちのことを考えれば、この苦しみでもまったく足りないところだ。だがわたしはお前ではない。ひとおもいに楽にしてやる。いや、本当の苦痛はここから始まるのかもしれん」
     引き金を引き、次弾を見舞った。静川郁夫の頭が、スイカのようにはじけた。

    …………
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    ~ Comment ~

    Re: 有村司さん

    ねー。

    ほんとにいたらいいですよねー。

    そんなあなたもナイトメア・ハンターになる方法があります。

    アマゾンでTRPG「ナイトメアハンター・ディープ」を買ってきて友達も呼んで……なぜ逃げるなぜ逃げる(^^;)

    桐野くんは曲がりなりにも医者ですからちょっとやそっとのスプラッタでは卒倒とかしません(^^;)
    気分が悪くなるだけです(同じじゃん(^^;))

    桐野さん…

    えーマジレスしますと…。

    交通事故後のPTSDで、毎晩赤いゴミ収集車に突っ込んで来られる悪夢を必ず見ている身としましては、桐野さんが本当に居たらなあ…と思ってしまいます。

    さて、お話しのほうですが…桐野さん夢の中では、ほぼ万能なんですね!
    「スイカのようにはじけた」には拍手喝采…でも、そんなもの見たら見たで、私なんぞはPTSDになってしまいそうですが…^^;

    Re: lime さん

    第一章は次で終わりだったのですが、ここまでお読みいただいてありがとうございます。

    夢が舞台なのは、まったくなんといってもこのRPGを作ったかたのおかげであります。二次創作なので人のふんどしで相撲を取っているといっても過言ではなかったりします(汗)。

    わたしはRPGでは、現代ものが大好きで、しかもキャラクターは基本的には普通の人間というものを偏愛しています。とはいえ、人気ないんですよねえそういうジャンル。

    桐野くんは抜けているというよりも自己韜晦癖と自嘲癖が強すぎるんですよねえ。今書いている第4シリーズではほんとにぐにゃぐにゃのマヌケになってしまいますが(笑)。

    第二章と第三章はどちらも独立した短編として読めますが、第四章以降はひと続きの長編ですのでご注意を。伏線がうまく畳まれていればご喝采。

    またいらしてくださいね~。

    おじゃまします。

    まだここまでしか読めていませんが、お邪魔しました~。
    こんばんは。
    長編だというのに、一話ごとにちゃんと引き込むところがあって
    次が気になりますね。
    夢を舞台にしているところも、とても面白いです。
    異世界っていうのは苦手なんですが、夢はぐっとリアリティがあって、未開の場所だし、興味あります。
    一見抜けているようで、ここぞというところで決めてくれる桐野さんも、いいですね。
    続き、また読ませていただきます。

    >佐槻勇斗さん

    まあ曲がりなりにもハードボイルドを標榜する小説の主人公ですから(^^)

    でも桐野くんの戦いはまだ始まったばかりなのでありまして……。

    桐野さんやったー\(^▽^)/←
    精神力のたまものですねww
    リアルすぎる物象化に「おおっ」と驚きました。
    でも、
    >本当の苦痛はここから始まるのかもしれん
    桐野さんの一言、重いですね。。
    これからなにが起こるのか……;;

    また来ます!
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